悪いやつらの仕業でハメられた、ありがとう
告解って知ってるかな?
簡単に言うと、教会に行って聖職者に罪を懺悔して神様の許しを得ること。
生き方のアドバイスをもらうことも多い。
ヘイメルア王国国教の聖バーナード教ではね。
他の宗教ではどーだか、よく知らんけど。
ふつーは人生経験のある年配の聖職者が告白を聞くことが多い。
当たり前だよね。
でも何故かピチピチの十代であるあたしも聞き役になることが多くて。
解決策が具体的でパワフルだから評判がいいって。
例を挙げるとこんな感じ。
『迷える子犬よ。あなたの行動は少々行き過ぎではあるかもしれませんが、常識の範囲を逸脱してはいません。贈り物を捧げ、誠心誠意謝るのです。それで許されないならば相手の責任です。思い煩うことはありません』
『迷える子犬よ。あなたのなあなあの態度は相手を誤解させます。強い態度を見せなさい。勝利条件はいくらでもあるのですから、論破は簡単です。あなたにないのは勇気だけ。神があなたを支えるでしょう』
『迷える子犬よ。素晴らしいですね。おいしいものはそれだけで正義です。何故なら食は生きとし生ける者に必要であり、神の作りたもうた世界に潤いを与えると信じるからです。あたしも食べたい。アタックあるのみ』
言いたいこと言ってるだけなんだけどなあ?
あたし自身はあんまり悩みとかないし、何かあれば実力で黙らせりゃいいだろと考えているので、告解したがる人の心理はよくわかんない。
でもあたしの言うことをありがたがって聞く人が多いと思うと、気分がいいじゃん?
ん? あたし?
一応世界唯一の聖女だよ。
神様に贔屓されちゃって、不思議なパワーが使える美少女なわけだ。
そのおかげで御飯に不自由しなかったり、大体何でもパワーで解決できちゃったりするので、神様には感謝している。
だから聖バーナード教のさまざまな奉仕作業に参加するのにやぶさかではない。
ま、聖女ともなると、その存在にプレミアがついちゃったりするわけだよ。
ヘイメルア王国だけでなく、各国で下へも置かぬもてなしだったりするし。
どうぞ我が国においでくださいっていう誘いも多い。
いや、旅行くらいならホイホイ行って愛嬌を振りまいてくるけどさ。
聖座を我が国に移しませんかって言われることもあるわけよ。
最初聞いた時意味がわからんかったけど、要するに引っ越してこいということだそうで。
ヘイメルアはあたしの生まれた国だし、知り合いも多いし、引っ越す気はないんだよってあちこちで言った。
ところがヘイメルア王家が神経質になっちゃって。
仮にあたしがどっか行っちゃうと、聖女が見捨てた国になるわけだから。
ヘイメルア王国がバカにされちゃうということらしい。
ちょっと許されん事態ではある。
言われてみればもっともだけど、いい国だったら見捨てはしないわ。
そう王様にも言ったんだけどな。
信用されてないみたいで、あたしは第一王子オーウェン殿下と婚約ってことになった。
オーウェン殿下は王子らしい王子でさ。
キラキラしてるっていうタイプじゃなくて、落ち着いていて歳に似合わぬ重厚さがあり、さすが王族って感じ。
チャラチャラしてるやつよりも好感が持てるな。
あたしは好き。
ただオーウェン殿下があたしのことをどう思っているかはわっかんないんだよなあ。
あたしは可愛いけれども、平民でがさつなところあるしな?
殿下にもよく言葉遣いやマナーを注意される。
えっ? 告解の時みたいな真面目な喋り方にすればいいって?
でもそれは婚約者の距離と違くない?
もっと素のあたしを気に入ってもらいたいんだけどなあ。
ムリかな?
おっと、告解部屋に信徒が入ってきたみたい。
お仕事だお仕事。
「迷える子犬よ。神の前で悩みを正直に告白しなさい」
堂々と、いかにも信頼できそうと思わせる声でゆっくりと語りかける。
あたしもお仕事に対しては真面目だ。
何故ならプロの聖女だから。
「はい。僕には婚約者がいるのです」
品が良さそう。
若そうなのに婚約者がいるとなると貴族かな?
とゆーかこの声……。
「婚約者ですか」
「はい。僕の婚約者は神に認められるほどの力を持ち、また大変な人気があるのです」
やっぱオーウェン殿下じゃん!
告白してる相手があたしだって気付いてないのかな?
気付かないわな。
告解の時のあたしは、意識して低い声で丁寧に話しているし。
誰かと交代するのがいいかと思った。
けどこれあれだわ。
大司教のじっちゃんか、あるいは王妃様あたりの計略じゃないかな。
殿下の悩みを聞けってゆーイベントを仕掛けてきたに違いない。
どうやら殿下の悩みってあたしについてみたいだしなあ。
もう、悪いやつらは何を企むかわからんな。
仕方ない。
婚約者の本音を拝聴しようじゃないか。
「続けてください」
「僕は婚約者のことが大好きなのです!」
うおああああ!
何これ? どんな羞恥プレイ?
いやこれ告白の相手があたしと知れたら、殿下のほうが恥ずかしいやつだわ。
殿下の名誉のためにも絶対にバレないようにしないと。
「婚約者なのでしょう? 真っ直ぐな愛は神の推奨するところ。何も悪いことはありませんよ」
「同時に僕は婚約者に嫉妬してしまっているのです」
は?
何言ってるんだかわからねえ。
どーして殿下があたしに嫉妬するのよ?
「嫉妬ですか。嫉妬は確かに神の好まざる感情ではありますが」
「ち……僕の婚約者は本当にすごくて。太陽みたいに明るくていつも自信に満ち溢れていて。それが実力に裏づけされているのです」
オーウェン殿下にこんなに評価されているとは知らなかったぞ?
メッチャ恥ずかしい。
あたしも常々オーウェン殿下は存在感のある人だなあと思ってたけど。
ずんずん好感度上がるわ。
「本来婚約者が優れているなら喜ばなければいけないのに……」
「嫉妬してしまって、その感情にあなた自身が振り回されてしまっていると?」
「はい。つまらないことで文句を言ってしまったりする自分が嫌なのです」
いや、あたしの言葉遣いやマナーはなってないからね?
殿下の言ってることは正しいってば!
「先日のパーティーではちょっと注意したらぷいと横を向いてしまって、喋ってくれなくなったのです。嫌われてしまったのかと……」
違う!
口の中がごちそーで一杯で喋れなかっただけ!
そんなことで殿下が落ち込んでるとは。
世の中何を誤解されてるかわからんな。
しかしオーウェン殿下全然悪くないのに。
とゆーかあたしのせいじゃん。
困った困った。
これあたしの答えがメッチャ重要になったぞ?
「悩めし子犬よ。あなたは正しいのです」
「僕が……正しい、とは?」
「はい。あなたが婚約者を嫉妬しているのならば、それはすなわち能力を認めているからに他なりません」
「認めているから……」
「認めることこそが重要なのです。正しく連れ合いを認識できないから起こるすれ違い、落胆、憎悪の何と悲劇的なことか」
「……なるほど、わかる気がします」
しめしめ、殿下ったら納得しかけてるぞ?
さて、ここからどうやって丸め込もう?
「でも僕は……」
「嫉妬してしまうというのは、まだ婚約者だからだと思われます。結婚するとまた話が違います」
「どう違うのでしょう?」
「ベターハーフという言葉を御存じでしょうか?」
「はい。良き伴侶を自分の半身に例えた言葉ですよね」
「その通りです。おそらくあなたは婚約してから日が浅いのでしょう。婚約者を認めるところまでは行っていますが、ベターハーフの域にまで到達していないのだと思われます」
「そうか、結婚する頃には……」
「時間が解決する問題ですね。右手が左手に嫉妬したりはしませんから」
「ああ、目の前の霧が晴れたようです!」
よし、説得は成功だ。
めでたしめでたし!
「婚約者に寄り添うのです。さすれば理解は深まるでしょう」
「わかりました。ありがとうございました」
「道を見出した子犬に祝福あれかし!」
殿下は出ていった。
ふひー、ムダに疲れたわ。
時間だから今日のお仕事はお終いだな。
御飯食べに行こーっと。
「聖女様」
「あ、ナオミさん。お疲れ様でーす」
告解部屋から出たところで、修道女長のナオミさんに会った。
ナオミさんはいつもニコニコしている、とってもいい人。
「聖女様、告解の当番でいらしたのでしょう?」
「そうそう。そしたらオーウェン殿下の話を聞くはめになってさ。ナオミさん何か聞いてない?」
「大司教様と王妃様が、オーウェン殿下の告解を聖女様に当てるって仕組んでましたよ」
「うわ、二人の共謀だったのか」
じゃあ逃げ道はなかったな。
悪いやつらめ。
今頃ニヤニヤしているに違いない。
「聖女様のことですから、無事解決なのでしょう?」
「うん、でも婚約者の心の内を聞くって、いたたまれない気分になるじゃん?」
「でもオーウェン殿下も聖女様に聞いてもらってると、理解していましたでしょう?」
「えっ、何で?」
そんなわけないじゃん。
わかってたら殿下もあんなにボロボロ本心隠さず話すわけないでしょ。
どーしてナオミさんは殿下があたしと理解してたなんて思ったのかな?
「だって本物の祝福が漏れてましたよ」
「マジか」
最後の祝福か。
祝福の聖句は色々あるけど、神力を乗っけて本物の祝福を行えるのは聖女だけなのだ。
キラキラして奇麗なの。
でも告解部屋には壁があるから、神力が乗っちゃってたのに気付いてなかったわ。
「オーウェン殿下、俯いて顔を赤くして裏口へ急いでいらっしゃいましたもの」
「マジか」
完全に聞いてたのがあたしだってわかっちゃったやつじゃん。
やべーな。
「うわー、恥ずかしいわ。次どんな顔して殿下に会ったらいいものやら」
「うふふ。聖女様がそう仰るのは珍しいですね」
「だって気まずいじゃん」
「自然体でよろしいのでは?」
「自然体?」
どゆこと?
今でも自然体で困ってるんだが。
「聖女様はオーウェン殿下のことをお好きでいらっしゃるでしょう?」
「うん、好き」
「今日の殿下の告白を聞いてどう思いました?」
「ますます大好きになったね。オーウェン殿下いい男」
「でしょう? 私どもにとっては聖女様の思いはわかりやすいです。でも付き合いの浅いオーウェン殿下はそうでないでしょう?」
あたしが殿下をどう思っているか、殿下は知らないだろうということを、ナオミさんは言いたいんだな?
考えてみりゃ政略中の政略婚約ではあるし。
オーウェン殿下があたしのことをどう思っているか、あたしもさっきまで知らなかったし。
「……そーか、あたしが好き好き光線を浴びせ足りなかったとゆーことか」
「聖女様は魅力的で可愛らしいですから、誰もが好きになっちゃいますよ。でも殿下は聖女様にどう思われているか、ずっと不安だったでしょう」
「おおう」
ナオミさんも言うなあ。
とゆーか殿下とあたしの関係がどうかということは、皆の関心事だったか。
各方面に心配かけちゃってたみたい。
大いに反省だな。
「素直に、遠慮せずにいればいいと思いますよ」
「そーだな。オーウェン殿下が王族だからって、あたしも遠慮しちゃってたわ」
「恋人同士の距離でいいですよ」
「りょーかいでーす」
「今、西庭園のアザレアが見頃だそうですよ。少々距離がありますけれど、聖女様なら飛行魔法でひとっ飛びでしょう?」
「うん、殿下連れてデートしてこ」
ナオミさんがニコニコしてら。
周りの皆のおかげで殿下との距離が近くなる。
これが幸せに包まれるとゆーことだな。
あたしの名前?
言ってなかったっけか。
聖女チワワだよ。
最後までお読みいただきありがとうございました。




