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罪の記憶3


《白雪真代視点》


 最近、透の周りが騒がしい。その原因は分かっている。最近、透の側にいつも引っ付いている女子、初瀬凛(はつせりん)がずっと透に話しかけているからである。


 今までまったく関わりを持っている様子が無かった2人が急に一緒にいるのだ。クラス内ではあちこちでヒソヒソと耳打ちしている。初瀬さんが美人である事もそれらを加速させる要因になっていると思う。


 中には、付き合っているんじゃないかという噂もあったが、私はその可能性は無いと考えている。4、5日前から初瀬さんが話し掛けているが、対する透はというと、初瀬さんの話にへーとかほーとしか返していない。


 その様子から見るに、透は初瀬さんにまったく興味を示していないように思える。おそらく、初瀬さんが一方的に透に付き纏っているという表現が一番近い。


 透が初瀬さんにまったく興味を示していないのは良かったが、何より気になるのは初瀬さんがなぜ突然、透に付き纏うようになったかである。私は女の勘とでも言うべきもので、初瀬さんの行動に何か裏を感じるが、証拠がない以上、今はまだただの推測に過ぎない。


 初瀬さんが何か透に対して害を及ぼさなければ良いのだけど……。私としては、初瀬さんには即刻退場してもらいたいというのが、本音である。初瀬さんがいつも側にいる為、私は透に話し掛けるタイミングを完全に逸していた。


「……て訳なんだけど、女川君どう思う?」


「うん、良いと思うよ」


「だよね!」


 初瀬さんの問いに透が曖昧に答え、初瀬さんが肯定する。この数日前からずっと繰り返されてきた一連の流れを見ながら、私は胸に得体の知れない不安を抱くのだった。






ーーーーーーーーーー






 初瀬さんが透へ付き纏い始めてから、2週間が経った。今や、クラスの中では透と初瀬さんは完全にカップルとして見られている。


 実際に付き合っているのかは分からない。しかし、2人が恋仲だという噂がクラス外に広がるのは時間の問題だと思う。


 私以外の誰かと透がカップルだという噂に心がざわつく。でも、私には何もできない。最近は、初瀬さんの行動は更に積極的になり、透の腕に無理矢理、自分の腕を絡めて歩く姿も目撃した。


 これだけ見せつけられても初瀬さんが透に好意を抱いている気がしないのは、私が初瀬さんに嫉妬しているからだろうか。でも、初瀬さんの行動はわざと周りに見せつけているように思えてならない。


 一度、透に確認してみたい。初瀬さんと付き合っているというのは、本当なのか。何か初瀬さんにされていないのか。透の表情からは何も読み取れない。


 もし、真剣に付き合っていると言うのなら、私から何も言う事はない。でも、私の胸に飛来している謎の不安がこのままではいけないのでは無いかと語りかけてくる。


 透に確かめてみたい。けれど、実際に私の体が動いてくれる事は無かった。そして、最悪の形で私の不安は当たるのだった。






ーーーーーーーーーー






 それから1週間後、女川透が彼女の初瀬凛に乱暴を働いたという噂が学校で流れ出した。初瀬さんが透に付き纏い始めてから3週間が経つ頃には2人がカップルであるという噂は学校中に広まっていた。その事もあり、透の悪評は学校中に急速に広まった。


 私の謎の不安はこの事を示していたのかもしれない。そうだ、私は何かおかしいと感じていたんだ。初瀬さんと透が一緒にいるようになって、それほど時が経たぬ内にカップルじゃないかという噂が流れた事もそうである。


 カップルという噂が完全に定着してからは、たった1週間で学校中に広まった。狭いコミュニティの中とはいえ、そんなにすぐに全体まで情報が広まるものだろうか?


 でも、初瀬さんだけの力ではここまで急速には広まらないはず。これは私の推測でしか無いが、誰かが噂を意図的に流していた? そうでも無ければ、こんな短期間で広がるものだろうか。それに透の悪評が流れ出したタイミングも気になる。


 もし、私の推測が正しければ、透の情報を広めていた黒幕は完全に透と初瀬さんがカップルだと学校中に認知されるのを待っていたのではないか?


 そして、遂にカップルという情報が完全に広がり、黒幕は実行したのだ。透の悪評を広めるという計画を……。もちろん、まだ推測でしかない。しかし、私はこの推測が正しいことを直感する。


 初瀬さんが透に付き纏い始めてから、ついぞ消えることの無かった不安はこの事を示していたのだ。まずは、透を見つけなければならない。透に事実を確認しなくては……!


 透の席は空いており、まだ登校していない事が分かる。『透が傷付く前に助けなくちゃ』、それが私の思考を埋め尽くしていた。もはや、私が勇気を出すかどうかなど大した問題では無い。


 透の目の前に悪意がもうすぐそこまで迫っているかもしれないのだ。過去に透を傷付けた私にそんな資格は無いのかもしれない。でも、これ以上透が傷付く姿だけは見たくなかった。


 透が来るのを自分の席で今か今かと待ち構える。早く……早く……。気持ちは焦り、自然と汗が額から一粒伝って、床に落ちる。


 キンコンカンコーン。


 私が緊張で体を硬くしていると、学校の予鈴が鳴った直後に、透はひょこっと現れるのだった。


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