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エンカウント


「だー…、チクショウ…」


怒りのままに地に叩き付けた魔剣を拾い、肩を落とす。んっとにこの縛りクソだわ。


「はぁ…とりあえず戻しとくか…」


この魔剣は現世で悪さをした悪魔から押収した物で、俺が勝手に持ち出してるだけだ。マ、それっぽい理由付けて申請したから問題にはなってねぇだろうけど、それでもそろそろ返しとかないとな。


「はぁ…」


溜め息が止まらねぇ…せっかく魔界に出張してまで調達してきたのに…いやまぁ、出張という名の魔界旅行も楽しかったけども。主に久々にいっぱいブチ殺せたって点で。


最近はそもそも現世に悪魔が来ねぇし、来たとしてもみみっちい悪さしかしてねぇから、そういう相手にはドンパチできねぇし。マジでストレスフルなんだよなぁ…人間ブチ殺せねぇならせめて悪魔殺させろー!


「もー、ヤ!!」


ムカつくから思わずに幼児(バブ)なってしまった。こちとらちゃんとお仕事してるのにご褒美の一つもねぇってか?俺はバブなんだからお仕事放棄してやっても良いんだぞ。


…良し。


気分が落ち込んだときは…


「不幸な人間を見て笑うのが一番だな!」




※ ※ ※




とりあえず、不幸な人間が選り取り見取りなブラック企業に来た。学校と迷ったんだが、やっぱ会社の方が当たりが多いんだよな。


「勝手な行動をしたお前のせいだ!全部お前の責任だからな!!オイ、分かってんのか!?」


「そうだそうだー!俺が見た限り『俺は忙しいから勝手にやれ』とか言ってたのはこいつだし、取引先がクソすぎただけでお前は何も悪くなかったけどそうだそうだー!」


コテコテのクソ上司と一緒に社畜にヤジを飛ばす。これが俺の生きがいだ。楽し~~~~。


「す、すみませんでした…」


「謝りゃ済む問題じゃねぇんだよ!!」


「ギャハハハハッッ!!ヒィッ!グフッ!ゲホッゲホッ!ハァ…!」


人間の青ざめた顔ホントおもれぇわ!!クソ上司の顔が近いせいで唾も飛んでんの、マジで嫌そうでウケる~~~!!


「はい、すみ、すみませ」


「謝ったら許されると思ってんのか!?何べん言ったら分かるんだ無能がっ!!」


ア!暴力だ!!結構飛んだなぁ。コイツ鍛えてんのか?わざわざ鍛えた体をパワハラに使うとか、ホーント、人間ってエンタメだわぁ~。


満足したし帰ろ。いやー、笑った笑った!


(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねカスゴミクズカスカスカス死ね死ね死ね死ね)


お?


(早く帰らせろカス口を閉じろ何の生産性もない話をするな黙れ死ね死ね死ね)


あー、これ、誰かの思考が漏れてんな?


神、天使、魔王、悪魔ら辺は人間の心が読めるわけだが…たまに意識してねぇのに聞き取れることがあるんだよなぁ。サトラレ体質ってヤツ?知らんけど。


(帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ帰らせろ)


めっちゃ帰りたがってて草。そんな嫌なら辞めれば良いのに。人間って不思議~。


んー。これ、もしかしなくても目の前で怒鳴られてる社畜くんの思考か?多分そうだな。ヤバ、こんな顔面蒼白で震えてて、今にも倒れそうなくらいなのに?演技力どうなってんだよ。


(死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺すナイフ突き落として階段窓目鼻耳歯腹指爪手足捥ぐ殴る蹴る刺す殺す死ね死ね死ね)


思考に淀みがねぇな。てかこの脳内で恨み言吐きまくってる状態で泣き出しそう…ってか泣いて謝ってるの、マジで役者になった方が良いと思う。


何かこの人間面白そうだな。暇だし家までついてこ。




※ ※ ※




社畜くんが帰るまでに結局終電ギリギリまで掛かった。パワハラ上司くんの辞書には定時って文字はないみたい!ワハハ!


隈をこさえて今にも俺らにお迎えされそう(死にそう)な社畜くんは、飯でもなく風呂の準備でもなく、()()を手に取った。


「何だ?…あ、VRゴーグルか」


すぐに分かった。だって、俺VRゲー遊んだことあるし。格ゲーやるつもりが間違えてほのぼのスローライフ系ゲーム買っちゃったせいで、吐き気と蕁麻疹が止まらなくて二秒で止めたけど。


こいつは何やるんだろ。いや、社畜くんだからVRゴーグル使って仕事するだけか?


心読も。意識的に遮断してた情報たち~、来て良いよー。


(あーーーーーーーーーーーーーマジクソあのクソクソ上司が死ねブチ殺す殺す殺す死ね~~~~~~~~)


「上司の恨みが聞きたい訳じゃねぇんだわ」


深層心理にチャンネル合わせちまった。今度はちゃんと表層心理を覗いて…っと。


(俺の人生で唯一の楽しみ『Fantasy War』このために生きてるわ早くヒューマニティ殺してぇ~~~~~~~)


『Fantasy War』?何だその英語覚えたての中学生が考えたタイトルは。ちょっと気になるだろ。


え~っと?へー、戦争ゲー?二陣営に分かれてレベルを上げて敵を殺すファンタジーVRMMO…ってアカシックレコードに書いてあった。


どんな雰囲気なんだろ。アカシックレコードに接続しても良いけど、せっかくだし社畜くんと精神繋げようかな。人間にプライバシーの権利などない。


さーて、どんなもんか……………ア?




うわ、




すっげぇ。




このゲームやりてぇ。




今、俺は社畜くんの精神を通してゲーム内の光景を覗いてる。




そこには、世界があった。




血生臭くて、黒雲が毒々しく赤い空を覆っていて、怪物が跋扈し、そこかしこに骸が転がっている。




人間からすれば非現実そのものだろうに、五感が現実だと伝えてくる。




魔界みてぇだな。最近行ったし、記憶に新しい。多分、ここは魔族モンスター陣営の国なんだろうな。雰囲気的に。


はは、マジか。シンプルに感動したわ。人間ってオモロイもん生み出すの得意よな。天使にも悪魔にもねぇ発想っつーか…これだから神は人間大好きなんだろうなぁ。そのせいで俺はクソ縛りに苦しんでるわけだが。


でも、良いや。今だけ許す。このゲームで悪をやり尽くしてやる。


殴って叩いて打って盗んで破って壊して潰して焼いて燃やして殺して殺して殺して!!!絶対楽しんでやるからな~~~~~~~~~!!!!!!

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