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13. 警報


 結界の外枠へ足を一歩踏み出したゴブはそこで止まっていた・・というよりも動けなくなっていた。

 さっきまでの冒険者の罠にかかったわけでも育った故郷から離れる事に躊躇したわけでもない。


 「――――ッ」


 今、小指の先を少しでも動かせば()()()()()()()()()()()()からだ。

 恐怖で身体は小刻みに震え、息をする事も忘れ、大量の汗が滝のように溢れ落ちていく。


 (なんだ・・なんなんだ、あれは・・ッ)


 横目に視線を向けると、そこにはゴブと同じように全身真っ黒なフードを被ったナニかが立っていた。

 人間のように二足歩行で身長もゴブと変わらない人間の子供サイズ。

 しかし、近くで立っているだけでも分かる段違いの魔力量にナニかの周囲だけ重圧が倍に圧し掛かってくるようだ。


 「・・・」

 (う、動いた・・!)


 ゴブが気付いてからも動く気配がなかったナニかはゆっくりと足を前に出して結界の外枠へと踏み入れた。

 すると、一瞬にしてナニかの周囲のみ結界が粉砕して穴が開いた。

 結界はB級以下であれば簡単に侵入する事は出来ない。

 B級、もしくはA級に近い魔獣類であればすぐにギルドが冒険者を派遣して討伐依頼を申請する仕組みとなっている。

 だが、ナニかのように結界を粉砕、もとい破壊する形は結界そのものが拒絶しているのにも関わらず簡単に侵入した事となる。

 つまり、ゴブの目の前で結界内に侵入したナニかは魔獣・魔族のA級以上のランクという事だ。


 (ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッ!! あれはヤバイ!)


 ゴブは震える身体を必死に力を込めて、今すぐに村の方へ走り出そうとしていた。


 (こんな化け物を結界にいれちゃダメだッ! あれがナニかは分からないけど、兎に角村の皆を避難させないと!!)


 動け、動け、動けと何度も頭で体に命令するが、足はすくみ全身に力が上手く入らない。

 忘れていた呼吸も小刻みに何とか出来る様になったがそれでもいつまで意識が持つか分からない。


 (動け! 頼む! 皆をあれから逃がさないとッ!!)


 そうしてナニかが完全に全身を結界内へ入りきった時。


 「おい! いたぞ! まだ結界内にいる!」


 さっきまでゴブを討伐しようと追いかけていた冒険者の1人が追い付いてしまった。


 「ん? おい、あのゴブリンの隣にいるのはなんだ?」

 「見た目そっくりなフード被ってるし仲間じゃないか?」

 「しかし報告ではあのゴブリンに同種族の仲間はいないはずだったが・・・」


 次々と合流してきた冒険者達が集まりゴブの隣にいるナニかを警戒していると・・・。


 「全員ッ!! 逃げろぉぉぉぉぉおおおおおッ!!!」


 ゴブの叫びと共に、集まった冒険者達は吹き飛ばされた。

 何が起こったのか理解できない。

 冒険者がどうなったのか分からない。

 それでも見えた景色は、森林で満たされた樹木は消滅。

 あるのは何もなくなった地面だけだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆


 ――同時刻。

 花火も盛り上がり、観客の歓声が溢れ出た頃合いエルとドーワフはラランに渡されたクエスト用紙に頭を抱えていた。


 「うそ・・うそよ。 ジジィがそんな、ゴブの討伐を依頼するなんて」

 「おいおい。 相手はゴブリンだぞ? なんであんな存在の為にエルフの嬢ちゃんがそんなショック受けるんだ?」

 「当たり前でしょッ! ゴブは家族なんだからッ!!」

 「家族? ゴブリンが?」


 ラランは涙目に訴えるエルに怪訝な視線を向ける。


 「いいか嬢ちゃん。 お前が今まで一体あのゴブリンの何を見てきたが知らなぇが、魔族と人類は相容れない存在なんだ」


 魔族は人類の敵。

 極悪非道で人に仇成す醜悪な生物。


 それは大昔の御先祖たちから現代の子孫まで言い渡された常識。

 例外はなく、長い歴史をも見ても今までに人類と魔族が手を取り合う時代など存在しない。


 「お前の所の爺さんも理解してたんだよ。 育てた事に関しては善意だったが、ゴブリンが育つにつれて恐ろしくなってこうしてギルドへ依頼したって所だろ」

 「ちが――」

 「違うッ!!」


 エルが否定しようとした時、隣で静かにクエスト用紙と見ていたドーワフが大声で叫んだ。


 「お爺さんはそんな事思った事ないしゴブの事も相容れいない存在じゃない! 何も知らない癖に勝手な事言うな!!」

 「ほぉ~? だったらこのクエストはどう説明するんだ? 依頼主の名前にはお前らの育て親である爺さんの名前もキッチリ記載されていて服装の特徴も一致している」

 「それ、は・・・」

 「それに何度も言うがあれはゴブリン、魔族だ。 極悪非道で人類に仇成す醜悪な存在。 あれが特例で多少人間の言葉を流暢に喋れてただけだが中身は他の魔族と変わらないおぞましい生物、敵だ」

 「――ッ!」


 ラランに睨め付けられ上手く言い返す事が出来ないドーワフは睨みつける事しかできず、エルはただただ涙を目に貯めて放心するしかできなかった。


 「おい! どうした! 応答しろッ!」


 そんな時、ラランと同行していた冒険者が何やら慌てた様子で通話している事に気付いた。

 

 「おい、どうかしたか?」

 「それが、さきほどゴブリンの子供を発見したと報告があったのですが、何故か突然通話が切れたんです」

 「なんだ? ただの電波不良だろ。 機械なんてもんに頼ってるとよく起きるじゃねぇか」

 「はぁ、ただ通話が切れる前に少し気がかりな事が」

 「気がかりィ? 何が?」

 「その、終盤で向こうが会話していた内容が『なんだあれ』『ゴブリンの仲間か』と会話した最後に大声でゴブリンの子供が()()()と叫んだような・・・」

 「・・・なに?」



 ピピィーッ!

 ピピピィーッ!!



 突然とララン達が持つ端末から高い警告音のような物が鳴り響く。

 すぐに画面を表示させると、そこから何やら緊迫したような声で女性の声が聞こえてきた。


 『セントラルに所属する全冒険者に伝達! 至急、S級A級の冒険者はライセンス端末を所持した上で指定された場所に収集せよ。 これは訓練ではない。 繰り返す。 これは訓練ではない。 ギルド項目第18条に則り、セントラル結界内にS級ランク魔獣、もしくは魔族が侵入警報を発令。 冒険者は忠地に指定された場所へ収集せよ』

 

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