慰問旅行〜キイワ城客室にて〜
私に用意された部屋は2階へ上がって直ぐの南庭に面したお部屋でした。程よく西陽が差し込む室内は淡い赤と白を基調としたお部屋で可愛らしい印象の素敵なお部屋です。家具も小花や蝶のあしらわれたシースルーのサテンレースが立派な天蓋付きベットや猫足のドレッサーなど、お姫様のお部屋のようでした。
きっといつもは外国の要人のご令嬢や奥様をお迎えするお部屋なのでしょう。
少し1人になりたいと使用人に伝え荷物が運び込まれた部屋のソファーに身を沈め、私は1人考え事をしていました。
先ほどの挨拶は何がいけなかったのでしょう。何がお祖母様を怒らせてしまったのかしら…馬車旅の疲れで背筋が伸びていなかったのかしら…それとも裾捌きが甘かったのかしら…考えても考えても答えは出ません。
それに何故私だけお祖父様、お祖母様とお呼びしてはいけないのでしょう…私は未だに家族と認めていただけていないのでしょうか…
漠然とした不安が私を包みます。
それに何故私だけ上の階のお部屋ではなかったのでしょう。
先ほどの兄様達に言い訳たように確かに足腰に疲れがあるので2階の直ぐの部屋で有難くはありましたが、私だけ…一人だけこの階にいることがなんだか寂しくなってきてしまいました。
私が前にこの領地へ来たのは2歳の時の事でしたので覚えは薄いのですが、お母様と手を繋いで寝たような記憶が朧げにあります。と言う事は同じ階で寝ていたのでしょう。
なぜ?どうして?と考えてはみるのですが分からないことに答えを見出すのは容易ではありません。
帝都の屋敷にお祖父様とお祖母様がお越しの時にはこんな対応をされてはいなかったと思います。確かにお祖母様は厳しい態度ではありましたが間違ったことを言うわけでも辛く当たるわけでもなかったのです。
途中から嫌われている理由なんて血の繋がり以外に思い付かなくなってしまいました。
そんな時、昔お母様が仰っていた「『どうせ』とか『私なんか』なんて言葉を使って傷ついて欲しくないの。」の言葉を思い出しました。
私の出自は今更変えることなど出来ませんし、私はそれに対して負い目もありません。私を愛してくれる家族を愛しています。
それに、お祖母様は意味のない事や間違った事をわざとするような人柄ではなかったはずです。今回のこともきっと意味のあることなのでしょう。
そう思いいたると少し気持ちは落ち着いて来ました。
気づけば空には、黄昏の雲が靡いておりました。