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紅の飛竜

 周囲をより一層警戒しながら歩く。いつ側の溶岩溜まりからあのスライムが飛び出してくるか分からないのだから、ずっと緊張しっぱなしだ。

 時々飛び出してくる岩をまとった魔物も無視して、ひたすら突き進む。時には流れる溶岩が多くなる罠なんてのもあってヒヤヒヤした。

 それでも突き進んでいれば、やがて出口に辿り着くものだ。次の階層へ続く階段を前に、俺達は再び耐熱薬を手にしていた。


「……みんな、準備はいいな。いくぞ」


 全員が意を決した顔で耐熱薬を飲み干す。あちこちから呻きが聞こえたが、これから先を思えば些細なことだろう。うっぷ。


「はやく行こうぜ、エスカ」

「そうだな……さっさとクリアして帰ろう」


 口元を拭って階段を降りる。その先には前も見た景色が広がっていた。

 溶岩を流す黒い岩壁に囲まれた部屋。辺りを溶岩に囲まれた中、緩く隆起した中央には炎の球が浮いていた。


「明らかにあれがボスだよなあ」


 近づいたら出てくるやつだ。絶対そうだ。

 みんなと顔を見合わせ、武器を構えながら近づく。何が出てくるのか知らないけど、パパッと片付けてしまおう。耐熱薬を飲んでいても暑い空気が肌にまとわりついた。

 近づくと炎の球はブワッと広がり、消えていった。その向こうには赤いがっしりとした巨体が見える。大きな翼を広げたドラゴンはけたたましい雄叫びをあげた。


「おいおいドラゴンってマジかよ……」


 ビリビリと体に伝わる音。飛び上がる巨体を見上げ、弓を向けた。


「いくぞっ!!」

「はいっ!」


 オリヴィエが防御力アップの支援魔法をかける。温かな何かが体を包むのを感じながら魔力を込めた矢を放つ。ドラゴンの鱗にわずかな傷をつけた。


「ファイアボール!」


 飛んでいった火球は見事ドラゴンに当たったが……まるで効いていない。いかにも炎属性ですって顔してるもんな、あいつ。


「うう、アタシの魔法効かないみたい……こうなったら杖で叩くしかないよねっ! 降りてこーいっ!」


 リーファが杖を掲げると同時にドラゴンが急降下してくる。鋭い爪がきらりと光った。


「わわっ!」

「そこだっ!!」


 リーファが避けた陰からケイトが飛び出す。光り輝く肉切り包丁がドラゴンの脚に突き刺さった。


「おわあっ!?」


 突き刺さったままの包丁に掴まったケイトがドラゴンに振り回される。おいおい、危ないな……!


「離すなよっ!!」

「わ、わかってるよぉ!! ひぃっ、暴れるなあ!!」


 ドラゴンは包丁を落とそうとしてるのか、めちゃくちゃに飛んでいる。あんな飛び方されると狙いづらいんだけど。


「まずいっ、包丁抜けそう!!」

「登れないか!?」

「無茶言うんじゃないぞ……! やるけどさあっ!」


 振り回されながらも鱗に手をかけたケイトは、少しずつドラゴンの体をよじ登った。包丁も抜き取り、無事ドラゴンの上に登ったケイトは包丁を背に何度も突き刺す。


「まったく、すっごく怖かったんだぞ!!」


 ドラゴンは悲鳴をあげると地面に降り立った。強風が髪を揺らす。巨体を振り回し、ケイトが体勢を崩し、落下した。


「うわっ!」

「ケイトッ!!」


 落ちてくる小さな体を抱きとめる。包丁は地面に突き刺さった。


「ひええ……ありがとう、エスカ」

「おう」


 下りたケイトは地面に刺さった包丁を引き抜き、少しよろめく。

 ドラゴンは背中にかなりの傷を負ったみたいだな。俺も弓より短剣を使うべきか……?


「ま、その前に目を狙うか」

「地に降りたならわたくし達の番ですねっ!」

「いっくよー!!」


 オリヴィエとリーファが杖を構え走り出す。飛びかかった二人が左右からドラゴンを殴る中、目を狙って矢をつがえた。

 一発目……外した。二発目、惜しい。三発目……ヒット。


 ギャアアアアオ!!


 叫んだドラゴンは大きく口を開けた。奥でちろりと炎が揺れるのが見える。


「ブレス来るぞ!!」


 みんなドラゴンから距離を取る。炎の吐息が吐き出された。充分離れていたのに熱気が肌を焼いた気がする。

 ずっと炎を吐かれたら近づけもしないな……どうしよう。

 ふと、辺りの温度が下がっていることに気づく。なんかひんやりしてないか……? 壁から流れ出る溶岩も固まっている。


「火竜は基本的に高温の環境下で活発になるとされる」


 杖を構えたレイスは竜を見据えたまま続ける。


「ここは絶好の舞台だったのだろうが……低温の環境下ならばどうだ?」


 ドラゴンが吐く炎がだんだん弱まる。心なしか動きも鈍くなっているような……?


「チャンスだ! かかれっ!!」


 レイス以外全員でドラゴンに攻撃をしかける。俺も弓から短剣に持ち替え、魔力を込めて斬りかかった。無数の傷口から赤い血液を流したドラゴンは、大きな腕で薙ぎ払う。

 生憎、こっちは全員身体強化を使えるんだ。各々がドラゴンの腕を避けて攻撃を続けた。


「これで……最後だ!!」


 度重なる攻撃で剥がれた鱗の奥に短剣を突き刺す。硬い肉を裂く感覚が手に、腕に伝わっていく。耳をつんざく叫びの後、巨体が揺らいだ。

 地面に伏したドラゴンの体が光の粒子へと変わっていく。


「よし……俺達の勝ちだ!!」


 わっとみんなが集まる。レイスは静かに歩いてこちらへと向かってきていた。


「やったね!」

「へへ、オイラの大活躍見たか?」

「皆さん、お疲れ様でした」


 さて、戦利品はなんだ? ドラゴンが落とすものだ、相当いい物だと思うんだけど。

 ドラゴンがいた場所には様々な色の石が落ちていた。中でも目を引く赤い石を拾い上げる。透き通ったそれは光を秘めている。魔石、か?


「綺麗な石だね!」

「属性は炎か? それなりに大粒だと思うけど……これ、どれくらいの品質なんだろうな?」


 魔石にも色々とある。属性だったり、性質だったり、品質だったり。魔力を多く溜め込むタイプもあれば、流された魔力を増幅させるタイプもある。


「見たところかなりの高品質のようだ。売らずに取っておくといいだろう」

「お、レイスの見立てなら間違いないな。それじゃあこれは取っておくか。他のは……売ったらそれなりになりそうだ」


 魔石達を収納鞄に収めて、転移ノ紋に乗る。あー、疲れた。帰ったらゆっくり休もう。

 外に出ると、涼しい風が肌を撫でた。振り返ってみれば流れ出ていた溶岩が止まっている。

 ……もしかしてこれ、ダンジョンを踏破すると異変が収まるのか?

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