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勉強会


 今現在、俺はなんの因果か高嶺さんに勉強を教えてもらっていた。それも何故か高嶺さんの家で。昨日の昼休みに勉強で分からないところがあると言うと、高嶺さんが勉強を教えてくれると立候補してきたのである。


 もちろん、俺は断ったが、高嶺さんの『一度勉強が遅れたら、その差は一生縮まることはないわ』という必死の説得により、勉強を教えてもらうことを了承した。


 それはもう、すごい説得だった。勉強が遅れた事によって起きるデメリットを、それはもう丁寧に説明してくれた。最終的に人類滅亡の話にまで発展した時には、思わず天を仰ぎ見たほどだ。


 しかし、今日になってどこで勉強しようかという話になると、何故か高嶺さんが自分の家で勉強しようと強固に推してきたのだ。


 どう反論しても強固に意志を曲げない高嶺さんに、遂に俺の方が折れ、高嶺さん宅での勉強会を承諾するのだった。


 高嶺さんの部屋に入ってみると、とても良い匂いで何の匂いもしない俺の部屋とは対照的である。隣で自分の家なのに何故かソワソワしている高嶺さんを横目に見る。


 部屋に誘った高嶺さんより、俺の方が落ち着いているとは不可思議である。俺は眼前にある数学のプリントと睨み合う。


「う〜ん」


 やっぱり数学はさっぱり分からんな。国語や歴史といった暗記科目は得意なのだが、応用なども求められる数学や物理と言った計算科目が俺はどうしても苦手だった。


 数学の公式は覚えていくので、そこそこの点数は取れるのだが、俺は計算科目で80点代の数字を見たことがなかった。


 まぁ、赤点になるほどの苦手科目ではないので、問題が無いっちゃ無いのだが、いつもテストの最後の方に出てくる応用問題は、ほぼ確定で点が取れないので、点数自体は伸び悩んでいた。


 そんな俺の横では、高嶺さんがやけに体を近付けて、悩んでいる問題について解説してくれている。


 高嶺さん……。俺だから問題無いですけど、普通の男だったら勘違いしていますよ? この恋愛感情というものがぶっ壊れた女川透には、色仕掛けはまったく効かないのだぁ! ハッハッハ!


 誰に自慢しているのかはまったく分からないが、とりあえず俺はたびたび腕に当たる柔らかい感触を無視し、目の前のプリントに集中する。どっ、動揺なんてしてないし……。


「えーっとここはこれを代入して〜」


 ふよん。


「それで、この公式をここに当てはめて〜」


 ふよん。


「これであとは計算さえ間違えなきゃ大丈夫よ」


 ふよん。


 高嶺さん……わざと当てて無いですよね?


 彼女が動くたびに、腕に柔らかいものが当たり、俺の心は絶賛、動揺していた。


 うーん。見た感じ気付いてない感じだし、ここは気付かないフリをするべきか? いや、でも指摘しないのもそれはそれで失礼な気がする。よし、指摘してみるか。


「あの〜、高嶺さん?」


「んっ? なぁに、女川君?」


「いや〜、実はさっきから高嶺さんが動くたびに俺の腕に柔らかいものが当たってるんですよね〜」


「!」


 指摘されると、高嶺さんはパッと距離を離し、両手で胸を押さえ、ジトーッとした目を向けてくる。


 そんな目で見られましても……。クッ! 指摘したのは失敗だったか!?


「女川君……」


「はい……」


「ちょっと、デリカシーが無いわよ。こういう問題はもっと慎重に扱わなきゃダメよ」


「……おっしゃる通りです」


 しばらくの間、高嶺さんのジトーッとした目に晒されていた俺だったが、不意に高嶺さんの視線が収まる。ジトーッとした目を辞めた高嶺さんはいつもの澄ました顔に戻し、言葉を紡ぎ始める。


「今日のところは素直に言った女川君に免じて許してあげます。でも、次は無いですからね!」


「ありがとうございます!」


 高嶺さんから許しの言葉を得て、俺は姿勢を低くして平伏す。まるで、お忍びで日本中を周る将軍に印籠を見せられた悪徳役人のように。


 ハハーッ。


 その後、俺と高嶺さんは他愛もない雑談を挟みながら、勉強会を続けるのだった。






ーーーーーーーーーー






「あら、もうこんな時間ね」


 高嶺さんの言葉を聞いて、俺が時計を見ると、時計の針はもうすぐ7と書かれた数字を差しそうになっていた。


 帰るには良い時間だな。あんまり長居しちゃ悪いし、そろそろお暇するか。


「本当ですね、それじゃ俺はこの辺でーー」


「ちょっと待って!」


 俺が帰ろうと腰を上げると、隣にいた高嶺さんが俺の腕を掴む。突然腕を掴まれ、少し体勢を崩すが、すぐに立て直す。


 なんですか、高嶺さん。もしかして、俺を実験台に合気道で試そうというのですか?


 突然、腕を掴んできた疑惑の高嶺さんに俺は訊ねる。


「えっと……まだ何か用事が?」


「話したいことがあるの。とにかく一旦座ってくれない」


 俺は高嶺さんの言葉に素直に従い、腰を下ろす。腰を下ろして、目を向けると高嶺さんの顔は真剣なものになっていた。


 話ってなんだ? もしかして俺、また何かやっちゃったのか?


 その真剣な表情からまた自分が何かをやってしまったのかを俺は心配になる。


「……」


 じっと高嶺さんが話し始めるのを待つ俺だったが、高嶺さんは中々、話を始めてくれない。少し焦れったい気持ちを抱えながらも俺は静かに高嶺さんが話し始めるのを待つ。


 それから数分後、気持ちを落ち着かせるためか、2、3回深呼吸をした高嶺さんが口を開く。


「この前は勘違いされちゃったから、今回は率直に言うわ」


「……」


 俺は黙って、高嶺さんの話を聞き続ける。勘違いという気になるワードもあったが聞き流す。


 もう一度、今度はより深く深呼吸をした高嶺さんは真剣な目で俺に告げる。


「女川君、私の恋人になってくれませんか?」


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