罪の記憶5
「片桐くん……だよね?」
「ッ!」
透のことが心配だった私は、さっそく休み時間に片桐くんに話しかける。片桐くんは私が話し掛けた事に一瞬、驚愕の表情を作るが、すぐに笑みを顔に浮かべる。
「実は……片桐くんに相談したい事があるの……」
「相談……?」
「その……透……いえ、女川くんの事で……」
「……なるほど」
私の一言で私が何を相談しにきたのか分かったのだろう。片桐くんは納得した様子で、一度大きく頷く。
「初瀬さんに乱暴を働いたっていう、女川くんを助けたいんだね?」
「……うん」
「白雪さんは女川君が初瀬さんに乱暴を働いたっていう話を無実だと思っているの?」
「透は絶対そんな事しない!!!」
自分でもビックリするくらい大きな声が出た。
「ううん……女川くんはそんな事しないわ……」
さっき取り乱した事を誤魔化すように、私は言い直す。片桐くんも急に大きな声で出されてビックリしただろう。
透の事となると、冷静さを欠いてしまう。私の悪い癖だ。
「なるほど……白雪さんの気持ちは分かったよ」
片桐くんは急に大きな声を出した私のことを気にせず、流してくれる。
「ボクも女川くんの件は、どうにかしなくてはいけないと思っていたんだ。あんな根も葉もない噂を信じるなんて、みんな酷いよ」
「そうなのよ! みんな酷いんだよ! 透の言葉を信じずに、あんな噂の方を信じるなんて……!」
「まあまあ、落ち着いてよ……。ボクは白雪さんの味方だから」
また大声を出してしまった……。相談する私の方がむしろ冷静でないといけないのに、相談されている片桐くんの方が私より、よっぽど冷静に話を進めている。
謂れのない罪を被せられてクラスメートから非難される透を見ていた直後だからか、それを否定してくれる人間を見つけて舞い上がっているのかもしれない。
「それにしても……白雪さんは女川君のことがとても好きみたいだね」
「えっ……!」
片桐くんの突然の指摘に、思わず動揺する。
「隠さなくてもいいよ。さっきから何度も、透って呼び捨てで呼んでるし……。女川くんと白雪さんは親しいんでしょ?」
「うっ、うん……。親しい……ううん、親しかったんだ」
自分で言っていて、気持ちが重く沈む。
透と親しかったのは既に過去の出来事だ。
かつては恋人という関係ですらあった私たちだったが、私の愚かな行動によって、今ではすっかり冷め切った関係へと変化してしまった。
ああ……。
あの頃に戻れるなら私は何でもするのに……。
「へぇ……。二人には何か事情があるみたいだけど……ココでは聞かないでおくよ」
「……ありがとう」
片桐くんは透と私の関係に疑問がありながらも、この場では突っ込まずにいてくれる。
正直、私もその方が助かる。
誰かに話せるほど、私自身まだ過去の出来事を飲み込めていない。
「それより……女川くんの噂の件だけど、ボクに一つ考えがあるんだ」
「考え?」
「正直、今の事態はボクたちの手に負える範囲を超えていると思うんだ。事実、さっきもボクが止めても一時的に治っただけでみんなの女川くんに対する敵意が収まったわけじゃない。だから……」
「…………」
「……大人の手を借りようと思うんだ」
片桐くんの提案、私も一度は考えた事だ。しかし……
「大人の手を借りるのは分かるとして……。どうやって借りるの? 子供のやる事だって流されるかもしれないし」
「その点は大丈夫。確かに、一人や二人の子供が訴えてもマトモに取り合ってくれないかもしれない。だけど、何人も署名があれば、さすがに学校の方も事態の収拾に動かない訳にはいかない」
「そうすれば、大ごとになって自ずと事実が明らかになって、透を助ける事ができるって事ね」
「その通り」
片桐くんの提案に私は納得する。私もここまで噂が広がった以上、生徒に分かりやすい形で透の無罪を周知する必要性を感じていた。
「わかったわ、片桐くん。その方法でいきましょう!」
「うん、全力を尽くそう」
私は片桐くんの提案を成功させる事を決意する。
ーーーーーーーーーー
「まさか、白雪真代の方から俺に接触してくるとは……」
誰もいない空き教室で、片桐颯太は呟く。
「俺が告白したことを完全に忘れていたのはムカついたが……結果的には好都合だ」
女川を貶めるのに、噂を流すだけじゃ物足りないと思っていたところだ。
ぜひ、白雪にも手伝ってもらうとしよう。
「ククク……待っていろ女川透……!」
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