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罪の記憶7


「ん?」


 いつも通り登校していた女川透は、自分の下駄箱に一枚の長方形の紙が入っていることに気付く。下駄箱の中に覚えのない紙が入っているという状況に、わずかに動揺する。


 改めて見ると、それが便箋である事が分かる。薄いピンク色で統一された便箋からは、どこと無く女の子っぽい雰囲気を感じ取る。


 今の状況だけ見れば、まるで女子からラブレターを貰った一人の男子生徒のようである。しかし、俺は騙されない。こんな風にラブレター風の便箋に入っているが、実際はタダのクラスの業務連絡とかそんなオチだろう。


 こういうのは、出来るだけ酷い展開を事前にイメージしておくのが一番いいのだ。そうすれば、とりあえず期待を裏切られたり、ショックな事があってもダメージが少なく済む。


 さて、手紙の中身を拝見しますか……。


『拝啓、女川透様。

今日の昼休み、校舎3階、視聴覚室で話があります。貴方が来るのを一日千秋の思いでお待ちしております。

     白雪真代』


 手紙の差出人は俺の元恋人、いや恋人ですらないか……。差出人は俺の知り合い、白雪真代からだった。なんか、やたら固い文章だな。


 白雪……いったい俺に何の話しがあるというのか?


 確かに小さい頃はよく一緒にいたものだが、近頃はほとんど接触することは無くなっていた。一緒に登下校したのは小学生以来無いし、二人きりで話したのも思い出すのが難しいくらい昔のように思える。


 白雪には俺という足枷も無くなった事だし、思う存分、彼氏なり友達なりを作って青春を謳歌してもらいたい。


 白雪のような美人なら友達も恋人も作り放題だろう。まだ白雪は中学生。青春を楽しまないと損というものである。レッツ青春である。


 白雪からの手紙……。


 白雪を騙る誰かのイタズラという線も考えたが、手紙の最後に書かれている白雪真代という字の特徴は間違いなく、この手紙が白雪の手によって書かれた事を示している。


 昔、一緒に勉強していた時によく見た白雪真代の書いた文字だ。白雪と交流が無くなって久しいが、確かに俺の記憶にある白雪の文字と一致している。


 なんの用があるかは分からない……。


 しかし、会ってみるくらいはしてみるか。手紙の中を見てしまった以上、内容を無視して平然と過ごすという選択肢は憚られた。


 気軽な気持ちで白雪に会う事を決めた女川透。しかし、この時の軽はずみな気持ちが自分を追い込む事になるとはまだ知らない。


 女川透の預かり知らぬところで悪意は着実に近づいていたのだ。






ーーーーーーーーーー






 昼休み。

 手紙で白雪が待つといっていた時間だ。場所は校舎3階の視聴覚室。この時間なら生徒がいることはほとんど無い場所だ。


 さて、当の白雪はというと、昼休みになるなり教室を出ていってしまった。やはり、手紙に書かれている通り、視聴覚で俺が来るのを待つつもりなのだろうか。


 俺になんの話があるかは分からないが、教室を出る前の様子を見るに、大した用事ではないのでは無いかと予想する。


 教室を出る前の白雪は、特に緊張している様子は無く、これから大事な話をしようといった雰囲気ではなかった。そんなに深く考えずに、視聴覚室に向かっても問題ないかもしれない。


 もし、大事な話があるならもう少し緊張感が表に出てくるはずだ。それなのに白雪は、緊張どころか俺と目を合わせても特に顔色を変えることは無かった。


 そうと分かれば、さっさと視聴覚室に向かうとしよう。


 俺は視聴覚室に向けて歩みを進める。






ーーーーーーーーーー






 3階へと続く階段を登り切り、俺は視聴覚室の扉の前に立つ。視聴覚室の窓は、外から中が見えないように加工が施されており、中の様子は伺えない。


 物音も特に聞こえることはなく、視聴覚室に人がいるかは中に入って見てみないと分からない。



 この中で白雪が待っているのか……。



 俺は意を決して、視聴覚の扉を開ける。

 しかしーー


「アハっ! 女川君、待ってたよ……」


 ーー中に待っていたのは、白雪真代ではなく、クラスメートの初瀬凛であった。


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