【第一話】《栄光の証明》
※この作品群は、すべて「ある世界」の物語で構成されています。
バラバラな断片に見えるかもしれませんが、実はすべてつながっています。
ピースが揃ったとき、物語の輪郭が見えてくる仕掛けです。
「これって、もしかしてあれと…?」
そんな気づきがあったら、ぜひコメントで教えてください。
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新作にはなりますが、私の書いている全てのエピソード(他の作品も含めて)は、全て同じ世界観の中で起きた事になります。
さて今回の話は、燠歴3338年に大事件が起こることとなりますが
このエピソードはそれよりも少し前
人類が霊術を信奉し、依存し、濫用し、
そんな頃の話です。
「この地に霊術があったからこそ、我らは神代を越え得たのだ――そう、神すらも!」
宋厥第五院の南側広間。 苔むした玉座の正面、重霊石を幾重にも積み上げた壇上に、灰青の袍をまとう老霊官が立っていた。 その手には、儀環――幾百の霊を繋いできた古き導具――が握られている。
光も音も、壇上のその一点――老霊官の周囲に集まり、空間ごと引き寄せられているようだった。
「聞け――魂の声を! 見よ――霊の輝きを! それを術と名付け、我らが民は、この塵常界に秩序をもたらしたのだ!」
声は語りではなかった。 それは歌い、吠え、咆哮しながら天蓋の梁を揺らす、霊気を帯びた演武そのものである。
「霊術は、祈りでも、夢でもない。 それは選ばれし者が、魂に手を入れ、世界を刻むことを許された―― 『神の残滓』にして、人が人のままに神を継ぐ、唯一の術なのだ!」
壇下には若者たちがいた。 霊術士見習い、地方の庶官、制度を学びに来た聴講生たち。 誰もが手に記録符を握りしめ、口を噤み、ただ耳を開いていた。
「災厄を断ち、予兆を封じ、死を繋ぎ、魂を秩序へと還す―― 見よ、術光は都市を巡り、霊路は天に連なり、封印は地を貫いている! この系統こそが、我ら宋厥! 千年を以て積み上げられし、人の叡智と霊の体系である!」
老霊官の声に、震えが混じっていた。 それは衰えではない。 声に宿るのは熱ではなく、狂喜にも似た歓喜だった。
霊術とは希望ではない。救済でもない。 それは「すでに得た勝利」だった。
「神代は遠く、天命はすでに我らの手中にある! ならば、この国こそが――魂の終着点。 この宋厥こそが――霊術に見初められた、唯一にして最終の器なのだ!」
静寂。 響き渡った声の余韻が、広間の柱を巡り、壁を這い、天井を打ってなお残っていた。
若者たちは誰一人として言葉を発しない。 ただ、正面に立つ老霊官の姿を、まぶたを見開いたまま記憶に刻もうとしていた。
その中のひとりが、列の端でそっと息を吐く。 表情は変えぬまま、壇の奥――閉ざされた石扉へと視線を向けていた。
老霊官は最後に、壇上の石盤へと手を添える。 盤面の霊文がぼうっと浮かび上がり、彼の掌と同調して脈動を始める。
「忘れるな。魂を用いるとは、命を削ることではない。 ――それは、永劫に価値を刻むということだ。 この国は、魂を用いたからこそ、ここに在る!」
広間の霊灯が一斉に強く明滅し、 次の瞬間、闇のような沈黙がすべてを包み込んだ。
ご覧いただきありがとうございます。
この時代のこの世界には、こういった思想が蔓延していたのでしょうか。そしてそれは世界にどんな影響を及ぼすのか…そんなのを次回に書けたらいいなと思います。
ではまた。
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