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解ける誤解


 高嶺さんとなぜかカラオケに行くことになった俺は、今、隣町のカラオケ店の中にいた。久しく来ていなかったこともあり、久しぶりに来たカラオケ店に俺は懐かしさを感じていた。最後に来たのは小学生の時か?


 しかし、今回の目的はあくまでも万引きの時の証言をすることである。なので、実際にカラオケをすることはないだろう。


 受付を済ませた俺と高嶺さんは、受付に指定された部屋番号のカラオケボックスへと入っていく。カラオケボックスに入った俺と高嶺さんは2人して対面するように椅子に座る。


「「……」」


 カラオケボックス内に沈黙が流れる。あまり良い雰囲気とは言えないかもしれない。万引きの取り調べをする人はまだ来ないのかなぁ、なんて俺が思っていると、高嶺さんが不意に口を開く。


「じっ、実は私、こういう所初めてなの。だからどうしていいか分からないわ……」


 そう言って、高嶺さんは肩を落として表情を暗くする。高嶺さんも万引きの事情聴取の為に来ただけだろうに、俺に気を遣っているらしい。これはいかんなと思い、俺は高嶺さんのフォローをする。


「そんな気を遣わないでください。俺もこういう場所は久しぶりですから」


 フォローの言葉を聞くと、高嶺さんは少しだけ表情を和らげる。良かった……。なんとかフォローに成功したようだ。こういう時、まともにフォローできた試しが無いから上手くできて良かった。大抵、相手を怒らせるだけに終わることが多い。


 フォローできた事に俺は安堵しながらも、気になっていた事を高嶺さんに訊ねる。


「それより、万引きの取り調べをする人はいつ来るんですか?」


「万引きの取り調べ……?」


「はい、今日はそれで俺をここに連れて来たんでしょう?」


「えっ……どういう事?」


 俺と高嶺さんの会話が噛み合わない。あれ、どういう事?


「えっ、だって今日は万引きの取り調べに付き合って欲しいって俺を呼んだんですよね?」


「ちがっーー。……ハッ!」


 高嶺さんは何かを言いかけて辞める。そして、少しの間、顎に手を当てて考える素振りを見せたあと、ハッとし、表情を変える。


「女川君……もしかして今日の付き合ってくれるって……万引きの取り調べの事だと思ってる?」


「……違うんですか?」


 俺が聞き返すと、高嶺さんは顔を真っ赤にして縮こまる。そして、猛烈な勢いで口走る。


「うっ、ううん。違わないわ!? 今日は万引きの取り調べの事で呼んだのよねー。あっ、でも、さっき取り調べをしたいって人から連絡が来て、今日は来れないって言ってたような〜。私ったらウッカリだったわ。そういう事だから、女川君!? きょ、今日はもう解散しましょうか!?」


 そう言うと、高嶺さんは勢いよく立ち上がり、椅子に置いていたカバンを手に持つ。もの凄い早口だ……。もし全日本早口言葉選手権があったら、日本一になれるんじゃないだろうか。


 しかし、そうか……。取り調べに来る人が来れなくなっちゃたのか……。それなら仕方ないな。高嶺さんも早くに言ってくれれば良かったのに、言い出し辛かったのかな?


「そっ、それじゃあ、私は帰るから!?」


「あっ、ちょっと高嶺さん」


 カラオケボックスからそそくさと出ようとする高嶺さんの腕を俺は掴む。掴んだ高嶺さんの腕は信じられないくらい熱かった。


「〜〜〜〜〜〜〜〜!」


「せっかく来たんだから、歌っていったらどうですか? このままじゃ、ただお金を払っただけになっちゃいますよ? それとも、俺と一緒だと嫌ですかね?」


「そっ、そんな事ないわ! そっ、それじゃあ、お言葉に甘えて、お金を払った分だけ歌っていこうかしら!?」


 そう言うと、高嶺さんは再度、同じ席に座り直す。その顔色は心なしか、さっきより良くなっているような気がする。さっきは沸騰しそうなほど赤かったから心配だった。


 それから、俺と高嶺さんは事前に指定していた分の時間だけカラオケを楽しんだ。カラオケなんて久しぶりだったけど、案外楽しめるもんだな。顔の筋肉の訓練にもなるしな!






ーーーーーーーーーー






《高嶺冷音視点》


「ただいま〜」


 家に帰ってきた私は習慣付いた挨拶をすると、すぐに自分の部屋へ駆け込み、勢いよくダイブする。そして、今日あった事を思い出し、顔を熱くする。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 きょ、今日はなんて恥ずかしい日なのかしら! 女川君が勘違いしてるとも気付かずに、自分だけ浮かれて先走ってしまった……。


 カラオケボックスで困惑の表情を浮かべていた女川君を私は思い出す。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 思い返し、恥ずかしくなった私は、ベッドの上でしばらくジタバタと忙しなく体を動かす。そして、しばらく動いて満足し、動きを止める。


 でも、今日は良い日だったわ……。勘違いだったとは言え、彼の隣を歩けた。恋人っぽかったと言われれば、そうでは無かったかもしれないが、私にとっては十分満足な時間だった。


 それに……私の初めてのカラオケを彼に捧げちゃったわ。自分がああいう場所に行くことは一生無いだろうと思っていた。


 でも、彼を好きになって初めて、彼とそういう場所に行きたいという気持ちになれた。彼とのカラオケの時間は小っ恥ずかしくはあったが、決して嫌では無かった。


 でも、これで満足してはいられない。今度こそ、彼に伝えなければならない。今度は誤解なく、私の気持ちを……


「私が女川透君を好きだって事を……」


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