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04.平民商人との婚約


「エミリーよ。お前の婚約が決まった。」


その日、久しぶりに父に呼ばれ、執務室に足を踏み入れると、唐突に告げられた。


「婚約、ですか?」


一瞬息を呑むが、すぐに平静を取り戻す。ついにこの時が来たのだ。


「私ももう成人ですものね。覚悟はできておりますわ。それで、お相手は誰ですの? 私たち子爵家は他の貴族家と疎遠になって久しいと思うのですが…」


「そ、それがだな……その……」

父の声が少し震えている。どうやら言いにくいことがあるらしい。やはり、あの話に違いない。


「相手は、カイル・スミスという男だ。」


「カイル・スミス、様?」


その名を口にすると、心の奥底で抑えていた期待がふわりと広がった。けれども、父の手前、今初めて聞いた人物かのように、少しの間考え込むふりをした。聞き覚えのない名前。それが何を意味するのか、すぐに理解した。


「存じ上げませんわね。その方はどちらの貴族の方ですの?」


父は言い淀みながら、ゆっくりと答えた。


「あぁ、その……彼は貴族ではない。平民なのだ。」


「平、平民? 今平民とおっしゃいましたか?お父様!」


私は驚いたふりをする。平民との婚約。貴族にとってそれは一種の「降格」を意味する。貴族籍から外れ、社交界には二度と参加できなくなるのだ。並の貴族令嬢なら、この時点で卒倒するか、激昂するところだろう。しかし、私は冷静を保つ。


「すまない、エミリー。だが、今の我が家の状況では、この婚約を受け入れるしかないのだ……」

父は苦しそうに続ける。


「お前も知っておろう。シルフィーが駆け落ちしてから、我が家は侯爵家の怒りを買い、貴族たちとの取引はすべて破綻した。絵画を買い取ってくれる者もおらず、絵を描くための道具すら手に入らない状況だ。借金は増え続け、もうどこからも援助は受けられない……」


父の声がますます小さくなる。2年前と比べ、やつれ、苦労が滲み出ているその姿は哀れだが、私には何の感情も湧かない。今更、父に同情する余裕などないのだ。


「だが……」父は一度深呼吸して、私を見つめた。


「お前の結婚相手となるカイル・スミスは、ただの平民ではない。彼はフローレンス商会の主で、財力も人脈も並の貴族を凌駕(りょうが)する。それに他国との取引も盛んに行っている。彼との婚姻が決まれば、我が家は再び取引先を得ることができ、領地も潤うだろう。そうすれば、負債も返済できるかもしれん……」


必死に言い訳を述べる父。その姿に、一瞬だけ冷笑が浮かんだ。お姉様を甘やかし、自分の判断ミスで家を没落させておきながら、今になって冷遇していた私に頼るとは。まさに、父らしい。


「そうですの……」

わずかにため息をつくように言葉を漏らし、考え込むふりをする。元々覚悟は決まっていたが、わざと悲壮感満載の顔を作る。


「お父様、分かりましたわ。」


「貴族女性の婚姻は、家のため、領地のためのもの。貴族令嬢として、成すべきことを成しましょう。たとえそれが、貴族としての立場を捨てることになるとしても――」


父が目を見開いた。


「カイル・スミス様との婚約お受けいたします。」


「エミリー、ありがとう……本当に、ありがとう……」

父は安堵の表情を浮かべ、涙を浮かべそうな顔で私を見つめた。


(まったく、滑稽な光景ね)

私は心の中で冷たい笑みを浮かべながら、父の言葉に淡々と答えた。


「領地のためには、仕方のないことです。」


「ただ、一度心の整理をしたいので、もう下がってもよろしいでしょうか?」


 私は父に一礼して、執務室を後にした。背後から父の感謝の声が聞こえるが、もうその声に耳を傾けることはない。私の心は、すでに計画――婚約した《カイル・スミス》のもとへと飛んでいたのだから。



―――――――――――――――――――――


閑話:《お屋敷の使用人たちの会話》


使用人A: 「ねえ、エミリーお嬢様のお姿、見た? なんだか以前とは雰囲気が違う気がするわ。」


使用人B: 「本当だわ。元々表情を表に出さない方ではいるけど、あの婚約の話を聞いた後の表情が…何か計算しているような、冷静な感じだった。」


使用人C: 「それより、何とか感情を押し殺しているみたいじゃなかった? カイル・スミス、とかいう商人との婚約について、どう思っているんだろう?」


使用人A::「平民との婚約なんて、ありえないわよ! 子爵家のご令嬢なのに……どうしてそんな道を選んだのかしら。」


使用人B: 「ほんとうに、私も驚いたわ。まさかここまで落ちぶれているなんて……。借金の噂も広まっているし、この先私たちの雇用や給金はどうなるのかしら…」


使用人C: 「そう!それが心配なのよ!エミリーお嬢様が平民と結婚するなんて、子爵家の名誉が更に落ちて、我々にも影響が出るかもしれないわ。早めにご当主様に推薦状を貰って、別の家に雇ってもらう方がいいかもね。」


使用人A: 「それに、最近のご当主様、明らかにお痩せになったわね。一回りほど小さくなったようで心配だわ。シルフィーお嬢様の駆け落ちから、財産も厳しくなってきているから、心労が溜まっているんでしょうね。」


使用人B: 「エミリーお嬢様が貴族としての立場を捨てて、平民との婚約を受け入れたのも、ご当主様への配慮なのかもしれないわね。」


使用人C:「何言ってるの!元々太り気味だったんだから、丁度いいじゃない!いや、でも心配するふりをして、好感度を上げて、さり気なく高価な物を強請ろうかな。この家だいぶ危ないみたいだしー」


使用人A: 「これ、C!言葉が過ぎるわよ。……お嬢様はもしかしたら、その商人の財力を利用して、この御屋敷を立て直そうとしているのかも。」


使用人B: 「それが本当なら、エミリーお嬢様はなかなかの手腕を持っているかもしれないね。ご当主様とは大違いだわ。」


使用人A: 「そうね。でも、今までエミリーお嬢様はご当主様達に冷遇されてきたのに、どうしてあそこまでご当主様に尽くすのかしら。ほんと健気ね……お嬢様には少しでも幸せになってほしいと思うわ。」


使用人B:「確かに、ご家族のために尽くす姿勢はご立派だけど、ご自身の幸せを一番にして欲しいわね。あの方には、少しでも心の安らぎを見つけてほしいものだわ。」


使用人C: 「あ、侍女頭様だ!A、B!そろそろ仕事に戻らないと!」


(彼らは、自身の雇用を心配しつつも、エミリーの幸せを願いながら、慎ましく日常業務に戻った。)



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