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罪の記憶6


 片桐くんに透の事を相談した翌日の朝。白雪さんの署名を貰いたいという事で私は片桐くんに会うため、早朝に登校していた。


 待ち合わせ場所は図書室。普段から人が少なく、今回のように誰にも邪魔されずにじっくり話したい時にはちょうどいい場所だ。


 図書室の扉を開けると、中にはすでに住人がいた。透の冤罪を晴らすべく、共に協力してくれている人物、片桐くんだ。


「おはよう、白雪さん」


「おはよう、片桐くん。それで署名は?」


 朝の挨拶を済ませると、私は早速、今日の用件について尋ねる。私はとにかく、早く透の事を何とかしたくて堪らなかった。


「ハハハ……。そんな急がないでよ白雪さん……。ほら、署名の用紙ならここにあるよ」


 そう言うと、片桐くんはカバンから何十枚かの紙の束を取り出した。片桐くんはその中から一枚を私に手渡す。


「はいこれ」


「ありがとう」


 渡された紙の内容を一通り見渡す。


「…………」


 間違いなく、透の無実を訴える人間を集めるための署名用紙だ。透がしたと思われている行為に対して、署名した人間が冤罪だと訴えることを認める内容だ。


 この署名用紙にサインしてくれる生徒をたくさん集めれば、透の無罪を証明できる!


 それに……もし私が透を助けたって事を知れば、透がもう一度、私のことを見てくれるかもしれない。


 浅ましい私のちょっぴりの願い。現実はそんなに都合よくいかないかもしれない。でも、この瞬間くらいは願っても許されるだろう。


「それじゃ、署名をお願いできるかな、白雪さん?」


「えっ、ええ」


 片桐くんの声で私はハッとする。まだ、署名を集めたわけではないのだ。たくさんの生徒からの署名という大きな障害を乗り越えないことには、透の無実を晴らすなど、とてもではないが言えない。


 署名を集めて初めて、透の無実を晴らす第一歩が始まる。それまでは、気を抜くわけにはいかない。


 私は改めて、気合いを入れ直す。


「ここに署名すればいいんだよね」


「うん、お願いするよ」


 署名用紙の名前の欄に白雪真代と記していく。これでとりあえず、一人分の署名が集まった。大人に訴えるためには、まだまだ必要な数には達していない。


 それでも、今自分が透のために動いているという事実に昂揚する。透と別れる事になったあの日以来、透のために何かしてあげるという事も無くなった。久しぶりの感覚に私は嬉しくなる。


「はい、失くさないでね」


「もちろんだよ」


 私の名前が記された署名用紙を片桐くんに渡す。


「そういえば、片桐くんはもう署名したの?」


「もちろん、ほらココに」


 片桐くんがカバンの中から一枚の紙を取り出す。その紙には間違いなく、片桐くんの名前がサインされていた。


 よし。ひとまず、これで2名分の署名が集まった。片桐くんと私の署名用紙を見せれば、何人かが賛同して署名してくれるかもしれない。


 それでも、賛同も反対もしていない中間の人間、全員の署名を得るのは難しいだろう。そこからは、片桐くんと私で一人ずつ説得していくしかない。


 地道な活動にはなるが、遠回りは一番の近道と信じて努力するしかない。


「片桐くん、一緒に透の無罪を証明しましょう!」


「うん、女川くんの無罪を証明しよう」


 再度、片桐くんと一緒に透の冤罪を晴らそうと誓うのだった。私に見えないようにほくそ笑んでいた片桐くんに気付く事なく……。






ーーーーーーーーーー






「ククククク…………」


 白雪真代が去った図書室。

 たった一人でほくそ笑む男が一人。


 さっきまで人の良い笑顔を浮かべていたはずの男子生徒、片桐颯太は普段を知っている者が見れば、別人かと勘違いされる程に悪い笑みを浮かべる。


「まさか、こんな簡単にいくとはね……」


 白雪真代の名前が記された署名用紙を見つめながら、クツクツと片桐颯太は笑う。


「一見すると、ただの署名用紙……。でも実は……」


 まるで種明かしをするマジシャンのように、片桐颯太は怪しい口調で、署名用紙の名前の欄をつまむ。


「こっそり上に重ねられた紙を捲れば、あら不思議、白雪真代の名前だけが残った紙が出来るってわけだ」


 片桐颯太がつまんだ紙を勢いよく捲ると、下からは《白雪真代》とだけ書かれた一枚の紙が残る。


「これさえあれば……あの計画を実行できる! ……フハハハハハハハ!!!」


 誰もいない図書室に、片桐颯太の高笑いがこだまするのだった。


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