フレット視点 1
俺は兄貴達みたいに要領良く物事が出来ない。
勉強は嫌いだし、貴族の義務やらマナーやらの堅苦しい事は苦手だ。
三男坊だから期待もされて居なければ時間もかけてもらえない。
元来の気質なのか俺は小さな頃から癇癪持ちの暴れん坊だったみたいだ。
そんな俺はある時から暴れん坊から騎士へとクラスチェンジした。
妹が出来たんだ。最初生まれた妹は会う前に攫われたらしくて、しばらく家中が暗かった。母様も父様も今まで以上に会えなくて俺は荒れた。暴れ散らす事をすぐ上のアレク兄にはよく馬鹿にされた。
初めてみた妹は絵本の中のお姫様みたいだった。明るい光のさすベビーベットで真っ白なドレスを着て愛らしい微笑みをうかべていた。なんか、よく分かんないけどちゃんとしないとあの可愛いお姫様の近くにいちゃいけない気がした。
それから俺は暴れ回ることはしなくなった。
そんな暇があったら妹の側にいてやりたかったから。
俺達が近くに居るだけで妹のスピカはご機嫌だった。赤ちゃんの笑顔ってそれだけでモニョモニョした気持ちになる。上手く言えないからモニョモニョだけどあったかくってむずむずして、ドキドキだった!
スピカを護るためにはどうしたらいいか、家の騎士団長に聞きにいった。
「若は元気が良いので剣術を磨いてはいかがですかな?剣がふるえれば近くでお嬢様をお守りできるやも知れませんぞ!」と言われた。
俺は難しく考えるのが苦手だからその日から剣術の稽古を始めた。性に合っていたのだろう。兄貴達も剣術を習っていたが、いつの間にか兄弟の中で俺が1番になっていた。
妹もあっという間におっきくなって、ヒヨコのように俺の後ろを追いかけてきてくれて、やっぱりモニョモニョした。顔がニヤけてしまう。俺はこの小さな生き物に夢中だった。
庭で見つけた団子虫も、ツルツルの石も、魔蝶の羽も宝物だったけど妹にやった。
何度かは泣かれたけどお姫様は「にーちゃ、ありがとう!」と笑ってくれた。だから俺は「スピカの好きなもの、好きそうなもの全部集めてプレゼントしてやる!」って言ったら「スピカも、にーちゃたちのしゅき、いっぱいにするのー!」なんて言ってくれてやっぱりモニョモニョだ。
スピカはやっぱりお姫様のように大きくなっていった。俺とは違って物覚えも良いし、優しくて気配り上手だ。
俺が剣術稽古で訓練場にいると、侍女と一緒に来たスピカがタオルと飲み物を持って駆けてくるのが見えた。ところが、俺のところまであと数歩の位置でスピカは躓いてしまった。俺は反射的にスピカを抱き抱え、転ぶのを阻止した。
「走ってきたら危ないだろ!怪我はないか?」
スピカは大きな目をパチパチと瞬かせてから「怪我はありませんわ!お兄さま、絵本の騎士さまみたいでカッコイイです!」俺はニヤけ顔が止まらない。「じゃぁ、俺はスピカの騎士になってやる。スピカをあだなすものはこの剣で薙ぎ払い、この盾でその身を守ってやる!」俺は右の腕を胸の前に叩いてみせた。
スピカはふふふと上品に笑うと「頼もしい騎士様ですわ」と言ってタオルを差し出してくれた。
6つも過ぎて幼女から少女になった妹は兄の目から見ても見目麗しい。友達から紹介しろと言われる事が一度や二度ではなくなってきた。
そんな雑多な有象無象は腕っぷしで黙らせてきた。
何かあってからでは遅いと思い、父とも相談して護身術と乗馬を教え始めたのもこの頃からだ。
体を動かす事は最初不慣れもあったがスピカの筋はよく段々と上達して半年もしないうちに遠駆けが出来るくらいまで乗馬は上達した。護身術は人を傷つける事が可哀想だと思うらしく、本当に自衛程度のことが出来る程度だった。7歳の誕生日に馬を贈ったらとてもびっくりされた。俺の持ち馬の中でも美しい栗毛の牝馬でスピカがテミスと名付けて可愛がっていた馬だ。自分でも可愛がっていたがスピカの為なら惜しくなんかない。
他の兄弟とスピカが戯れているのは正直面白くないが、きっとスピカは俺のことを1番信頼してると思えば溜飲が下がった。他の2人は騎士のようにスピカを守ることはないのだから。