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【本編完結・書籍第1巻発売中】本当の娘が帰ってきたので養女の私は消えることにしました  作者: 佐藤真白


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curtain call 果たされぬ約束の花火

皆様、大変ご無沙汰しております。

なんやかんやと忙しくさせて頂いておりました。


今回は、スピカ幼少期の年越しを書かせていただきました!時系列的にはスピカがデビューした年の大晦日です。


ちょっと次期外れではありますがお楽しみ頂けると幸いです。

帝国で花火といえば冬の風物詩だ。

帝国の歌劇で花火と表現があればそれは年越しの描写なのだと帝国臣民ならば誰もが思うほどにそれは当たり前であり、楽しみにしている事柄だ。




「痛い!フレット足元には気をつけてくれ」

「わりいアレク兄、暗いし狭くてつい…」

深夜の薄暗いサンルームの中で会話が聞こえる。

どうやらアレクの足をフレットがうっかり踏んだらしい。


「全くフレットは相変わらずだね、もう少ししたら料理長が軽食を出してくれるそうだから気をつけておくれよ」

父マスキーが苦笑しながら言った。


「はーい」

ややブスくれつつも素直にフレットは返事をする。

スピカと母は共に床に寝そべりながらクスクスと笑って見ている。


そう、床に今日は家族が寝転がっているのだ。


此処はエメンタール帝都本邸のサンルームの中である。

今日は大晦日、時刻は深夜の10時は過ぎた頃だ。


このサンルームは全面がガラス張りとなっている為に、寒いこの季節外に出る事無く夜空を眺める事が出来る。

そして今夜は一年で一度の花火を観る日なのだ。

皇城から打ち上げられる花火は皇城から程ない我が家で見るには近すぎる。真上を見上げるように眺めなければならないので、いつからかサンルームにフカフカのラグを敷きクッションで埋め尽くし、部屋着でゴロゴロしながら軽食を片手に夜空に上がる花火を観る事が我が家の恒例の年越しとなっている。


「父上、母上はワインですか?」

私もワイン片手にその輪の中へと入る。父はサイドテーブルにあるグラスを差し出したので私は白のワインを注いだ。

「あぁ、カイン。ありがとう。お前も今日は飲むんだね?」

「此処のところカインは全然家にも帰ってきていなかったから本当に家族全員揃うのは久しぶりね」

母はガラスの湯気の立つカップを持っている。香りからしてホットワインだろう。母の声色は少女のように明るい。


「流石に年越しくらい家族と共にしますよ」

思い返せば私自身研究室に篭りっぱなしで最近家に帰っていなかった事を反省する。


久しぶりに帰って見たら、騎士科に通うフレットは一回り大きくなった気がするし、学園に通い出したスピカは益々綺麗になっている。アレクは相変わらず飄々としているが体の調子は大丈夫だろうか…。


私が靴を脱ぎラグに転がれば隣にスピカが寄ってきてくれた。

「お兄様、学園の課題で教えてほしい事があるの。新年のお休み中に教えていただける?」

「あぁ、勿論さ」

つい昔の癖で頭に手が行って思い直す。もう彼女もデビューをした立派なレディーだ。どうしたものかと思っていれば、彼女は何故撫でてくれないの?と言わんばかりの顔だったのでそっと撫でる。

「もう、お兄様!私ももう立派なレディですのよ」

可愛く抗議されても先ほどの顔を見てからは笑うしかない。


程なく湯気の立つ小鍋といくつかのバスケットの乗ったワゴンが運ばれてきた。


これは我が家の年越しの定番、チーズフォンデュだ。

バスケットを覗き込めば、茹でたカルトッフェに人参やブロッコリー、焼きたてのバゲットを一口大に切った物やウィンナーや燻ベーコン、大ぶりのエビやらが綺麗に盛られている。

小鍋からは薄い黄色のソースが沸々と小気味良く音をたて、その芳醇で濃厚な香りは食欲を暴力的なまでに刺激する。

年末年始の間は市も店も殆どが閉まっている。農民ですら田畑へはこの10日は通わないと聞く。その為生鮮食品などは少なく、保存が出来る物が食卓にのぼるのだ。

その中でも保存の効くチーズとすり下ろしたカルトッフェに白ワインを加えて煮たたせ、パンや根菜、保存食ともなるハムやソーセージを付けて食べるこの料理は料理長自慢の品で冬のご馳走である。



我先にと手を伸ばしたのは育ち盛りのフレットだった。

「お兄様ったらそんなに急ぐと火傷をしますわよ」

スピカが注意するのも聞かずフレットは熱いチーズで早速火傷をしたようで忙しなく口をハフハフと動かす。

呆れつつも優しい妹は氷水を差し出している。それを受け取った末弟は一気にグラスをあおり、家族全員に笑われている。


あぁ、久々の感覚だが悪くない。

そっと自分のグラスのワインを喉に流し込めば甘い香りが鼻腔をくすぐりキレのある余韻が喉を潤してくれる。果実酒らしい程よい酸味と渋味が心地よい。

どうやら今年のワインは当たりらしい。


そのまま家族と同じようにチーズのたっぷりと入った鍋に大ぶりの燻ベーコンを潜らせて口に運ぶ。少し強めの塩気の奥に仄かに葡萄の香と香燻が憎らしいほど酒を誘う。

しばし遅めの夕飯と家族の団欒の刻だ。


時刻は後半刻もしたら新年になる頃だろう。

ふと一瞬、空が明るくなる。


「いよいよ始まったね、花火」

そう言ってアレクはクッションに横になりブランケットで暖をとる。

スピカにそっとブランケットを差し出すのも忘れていない。


家族全員が天井を見上げる。

この国で花火とは他国で最近出回っている火薬を使用したものではない。皇城にて魔導士達が打ち上げる魔法によって夜空を彩る物が花火なのだ。


それぞれ魔法属性がわかる魔法が夜空に大輪の花々を描く。

焔で出来た大輪のバラ。金の魔法だろうマリーゴールドは夜空に煌く花畑を散らした。土の魔法も負けてはいない。遥か空の彼方から堕ちてくる礫は火球となって菊花を形作る。繊細な聖力の制御が必要な匠の技だ。氷の花は綺麗な六花模様を模ると一拍のあと細かな雪となってふわりふわりと輝きを散らして舞い踊る。

私達はそんな色とりどりの花火を静かに、しかし心の内で興奮しながら楽しんでいた。


「また来年も、再来年も、その次もずっと一緒にこうして花火が見れたら素敵ですわね…」


そう呟いたのはスピカだった。花火は音を運ばない。だからしんと静まり返ったサンルームにそのささやかな願いはよく響いた。


「来年は一緒に見ることは残念ながら出来ないな…」

妹の願いを否定したくはないのだが事実は伝えなければ酷だろう。


「なんでだよ、カイン兄!それにそんな酷いことスピカに言ってやるなよ!」


本当にこの弟はよく吠える。寝転がっていた身体をガバリと起こしたフレットの頭を小突くようにして制する。話はちゃんと最後まで聞け。


「来年からは私は皇城で花火を打ち上げる側になるんだよ。だから一緒に見るのは今年で暫く最後になるだろうね」


私の言葉に一番に反応したのは意外にも母だった。


「まぁ、それは名誉だわ!なんでもっと早く教えてくれなかったの!」


赤らんだ頬のままに私の頭を抱き寄せ撫でてくる。この歳になると流石に恥ずかしい。直ぐに母の腕の中は辞退した。


年越しの花火に参加出来るのは本当に一部の選ばれた者だけなのだ。今年参加している師が来年を最後に引退をする。その後任として私は指名を受けたのだ。世襲でも指名制でも無いが師の強い希望や適正なども鑑みて私にと正式に白羽の矢がたった次第である。そして来年は引き継ぎとして参加が打診されているのでほぼ確定の名誉である。


「流石兄さんだね、おめでとう」


「来年が今から楽しみだな、カイン。私はお前のような息子を持てて誇らしくおもうぞ」


「マジかよすげー」

家族も口々に祝いを述べてくれた。


そんな中で1人だけスピカが浮かない顔でいる事が気になった。


「スピカは喜んではくれないのかい?」


「とても喜ばしいことですわ…でもちょっとだけ残念さがあるのです。こうやってご一緒しながら花火を眺めるのが最後だなんて思っても見なかったんですもの…」


どうやらまだ心の整理がつかなかっただけらしい。


私はそんな妹が愛おしい。胸に込み上げる温かな感情のままに寝そべる妹の頭を撫でた。

彼女は微睡の中の猫のように一瞬ビクリとしたがそのまま私の手を払うことはない。


「暫くは難しいけれど、もっと時間が経ったら…その時は私達も新しい別な家族を連れてここに集まって花火を観よう。アレクだってきっとドナーが現れる。フレットだって気立のいい嫁が隣にいるかもしれないし、スピカも母親になっているかもしれないね」


「えぇ、そうですわね!また家族揃ってこの花火をご一緒しましょうね!」


私の言葉にスピカは笑顔になる。


「貴方はその前に自分のお嫁さんをきちんと考えなさい!」

母から叱責があった。どうやら藪蛇だった。


またサンルームは笑いに包まれる。

そろそろ花火もフィナーレだ。

年跨ぎの鐘の音と共に特大の光が夜空を覆う。皇族の光魔法による花火で新年の祝福だ。木魔法も組み込まれたそれは夜空から淡い光を放つ花弁を帝都に振り散らせ今年も幻想的だ。


「「おめでとう!今年も皆に女神の祝福がありますように」」


皆の声が重なる。



あの約束が果たされる日がついぞ来ないなどと、この時の誰も思っても見なかった。








老齢の魔導士は空を見上げる。

近くでは孫達があの時の自分達のように花火を楽しんでいる。

あの時と同じようにラグに自由にくつろぎ、鍋を囲みながら…。


あの時の約束は果たされぬままになってしまった。


有限だからこそ、このひと時が美しいと私は知っているのかも知れない。


間も無く新しい年がやってくる。

老いて上げる側を辞してから見上げる花火は後何度見られるものか…。


「お祖父様、来年も一緒に花火を見ましょうね!」


不意に一番末の孫娘が声を掛けてくれた。


年跨ぎの鐘が鳴り、辺りは一段と明るく昼と間違えるほどに鮮明になる。


「あぁ、約束だ。今年も来年も一緒に花火を見よう」


暗くなった室内で孫娘が笑んだのがわかった。


この約束だけは絶対に守らなければいけない。

カインはそう心に誓った。




果たされぬ花火の約束 終


前回の投稿から随分と間が空いてしまいました。

お待たせして申し訳ございません。


そして、ついに!ついに来週4月25日にコミックシーモア様から本作の書籍第一巻が発売されます!第二巻は5月25日発売予定です!コミックシーモア様限定の書き下ろしが各巻に付いて六巻刊行で毎月発行予定となります!

近日中にはコミックシーモア様の予告ページへと掲載されるそうですので、是非表紙のヤナギヨミ先生のイラストだけでも覗いて頂きたい!本当素敵に綺麗なイラストなんです!表紙のスピカは寂しそうな感じなんですけれど、内容はスピカの愛され幼少期な第一巻です!

加筆もあり、ちょっとだけなろう版とは異なった設定になっています。

毎月何かしらは投稿したいなと思いつつ、書籍化以外にも色々とあり、執筆が遅くなっておりますがのんびりと楽しんでいただけたらと思います。

私事ですが、喉風邪が3週間程続いております…今年の風邪は喉で長引くとの事ですので皆様もお気を付け下さい。



佐藤真白


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― 新着の感想 ―
2つめの約束も天寿で果たされないのかな、とタイトルを見ながら思いつつ、考え過ぎかな、と考え直すのでした。
てっきり平衡世界の話で新しく物語が始まるのかと思った。
投稿ありがとうございます。 再会はできたけれど、約束は果たされなかった。 カインはスピカを見送る側だったのか見送られる側だったのか。 辛い別れが多かったスピカを見送る側にいてくれたらいいな、と願って…
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