ス○ークごっこ
高校に入学して1ヶ月が経った。しかし、俺の思惑とは裏腹に、俺の周りにはリア充が群がり、日々、地獄のような日々を送っている。
お前ら暇か、暇なのか? せっかくの高校生活の貴重な時間を俺みたいなヤツに費やしてもいいのか? あとになって後悔したって、青春は戻って来ないんだぞ! 今という時を大事にしろよ! いつ、青春するんだ? 今でしょ(某有名予備校講師風)!
心の中で俺なんかに近づいて青春の時間を無駄にしているリア充のことを慮っていると、その酔狂なリア充の一角、有馬が話しかけてくる。お前、本当に後悔しても知らねーぞ?
「透! 今からカラオケ行こうぜ! 龍二や茜も来るんだぜ。知った顔ばかりだからお前も居づらくないだろ?」
さりげない俺への気遣い、これがコイツがリア充な理由なのかもしれない。じゃなけりゃ、こんな微妙な顔をしているのだ。リア充の仲間入りなど夢のまた夢だろう。まあ、顔に関しては俺が言えたことではないが……。
「悪いが、今日は俺の家の食事当番でな。食材の買い出しと夕飯の準備をしないといけないんだ。だから、カラオケにはお前たちだけで行ってくれ」
今日、食事当番という言葉、今回は本当である。断じて、リア充からの遊びの誘いを断るための断り文句ではない。ん? あんまり言い訳していると、本当は食事当番じゃないみたいに聞こえちまうな。人間の言葉とは難しいものである。
「そうか、それじゃあ仕方ねえな。今回はパスだって俺から伝えとくよ」
「ああ、頼む」
俺の言葉を信じたのか、やけにあっさりと有馬は引き下がる。逆になんで前回、断った時は嘘だってわかったんだ? こいつ、もしかして心が読めるのか?
それならば、有馬が色んな人に気遣いができる理由が分かったな。俺なんて、相手を気遣っても事態が好転したことなど、一度としてなかったぞ。逆に怒らせてしまう事もしばしばである。
有馬の貴重な生態を少し紐解けたことに満足した俺は、今日の夕飯のメニューに想いを馳せながら、1-A組の教室を出るのだった。
ーーーーーーーーーー
ピピピッ、ピピピッ。こちら女川透。俺は今現在、大型スーパーに潜入中。目的は今夜の夕飯の食材の獲得である。現在、人参とじゃがいもを確保している。これより、何か動向があれば、また知らせる。交信終了。
ス○ークごっこをしながら俺は、大型スーパーで今夜の夕飯に必要なものを買い揃える。一度でいいから、あんな渋い声を出してみたいもんだ。
「ん……!?」
ふと、怪しい動きをしている女の人を見つける。まぁ、怪しさという点なら俺もかなりのものだろうから、俺が言えた義理じゃない。その女性は制服から見る限り、うちの学校の生徒のようだ。
先程から様子を見る限り、怪しい女子生徒は店の商品棚の商品を手に持って真剣に見ている女子生徒(これまたうちの学校の制服を着ている)をチラチラと死角から覗いているようである。
おいおい、まさか百合か? 俺は女の子同士の恋愛に強い拒否感など感じないが、まだ世間的には完璧な理解を得られているとは言えないのだ。せめて、やるのなら公衆の視線がない場所でやるべきだろう(いいぞ、もっとやれ)。
まったく隠れてくれない俺の心の中の欲望が表出したところで、死角に隠れていた女子生徒が棚にいる女子生徒に近づく。棚の女子は手に持った商品を見るのに夢中になっている。おっ、百合展開来るか、これ。
しかし、2人の女子生徒は目と目が合う瞬間〜♪ とはいかず、怪しげな方の女子が商品棚の女子に近づいた瞬間、商品棚の女子が持っていたバッグに何かを入れるところを俺は目撃する。
ん? 俺の見間違いか? いや、でも確かに何かバッグに入れたよな? なんかの商品ぽかったが……。いや、まだ焦っちゃダメだ。まだ、入れた方の女子がママ、これ買って〜、という感じでバッグに商品を入れた可能性もある。
しかし、商品棚の女子は何かをバッグに入れられた事に気付いてないようで、いまだに手に持った商品とにらめっこしているようである。
うーん。言うべきかなぁ。
そうこうしている内に、商品棚の女子は手に持った商品を買い物カゴに入れて、足早にレジのある方に会計に行ってしまう。
いちおう、付いて行ってみるか……。俺も買いたいものは大体買えたし。
俺はレジに会計に行く女子を追うように自分の会計に行く。目の前で会計する女子はまだバッグに何かを入れられたことに気付いてないようで会計はスムーズに進んでいく。
うーん。このままって訳にもいかないしなぁ。いちおう、話しかけてみるか。
「あの〜」
「万引きよー!」
声を掛けようとした瞬間、大きな声で俺の声が遮られる。声の先を見ると、どうやら声を上げたのは先ほど、バッグに商品を入れた女子生徒のようだった。隣にはこのスーパーの店員が付き添っている。
「この人、万引きしてたんです! 私、見たんです! この人があのバッグに商品を入れるところを!」
そう言って、彼女はバッグを指差す。突然、万引き犯扱いされた女子は困ったように眉を顰める。しかし、すぐ持ち直して口を開く。
「ハァ……それじゃあ確認してもらって構いませんよ。私、万引きなんてしてませんから」
そう言って、腕にかけていたバッグを隣に付き添っていた店員に差し出す。その時、俺は見逃さなかった。店員の隣にいた女子の口がニヤッと歪むのを。おいおい、恐ろしく早い笑み、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「それじゃ、確認させてもらいますよ」
店員は差し出されたバッグの中を漁っていく。そして、当然のことながらバッグの中から商品と思しき、パッケージが書かれた小さな長方形の箱が出てくる。先ほどまで冷静だった女子も身に覚えのない商品がバッグの中から出てきて動揺する。
「どういうことですか、コレは!」
「ちっ、ちが……私はやってなーー」
「話は事務室で聞かせてもらいます!」
「いっ、いやーー」
「大人しく来るんだ!」
さすがに、これを放置するわけには行かないよなぁ。ハァ……しかたない。今にも店員に連れていかれそうになる女子の間に入り、俺は口を開く。
「この人、万引きしてませんよ」
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