放課後の魔法
初投稿です。思いつきと衝動で書きました。温かい目で見ていただけると嬉しいです。
「別れよか」
付き合って6年。短いようで長かった。幼馴染と別れを決意した。大学3年の夏。
有名YouTuberになった恋人に浮気されて別れ話に。そして、その別れ話には顔馴染みのYouTubeの仲間何人かもいた。何故か高校の同級生の女友達まで。
浮気の話になって、時系列をおっていたら女友達が何故か突然キレ出した。「どういう事?!」と突然彼に詰め寄ってる。あのー、なんであなたがキレてんの?あ、自分以外の人と浮気してたのがらわかったんだ?あーそういう事。私と別れたら自分が付き合うんだと思ってたらしい。だからYouTube仲間に混ざってここにいたのか。
ビックリしたけど、その場にいた顔見知りのYouTube仲間に「あの子ともやって(浮気)んな」と話すと気まずそうに顔を伏せた。
彼とは小学校からの同級生で、小さい頃は近所の仲の良い友達だった。放課後はいつも彼の家に行き、ゲームや漫画とくだらないおしゃべり。たまに勉強。それが私の日常だった。中学高校と学年が上がってくると、だんだんと一緒に放課後を過ごすようになる意味が違ってきた。
きっかけは何だったか。テレビで男女がキスするドラマを見ていたからか、ベタな展開で笑える。とにかくそんなきまずい雰囲気の中、緊張でお互いの心拍数が上がってきたのを感じたのを覚えてる。別に好きだとか言われたわけでもない。私だって好きだとか思ってたわけじゃない。何となく居心地がいいから一緒にいた。なのに、見た事ないぐらい真剣な顔の彼の顔が近づいてきて軽く唇が触れた。初めてのキスだった。その後、彼が肩を押してきて私は床の上に仰向けになった。彼の心臓の音が聞こえた。全身が心臓みたいに鼓動してる。彼は何も言わず私の首筋にキスをしながら体を触っていった。
そこから、私と彼は付き合うようになった。
今考えれば、好きだからというよりも性的な興味が年頃に男女が2人きりになったらそれはやっちゃうよね!それはそうだよね!でも、私はやったんだから付き合うって事だよね!彼も私が好きなんだよねと浮かれてた。
幼馴染だから、お互いの両親も知り合い。私たち付き合いだしましたよと話したら、ずっと一緒に居るから付き合ってんだろなーともう思ってたらしい。そんなんだから、友達も「まーそーなるよねー」って付き合いだした事を説明すると言われた。むしろ、「まだ付き合ってなかったのか」だって。親とおんなじ反応して、どんだけ学校でも一緒にいたんだと。彼と一緒に居る事が当たり前で、ずっと一緒にいたいんだと自覚した。多分本当に好きになったのはこの自覚した時から。
その後は学校でも家でも公認の高校生生活を送った。ずっーとこのままで一緒に居るんだと思ってた。
彼は高校に上がってから身長が伸びた。185cmになり、元から整ってはいたけど目立つようになったからか顔がいい事も周りに広まった。派手なグループにはいないけど、ノリのいいオタク気質なグループに属してバカ笑いして、いろんな化学実験を試して遊んでみたり、ゲームの話で盛り上がったりと楽しそうにしてた。私と付き合い出したのはこの頃。
そしてその高校時代の仲間とYouTubeをやりだしたのは卒業間近の高校3年生の夏。初めは趣味程度で仲間内で遊んでたみたいだけど、何かの動画がバズり結構な収益がでた。それは大学生になってすぐの春頃だったと思う。私達は大学生になったけど、同棲はせずに近くのマンションに住んで半同棲してたから、授業が終わったら一緒に過ごしてた。動画が忙しい時はご飯の世話だけして自分の家に帰った。
周りはもう夫婦みたいに扱ってたし、私もそのつもりでいた。でも、高校卒業して今までずっと過ごしてた放課後一緒にいた時間がなくなってしまった。
彼はYouTubeを大学行きながら上手く同時進行していた。そして、YouTuberとしてだんだんと知名度が上がっていった。
彼がYouTubeを始めて3年が経つ頃には段々再生回数、登録者数が増え、彼の周りの環境も変わった。まず、ファンが自宅に押しかけてくるようになり、セキュリティのしっかりしたマンションに引っ越した。他の有名YouTuberとコラボしたり、芸能人とも会ったり。髪も金髪になった。高身長で顔も良かったから、最初は驚いたけどよく似合ってた。カッコよかった。
大学の授業が終わった後、彼は私と過ごさずに外に出て行く事が増えた。〇〇さんと飲みに行く。今日はここへ連れてってもらうと。ご飯も準備しなくてよくなった。外食かUberで頼むからいいと最近言われた。だんだん彼と会う事も一緒に過ごす時間も無くなった。
彼と過ごした時間がなくなって、空いた時間。寂しかったけど、大学生で新しい仲の良い仲間ができていた。私も新しい環境で彼がいない生活に慣れていった。
そして、放課後の魔法が解けた。
社会(まだ学生だけど)に出て身の程を知った。
私と彼なんて幼馴染としての繋がりがなかったら、他は何にもない。彼みたいな才能は無いし、ごく平凡な容姿。一緒にすごした時間と他の人よりちょっと居心地が良かっただけ。好き同士で一緒にいたと思ったけど、そういえば彼に好きだとか言われた?覚えがないな。周りに夫婦みたいに扱われて勘違いしてたみたい。自分たちは特別なんだって。才能ある彼氏と平凡な自分がずっと一緒にいるなんて、魔法がかかったみたいな特別な環境で過ごしてただけなんだって。
そんな時、彼が浮気した事に気づいた。
久しぶりに行った家にあるはず無いハイブランドのブランドのアクセサリーがあった。完全に女物。しかも、脱衣場にあった。それを見て、ストンと理解した。もう彼とは一緒にはいられないんだと。その場でアクセサリーを掴んで、動画編集してる彼のところに行った。
「忘れ物みたいよ。」
パソコンから目を離さない彼の顔の前にチェーンをぶら下げる。シャランと音が鳴った。
彼がアクセサリーを一瞥した後、それを受け取り私を振り返った。疲れで目が充血してるのもあったけど、すごい顔してた。
違うんだとか、動画協力してもらった人の物でとかいろいろ言ってたけど、何年一緒にいると思ってる。彼の反応でもうわかった。
私は動画編集が落ち着いて、話ができるまで待つと言って彼の家から出た。部屋の合鍵をリビングに置いて。
お互いの両親には私が別れる事になりそうだと伝えた。あちらの親もビックリしててなんとか復縁をと言われたが断ったり、自分の親も考え直せとしつこかった。
彼の仕事が一段落するのは早かった。3日後には彼の家で話し合いが始まった。他人がいっぱいいたけど。YouTube仲間からは一時の迷い。許してやってくれと言われ、彼は別れたくないとすがってくる。そして、その後のあの女友達の暴走だ。女友達は高校の同級生で彼のYouTube仲間と仲良くて交流を続けてた子だ。細身で可愛らしい黒型ロングの女の子。自身もYouTubeをやってるらしい。
彼はそんな女友達への対応で私との話し合いどころではなさそうだ。
私は席を立った。彼の顔があがり私を見た。
「別れよう。」
そう言って、玄関に向かう。彼はなんか言ってたけど、もう関係ないしいいか。
玄関を出たら、彼にのYouTube仲間の1人が心配そうについてきた。いい人だ。大丈夫かとか、復縁は無理そうなのかとか色々聞いてきたけど
「あの浮気で自分と彼の立場の違いもよくわかった。住む世界が違う。100万以上するハイブランドのアクセサリーをつける女と浮気できる人と自分は平凡で一緒にはいる事ができない。横には立っていられないんだよ。好きだけじゃ。」
あと、浮気は治らない。浮気で腹筋じゃなくちんこ割るか気かよ。とボソリと言った。YouTube仲間は笑ってた。
最寄り駅まで送ってもらう。電車に乗り自宅に着いた。途中のコンビニでご飯を買ったので、電子レンジに入れた。電子音が部屋に響く。
自分の日常。もうあの高級マンションに行くことも無いし、彼の非日常の日常に触れることもなった。ゆっくり目を閉じて彼との思い出を思い出してた。放課後の彼の部屋、教室。大学生になってから始まった彼の日常の世話。少しずつ少なくなっていった2人の時間。
レンジのチンとした音が鳴った。
ご飯を食べて寝よう。魔法が解けたから。明日からも自分の平凡な生活は変わらない。
後日、彼が彼女の大切さに気づいて復縁を迫るけど、現実主義の彼女に断られ続けるっていう動画をあげてバズる彼がいたとか無いとか。