表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/192

消失

 魔物の死体がゴロゴロと転がる上に降り立った魔族が二人。どちらも余裕たっぷりな笑みを浮かべたまま、こちらを観察するかのようにじっと見ている。


「どうして各地を襲うんだ! あのお方とかいう奴を呼び寄せるためってお前は言ってたけど……それと何が関係あるんだよ!!」

「何故ジブン達がここにいるのか」

「なぜワタシ達が破壊の限りを尽くそうとするのか」


 クスクスと笑いながら、二人は両腕を広げる。まるでここが舞台の上だとでも言うかのように。


「気になるのなら、かの忘却の地へ」

「そこに答えが待っているわ。ふふっ」


 忘却の地。きっと、この魔族も忘却ノ迷宮から出てきたんだろう。だとしたら、そこへ俺達を誘おうとする理由は何だ? あの方っていうのは一体誰なんだ?

 ダメだ、謎が多すぎる。今はそれよりも、目の前の二人をどうするかが先決だ。


「そのまま逃げられると思うなよ」


 弓を引き絞っても尚、二人の魔族は余裕の表情だ。焦るどころか顔色ひとつ変えやしない。


「おやおや、随分と好戦的な様子」

「そんなにワタシ達と遊びたかったのかしら」

「うるさい」


 放った矢は魔力を込めた威力の高いものだ。その速度だって普通の矢とは比べ物にならない。

 だというのに、プシュケーはあっさりと最小限の動きで避けてみせた。愉悦の笑みを浮かべた彼女は、まるで子供をあやそうとするかのように両手を振った。


「ふふ、それじゃ当たらないわよ」

「くそッ」


 ギリッと歯を食いしばる。腹の立つ顔だな、ちくしょう。


「ファイアストームッ!!」


 隣を炎が通り過ぎる。長く伸びた炎は獲物に巻き付く蛇のようにハイマを包み込んだ。そのまま炎はより大きくなっていく。


「その程度ですか。残念です」


 強い風が吹き荒れ、炎が掻き消される。大きく広げられた翼には傷ひとつなく、クスクスと笑うハイマがそこに立っていた。


「そんな……!」

「どれ、お返しといきましょうかッ」


 一瞬だった。

 ほんの一瞬で距離を詰めたハイマは、黒い光をまとった右腕を振り上げる。


「リーファッ!!」


 ザンッと腕が振り下ろされると同時に、リーファの前に分厚い岩の壁がせり上がった。残り一セントといったところまで腹を深く抉られた岩が、自重に耐えきれず折れる。

 ズン、と大きな音を立てて崩れた岩壁を前に、ハイマは小さく口を開けていた。


「へえ。なるほど、中々腕の立つ魔術師がいるようですねえ」


 ハイマの閉ざされた視線がレイスへと向く。レイスは杖を構えたまま、鋭い目で睨みつけていた。


「少し遊んであげましょうか」

「ほどほどにしなさいよ、ハイマ」

「分かってますよ、プシュケー」


 ハイマの足に少しの力が加わった瞬間、レイスは目の前に分厚い氷の壁を展開した。距離を詰めたハイマは氷壁の前で飛び上がり、上空からレイス目掛けて急降下する。


「くっ」


 それもまた氷の壁で塞ぐ。氷が割れる直前にその場から飛び退いたレイスは、すぐに杖を構え直した。

 まずい、彼は距離を詰められるのに弱いかもしれない。少しでも支援しなければ。オリヴィエは……まだ回復していないだろう。支援魔法を求めるのは酷だ。

 せめて俺が少しでもアイツの邪魔をする。幸いというべきか、プシュケーは傍観しているばかりだ。どういうつもりかは知らないが俺達からすれば好都合。ここぞとばかりに矢をつがえ、何本も放つ。


「おやおや、援護射撃ですか。プシュケー、貴方も援護してくれていいのですよ?」

「ワタシは観戦しておくわ。それくらい制してごらんなさいよ」

「まったく、冷たいですねえ。兄のお願いだというのに」


 ハイマはほとんど矢を気に留めていないようで、片手間に黒い光で矢を打ち消してしまう。くそ、なんなんだよ、あの光。氷の壁も何もかも、あの光に触れると消滅してしまうようだ。


「あ、アタシも援護……ッでも、もしレイスさんに当たったら……!」

「俺に任せてくれ、リーファ」


 杖を握りしめるリーファの手は震えている。あれだけ近距離で戦っているんだ、リーファの魔法ではレイスも巻き込みかねない。

 とはいえ、俺も一体どうすればいいのか……矢の残量も残り少ない。効いている様子もない。これ以上、どうすれば。


「そろそろ終わりにしませんか。貴方も随分とお疲れのようですしねえ」

「くっ……」


 段々とレイスの息が荒くなっていく。そうだ、レイスは保有魔力量が少ない。あんなハイペースで魔法を使わされたら、魔力欠乏の症状を起こす……!

 レイスは汗を滲ませながら杖を振るう。生成された氷壁は、明らかに一枚一枚が薄くなっていた。


「それで防げるとでも?」


 ハイマの蹴りは薄い氷壁をあっさりと割り、そのままレイスに襲いかかる。レイスは右腕でその足を受け止めた。


「ぐぅッ」


 よろけた彼の手から杖が落ちる。もう矢は一本もない。どうしよう、どうすれば……短剣を使う? いや、でも。

 黒い光をまとった手が、レイスに振りかざされる。レイスは咄嗟に避けようとし……右腕が光に呑まれ、消え去った。


「あ゛あああぁぁぁっ!!」


 そう、文字通り消え去ったんだ。肩とほんの僅かな上腕を残し、そこから先が全て。ボトボトと赤い液体が滴る。


「中々楽しい遊びでしたよ」


 再び黒い光がレイスへ襲いかかった。見開かれた金色の目に影が落ちる。

 脚に魔力を込める。迫る光が触れるより前に、彼の体を押し除けた。


「なっ!?」


 目を見開いたハイマの腕にまとわりついていた黒い光がブレ、霧散した。

 レイスを狙っていた光は、彼と場所を入れ替わった俺へと牙を剥く。粒子と化した黒い光が体を貫く。あまりの激痛に声すら出なかった。

 光が消えたハイマの手が止まる。俺の体は傾き、地面に倒れ込んだ。


「カハッ……」

「エスカ!?」


 レイスの声が聞こえる。リーファの、ケイトの、オリヴィエの、声が。


「ちょっとハイマ!! 何やってるのよ!!」

「違ッ……これは事故だ!!」

「ああもう!」


 段々と視界が暗くなっていく。ハイマは……プシュケーに腕を引かれ、そのまま二人揃って消えたみたいだ。

 よか、った。これでひとまず……平穏、が。

 体を抱き起こされる。青い髪、金色の瞳……レイスか。


「馬鹿者!! 何故庇った!!」


 なぜ? なぜって、そんなの。

 ああ、身体中が痛む。声を出そうと喉を震わせるだけで、耐え難いほどの激痛だ。俺の体、どうなってるんだ……?

 それでも、これは伝えないと。なぜ庇ったんだって、そんなの決まってる。


「……だって、レイスは……仲間だから……」


 その言葉を最後に、意識が途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 本当に本当に本当にしんどいんですけど 推しの腕が無いなったんですけど ショックすぎて何もやる気が起きなくなりました でもリーファちゃんを守ってくれるレイスさんはかっこよかったし仲間だからって…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ