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古薔薇の憂鬱
深夜の邸に灯は少ない。
数少ないあかりの灯る部屋の一室に一組の主従がテーブルに対面で座りお茶を楽しんでおりました。
上下関係の厳しいこの世界で主人の前でお茶が出来るのはよっぽど豪胆な者か気心のしれた腹心のどちらかでしょう。そして彼女は後者でした。
この邸に来て30数年、この主人に仕えては50年は超えております。
「それで、あの子の様子はどうでしたか?」
主人は老齢の腹心に訊ねます。
「少しばかり気落ちされていましたよ。お可哀想に。」
老侍女の声には非難の色が浮かんでいます。
「そう言う事ではなく資質の話です。」
わかっていますよと言わんばかりに「勿論お有りですよ。だからこそ試されているのでしょう?」とお茶のおかわりを注ぐ。
「器量よく、機転も効き、教養もあのお年では優秀すぎるくらいです。心根もお優しくあります。血筋が難点とはなりましょうが、あの聡明さと聖力の強さ、色を見ても候補には上がってくる事でしょう。」
「そう…今から覚悟をしなければならないわね…」
エメンタール領領主館の一室で前伯爵夫人フランチェスカは大きな溜息をついた。