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平穏の終焉

「さて、詳しくもう一度お話をお聞きしましょう。ステラ嬢よろしいかしら?」


そこは小さな部屋で机と椅子があるだけの部屋でした。

普段は生徒の相談事や軽微な事務作業で使われるような部屋に通された私達は、少し間を空けて横並びに座り、反対側にはネフェル先生が座っています。


隣のお姉様は下を向きつつ話し始めます。


「お兄ちゃんにもらった腕飾りがなくなったんです。金のチェーンに紫の宝石の腕飾りです。今日が初めての登校だから家族からもらった物を身近に置いてお守りにしたくて持ってきました…」


ネフェル先生は両手を組み、その上に顎を乗せた姿勢で話を聞いており視線と頷きでお姉様に続きを促します。


「腕飾りは鞄の中に入れてました。来る時の馬車の中で一度手に取ってからしまったので間違いありません。到着してからはスピカが持ってくれるっていうから任せました。入っていたロッカーも鍵がかかっていたし、なくなってるんだものスピカが盗ったとまではいかなくてもなくしたんです!だから私…動転してしまって…」


お姉様の瞳は再び潤み始めます。よっぽど大切な物だったのでしょうが私はいわれのない事柄に不快感が募ります。


「状況はわかりましたが、スピカ嬢を疑う前に他の心当たりはお探しになりましたか?それ以前に大切なものが入っているとスピカ嬢に伝えましたか?」


「いえ…探してないし、伝えてませんでした…けど、大事なものが無くなってたら疑わしい人に声をかけるじゃないですか!それにスピカはこれ以前に私の大切なものを盗っているんですもの…」


この言葉に私は何を言われているのか本当に分からなくなります。お姉様に譲ることはあってもお姉様から何かを取り上げたりまして盗むような事をした覚えは私にはないのですから…


「ステラ嬢、スピカ嬢には前科があるとおっしゃるのね?では何故そのような素行の者に大切な物が入った鞄を任せたのです?」


「そんな!先生、スピカは私から盗ったなんて思ってないんです!それに、家族だからこそ任せました。だからこんな事になるなんて本当に私信じられなくって…」


嗚咽を漏らして泣き始めるお姉様からはしばらく何も聞き出せないと悟った先生は私の方へ質問を向けられます


「スピカ嬢からも説明を望みます。」


「はい、ネフェル先生。朝の登校時馬車から降りられたお姉様より鞄を託されました。その後学園長先生のもとまでご案内し、一度鞄をお姉様へお渡ししようとしましたが、預かるように頼まれたため事前にお預かりしていたお姉様用の鍵に仮登録を行ってロッカーへと預けました。その際鞄を落としたり開けたりなどは致しておりません。学園長室より退室後はどこかへ立ち寄る事もなく先程の控え室まで向かいました。万が一落ちているとすればその道すがらになるかと存じます。」


「そうですか…ステラ嬢は先程貴女に不利益を受けた旨の発言をしていましたが心当たりはありますか?」


私は手を強く握りしめ発言の声が感情で震えないように言いました


「誓って身に覚えがございません。」



しばしの思案の後で先生は口を開かれた

「事実として紛失物が出てしまっているので対応はいたします。一度スピカ嬢の荷物は改めさせて頂きます。」


こんなにも無実の罪で疑われるというのは苦しいのだと身を持って痛感しておりますとまた声がかけられます。


「スピカ嬢、そんなに気を落とす物でもありません。貴女に咎がない証明になる事でもあるのです。本当に罪がないのであれば堂々としている事も今後求められますよ」


そう言われ「はい」と答えましたがしっかりと音になっていた自信はありません…


その後私の荷物は広げられましたが腕飾りは見つかるはずも御座いません。身体検査として制服のポケットも確認されましたが同様です。


その頃になるとお姉様は「盗られたのではなく落としたのかもしれない」と主張を変えられ、先生立ち合いのもと私達が通った道を探す事になりました。


同時に拾得物としての届けが出ていないかの確認と魔術科へ連絡して失せ物の捜索をお願いする話があがりましたが、お姉様がまずは自分で探しますと言って辞退されました。



そして学園長室から出てすぐの中庭と廊下の境近くでお姉様の腕飾りは見つかりました。

「あった!見たかったわ!」

捜索を開始して本当にあっという間で呆気ないほどに直ぐお姉様が見つけられました。


近寄ってみればお姉様の手中には金細工の細いチェーンに紫の石が品よくあしらわれた腕飾りが収まっています。


「やはり窃盗ではなく不慮の事故でしたか…他の生徒に見つかってややこしい事になる前に見つかってよう御座いました。」


「本当によう御座いました…こちらに落ちていたという事は私の不注意でしょう…お姉様、申し訳ございませんでした」

私が頭を下げればお姉様は「見つかったからいいよ」と頭を上げさせます。



コホンと咳払いの後、ネフェル先生の指示で先程の部屋まで戻るとこれからはお説教タイムでしょう


「まず、ステラ嬢には登校初日から災難ではありましたが4つほどご指導致します。

一つ、先ほども述べましたが校則を破り高価な私物を無断で持ち込んだ件。このようにトラブルが発生した場合被害額が高額になったり、貴族間の軋轢になりかねない為です。今後持ち込みをする場合は事前に申請をして下さい。」


「はい、気を付けます」


「一つ、事実確認もなく人を疑う行為は品性に欠けます。特に貴女は育ちの影響もあり周囲から目があるのです。騒ぎたてて今回は貴女にとってもよくない事です。次回何かトラブルがあった場合は教師に相談なさい。」


「はい…そうします」


「一つ、いまだにスピカ嬢に謝罪がないようです。不用意に咎をかけたのです。故意ではないのはもうお分かりですね?無事に失せ物も見つかったのですから謝罪をなさい。」


「でも、故意にあそこに落とした可能性もありますよね?」


お姉様は私に謝りたくないのか食い下がります。


「スピカ嬢は皇帝と守護者様方に誓われております。これはこの国の貴族としては最上級の誓いです。それ以上いうのは名誉を侮辱するのと同等なのですよ?

それと、そろそろ貴族流の言葉遣いを覚えるように。貴女の言い回しはとても帝国貴族としては看過できません。」


そして渋々ながらお姉様は「スピカごめんね、私も悪かったわ」と謝られた。


あまりにもあんまりな謝罪ではあったが姿勢だけでも謝罪されたので私も受け入れる…もっとも私が落とした可能性も高いので受け入れる他ない。


先生もこれで手打ちとして解散を促す。退室する間際私だけ呼び止められ「お気を付けなさい」とだけ忠告を受けた。



その後は予定通り校内の案内をして回り、昼食を挟んで一通りを紹介しました。


途中何人かの生徒に何があったのか聞かれたけれど

「ちょっとした行き違いです!何でもないんですよ」とお姉様の一声でだいたいは引き下がって下さいました。

声がけ下さった方々はお姉様と話す口実欲しさでしょうから明日からはもっと問い合わせが増える事も覚悟いたしました。



そうして事件後の日程は滞りなく終わり、私はお姉様が乗った馬車を見送り1人になるとこっそりと涙を拭いました。淑女の涙は無闇に人に見せる物ではありませんので1人になるまではと堪えていたのです。





寮に戻ればシャーシャに捕まりました。

「パール!ひどい顔よ…騒ぎがあった事は知っているから詳細を教えて頂戴な」


と半ば引きずられるように彼女の部屋へと連れられました。

彼女が入れてくれたお茶に一息つくと私は今日のあらましを語りました。


「何だか少しおかしい気が致しますわ…まるでパールを貶めるよう動かれてるみたい…」


「シャーシャもそう思う?私も何だかそんな気がしていたの…」


「少なくとも教室の一件は見ていて気持ちの良い物ではなかったですもの」


少なくとも私を知る友はおかしいと思っていた事に救われます。


しばらくの会話の後私も勇気づけられ彼女の部屋を後にしました。


「明日からは一層気を引き締めなければね…」

「そうね。でも貴女の築いてきたものはそんなに簡単には崩れないと思うわ」


彼女は最後まで私を気遣って励ましをくれました。






しかしながら物事というのは上手くは回らないものでその日から少しづつ私の周りは変わって行きました。



具体的に言えばお姉様を信奉する方々と私を信じてくださる方の対立が始まってしまったのです。




私を信じてくださる方々は昔からのお友達や上流貴族が多く、何かと言いがかりをつけてくるお姉様のお友達を制して下さいます。


対するお姉様のお友達は下級貴族や低学年の生徒、事業で成功された商家の出身の方が多く、悲劇的な人生を送られてきたお姉様に同情的な正義感の強い方々ばかりです。




私はお姉様と対立したい訳ではなかったのですが何故か学園内で対立する構図になってしまいました



どうやら私はあちら側から見れば、養女のくせに本当の娘として帰ってきた無垢な娘を平民育ちだからといびる悪女なのだそうです…


私が何を言っても聞く耳を持ってはいただけず私は困惑するばかりの日々となりました。



それまでの平穏な学園生活は終わりを迎えたのです



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