約定の悪魔
一つ、争わぬこと。
「わっ!バジリスクじゃん!!見られたらマズイよ、石化させられる前に先制攻撃仕掛けるから二人は…」
「は、おい、ガレット!待て…!…は?」
「普通に横素通りしてる…???」
「それ行けんだ…」
一つ、迷わぬこと。
「分かれ道だ。どっち行「右」めっちゃ食い気味だな??」
「迷っちゃダメだろ」
「え、あ、そういう…??」
一つ、奪わぬこと。
「あれ!ねぇあれあれあれ!!あの花!!エリクサーの触媒じゃない!!?」
「うわっマジかよ!!こんなとこにも群生してんだな。早く採取、」
「ダメ」
「ア??」
「ここは約定の悪魔の縄張りなんだろ?奪っちゃダメだろ」
「これもダメなの…??」
「クッソ、ストレス溜まる…!!」
一つ、背を向けぬこと。
「…………………………………………………………………」
「チーフ!??どうしてここに…!?こ、今月はちゃんとノルマ達成しましたよ…!!クソッ!離せっ!僕は枕は最低限で生きていくんだ!!」
「はーい、逃げないで行くぞー。…二人の反応的に幻覚か?俺は何も見えねぇけど…」
急に跪いて黙り込んだウィルと錯乱し始めたシガーの首根っこを掴んで、その後も歩き続けた。
※ ※ ※
こんな感じで紆余曲折あって最奥にたどり着いた。
「ほ、本当にたどり着けちゃった…」
信じてなかったのかよ。
「こんなバカが作った約束事を律儀に守るヤツとかこの国にいねぇよ。お前が最初言ってたみたいに出てきた魔族を攻略する方が主流だ」
「ランヴァルワの民には"争わぬこと"の時点で難題だからね」
野蛮すぎだろ。最高だな。
さて、
[約定の悪魔の住み処に足を踏み入れますか?]
YESを選択した途端、鬱蒼とした木々がうごめき出す。隠すように葉を茂らせていたのが、捌けるように引っ込んだ。そして、魔界と酷似したランヴァルワではあり得ないはずの、白い光が差し込む。
光が指し示したのは、一つの悪魔。
一言で言えば、人の形をした烏。だが、その烏は烏と言うには大きく、人と言うには小さい。
そんな幼い体躯に見合わないはずの、しかしよく似合っている漆黒のドレスには、烏の悪魔らしく光り物が多く飾られていた。
「久方ぶりの客人よのう。それも"正式手順"とは、小僧どものくせにやりおるわ」
呵呵と豪快な笑い声を発する目の前の悪魔の頭上には、マルファナという文字が表示されている。
(プレイヤーネームは本人が許可しないと見れねぇけど、NPCは特別なイベントでもない限り常時見えるんだっけか)
つまり、この烏はNPC。さっきの発言もAIによって作られた物ってワケだ。技術の進歩ヤバ、人間ってすげぇ~。
「我が【制約】をよくぞ守り抜いた。特に、"背を向けぬこと"。そこな同族は、何も見えておらなんだ。あれは最も忌み、疎むモノの幻覚を見せるのじゃが…よほどの博愛か、無興味か。面白いヤツじゃのう」
博愛とかあのクソ神みたいなこと言わないでくれるか??
マァでも、これで分かったわ。あれバグじゃなかったんだな。俺の嫌いなもんと言えば神だし、神は映し出せねぇわ。
何より俺、神に会ったことはあるけど姿見たことはねぇしな。姿が分からなきゃ幻覚も見せらんねぇか。勝手に作ったら偶像崇拝になるし。
「で、念のため聞いとくがあんたが約定の悪魔で合ってるよな?」
「おお、すまんすまん。年甲斐もなくつい舞い上がってしもうたわ。うむ、儂こそ約定の悪魔、マルファナじゃ」
かわいらしい声と古めかしい口調…ロリババアってヤツ?そもそも女かも知らねぇけど。もっと言やこいつ烏だけど。でもNPCの中では人気あるらしいし、性癖ってのは幅広いんだな。
「なぁ、シガー」
「え何何何の話??」
急に話し掛けられてビビってら。ウケる。
「して、儂に何の用じゃ?」
何の用…とは??
「重要な取引を決して破れぬよう契約書を書きに来たか?愛する者との愛が真に永遠であるよう誓いに来たか?従僕が決して逆らえぬよう奴隷の紋を刻みに来たか?好きに願うと良い。ここまで"約定を守れた"汝らにならば、何でもしてやろう。その分、対価はいただくがのう」
うーん、黒々と可視化された威圧感を漂わせてるとこ悪いんだが。
「いや、別に何かしてほしいわけでは」
「カァ…???」
お、ぽかんとした顔は愛嬌があるな。なるほど、性癖とやらの一端を理解できた気がする。
「ちょ、ちょっと待って…!?二人とも何か目的があって約定の悪魔に会いに来たんじゃないの!??」
「俺はウィルが約定の悪魔ってのがいるって言ったから会ってみたかっただけだし」
「俺はガレットが会ってみたいって言ったから連れてきただけだし」
そもそも、対価支払えるほど何か持ってねぇしな俺。流石にせっかく手に入れたばっかの装備手放すのはヤだぞ。
「ふ、カカカ!面白き小僧よ!」
おもしれー男判定された。
「儂と親子にならんか?」
??????
「段階踏めよ」
「逆に段階踏んだら良いの??」
「ガレット、このゲームでは悪魔が気に入った若者に加護を与えることを"親になる"って言うんだよ」
ウィルに小声で告げられる。へー、そんな設定が。
「じゃ、おなしゃす」
「うむ」
「軽いなぁ…」
「称号が増えたはずじゃ。確認してみよ」
そういや詳しく見てなかったけど称号ってシステムあったな。どれどれ…
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称号:バカ ジャイアントキリング 戦闘狂 約定の悪魔の子
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何か他にも色々あるけど確かにそれっぽい称号あるな。いや待てスルーしようかと思ったけど「バカ」って何だ。ただの罵倒じゃねぇか。
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バカ
レベル1にもかかわらず戦場に向かい、そのまま死亡した者に与えられる称号。
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ぐうの音も出ない。
「"約定の悪魔の子"ってのがあったぞ」
「それじゃそれじゃ。こちらにも"戦狂いの悪魔の親"とあるわ」
別に俺戦いだけがしたいわけじゃねぇんだけど…
「親子の繋がりができたことじゃし、儂の力に関連したスキルも増えておるはずじゃ」
ほんとだ、【宣誓】ってのいつの間にか習得してる。
「ふむ、ここまで辿り着いたのは同じというのに、我が子にばかり与えては不公平という物じゃな。ほれ、この森で取れる希少素材じゃ。受け取るが良い」
「良いんですかぁ!??」
「あざーす!!」
目に見えてイキイキとし出したな。物欲に正直でヨシ!!!
「何から何まで悪いな」
「子の友には良い顔をしたいのが親というものじゃ。儂の加護はきっと汝の助けとなろう。好きに世界を遊び尽くせ。じゃが、たまには顔を出せよ?母様との【約束】じゃ」
マルファナがスキルを使った気配がした。なら、せっかくだし。
「【宣誓】!俺は殺して盗んで奪って焼いてあらゆる悪に手を染めて!この世界を楽しみ尽くすことを誓います!!」
親は驚きに目を見開いて…次いで、喜びに顔をほころばせた。
「できた我が子じゃのう!儂は幸せ者じゃな!!」




