足のネイルをまじまじと見られるってとっっっても恥ずかしいですわ!!
「なななな、なんですの?」
渡会くんの顔が近いですわ。はっきりとした二重瞼の下、大きな瞳がわたくしを捉えて離さないですわ!
「ここの壁、小さな穴が空いてる」
「は、え? 壁? 穴?」
「うん、ここに何かが……あ、上の方にも小さな穴がある」
渡会君、わたくしを見つめていたのではなくて後ろの壁を凝視していただけですの!? じゃあ、わたくしの人生初の壁ドンは、き、気のせい?
「あ、あら本当ですわね。ここから出られるのかしら」
平静を保って言ってやりましたけど、本当は心臓バクバクですわ。
い、いえ、いいえ! 決してときめいてるとか、ドキドキしているというわけではありませんわ!
ただ、わたくしは高貴な立場でありますから、たぶん殿方たちが……遠慮なさって言い寄ってきませんわ。
だからこんなにも殿方に密着を許した事はありませんのよ。
「上の穴を見たいけど、ちょっと高すぎるな。鳳月さん、僕が肩車するから確認してくれない?」
「え、えぇッ!? 肩車ですの!?」
「うん。あ、大丈夫だよ。こう見えて僕、妹たちをしょっちゅう肩車してるから、落とさないよ」
「そそそそ、そういう問題じゃありませんわ!」
思わずスカートの裾を抑えて叫びますわ。
そんなはしたない、殿方の肩に足を広げて跨るような真似絶対に無理ですわ!
「じゃあ、僕の肩に足を乗せて立つのはどうかな? 壁を支えにできるから安定感はあると思うけど」
「でも、わたくしあまり運動が得意では……」
「このままじゃ僕たちここから出る事ができない。大丈夫、僕が絶対に鳳月さんを落とさないよ」
ドキッーー。
な、なんですの? 今の渡会君、雰囲気がいつもと違いましたわ。胸が高鳴って、苦しくて、ちょっとドキドキしますわ。
「わ、わかりました。やってみますわ」
「ありがとう! はい、いつでもいいよ」
壁の方を向いて体勢を低くする渡会君。ローファーと靴下を脱いで、一応屈伸運動を少々。
「あの、裸足で失礼致しますわよ」
「うん」
恐る恐る渡会君の華奢な肩に足を掛けましたわ。渡会君がかなり低い体勢で、肩を平行に保ってくれたおかげで、わたくしでもすんなり立つことができましたわ。
わたくしが壁に手をつき安定したのを確認し「それじゃあ、立ち上がるよ」と動きだします。
「わ、渡会君! できるだけゆっくり立ち上がってくださいましね!」
「うん、鳳月さん大丈夫?」
「な、なんとかですわ。あ、これが例の穴ですわね」
確認したその小さな穴からは、僅かに気流を感じ、外……少なくとも別の空間に繋がっている事はわかりましたわ。だけど、穴が小さすぎて覗いても何も見えません。
「どう? 何か手掛かりは……」もう少し調べようとしたところで、渡会君が上を向く気配を感じましたわ!
「きゃあッ!! ちょっと渡会君! わ、わたくしスカートですのよッ! 絶対に上を向かないでくださいましね! どこか適当なところを見ていてください!」
「あ、と、ごめん。適当なところって言われても…………あ。鳳月さん、浅葱色のネイルがとても素敵だね」
「え? え、えぇ。昨日施術していただいたばかりですわ。夏ですし、清涼感ある色合いをと」
「へぇ、やっぱり女の子は細かいところまで気に掛けてて偉いよね。妹たちもそのうち強請ってきそうだなぁ。ラメも凄い上品で鳳月さんに似合ってるね」
思わず力んで、指を丸めてしまいます。
こんなにまじまじと素足を見られることなんてありませんわ。
褒めていただけるのは悪い気はしませんけど、照れくさいですし、やっぱり恥ずかしい。
よ、汚れとか付いていなかったかしら? お手入れしてもらったばかりだから大丈夫なはずですけど、肩に乗る前によく確認しておくのでしたわ!
「それで、どう? 何か手掛かりはありそう?」
「え? あ、ええと……いえ、たぶん、特にはありませんわ」
渡会君のせいで集中できませんでしたけど、秘密のスイッチがあって壁が開く、みたいなことはなさそうですわね。
床に降り立ち、ネイルを確認。ほっ、汚れ一つない綺麗な状態で一安心ですわ。