ゴブリン掃討作戦
翌朝。俺がギルド前に向かうと、すでに多くの冒険者が集まっていた。もしかしてこの街にいる冒険者ほぼ全員が集まってるのか? 武装した者達が集まる光景は中々に壮観だ。
俺も端っこの方に立っておくことにした。……それでもかなり視線を感じるけど。
普段からギルドに入り浸ってる人達は幾分か興味を失ってるみたいだけど、そうじゃない人からの視線が凄い。これ、いつか慣れる時がくるんだろうか。
それから少しすると、六回鐘が鳴り響いた。教会から聞こえる鐘だ。この鐘が時間を教えてくれるらしい。時計は高級品だから、大体の人は教会の鐘で時間を把握する。村にいた時も、村長が持ってた随分と古ぼけた時計を一度見せてもらったことがあるくらいだ。逆になんであの人が持ってるのか気になるくらいだけど……噂じゃ昔は冒険者として稼いでいたらしいから、その時に手に入れたものかもしれない。
と、そんな話は置いておいて。六回目の鐘が鳴り終わる頃に、あの大男がギルドから出てきた。やっぱり彼がギルド長なのだろう。冒険者達のざわめきが引いていく。
ギルド長は辺りを一瞥し、咳払いをした。
「お前ら、準備はいいか? 相手はゴブリンといえど、大規模な巣だ。ゴブリンキングの発生も考えられている。くれぐれも気を抜かないように」
ギルド長は短く話を切り上げると、冒険者達を引き連れて門へと向かった。俺もその後ろについていく。
こうして見ると冒険者って人間が多いな。獣人はちらほら見かけるけど、俺みたいなエルフは一人も見ない。
ふと昨日宿に戻ったときのことを思い出した。二人組の獣人のパーティがテーブルについて食事をとっていたんだ。自分以外の客が珍しくてついじっと見てしまった。
解体屋のおじ……お兄さんが言っていた俺のような冒険者にも優しいという言葉。あれはつまり獣人やエルフのような亜人にも優しいということだったのだろう。
森に行く途中にも近くの冒険者達から視線を受け続けた。特に何をされるというわけでもないが、ただ単に鬱陶しい。できるだけ気にしないようにして歩いていると、前を歩いていた冒険者達が止まった。目的地に着いたんだろうか?
木々が切り倒された、広い場所に出た。前にそびえる崖には奥の見えない穴が空いている。あれが巣になっている洞窟か?
「まずランク別に分かれろ。テキパキ動けよ」
冒険者達は各々のランクに合わせて集まり始めた。
俺もEランクの集まりに入る。ふと気になって他の集まりに目を向けた。
こうしてみるとCランクって少ないんだな。Dランクはそこそこいるし、Eランクはかなり多いけど……やっぱり高ランクの冒険者はダンジョンに、それこそ忘却ノ迷宮あたりに挑戦していたりするんだろうか?
「分かれたな。CランクとDランクの奴らは俺についてこい。奥へ進む。Eランクの奴らは逃げ出そうとしたり巣に戻ってこようとするゴブリンがいたら仕留めるように」
CランクとDランクの冒険者達はギルド長と共に洞窟へ入っていった。
その間、俺達は待機だ。一応いつでも応戦できるようにはしているが、やることといえば時々巣に戻ってくるゴブリンや巣から逃げ出してくるゴブリンを倒すことくらいで、それだってほとんど別の冒険者が対処してしまう。
正直なところ、暇だ。今も食料となる獲物を狩ってきたゴブリンが冒険者の剣に腹を切り裂かれて倒れ込んだ。
……奥にボブゴブリンがいるな。弓持ちみたいだし、先に討っておくか。丁度射線も空いている。
スッと弓を構え、パッと放った。弓を持っているといっても、向こうの射程圏はそう広くない。それなりに近くないと射ってこないし、射ったとしても狙いがブレブレであまり当たることはない。
ま、それが逆に避けづらかったりするんだけど……俺が放った矢はボブゴブリンの頭に突き刺さった。我ながら中々のナイスショットだ。だてに森で狩りを続けてきたわけじゃない。
ひと段落したところで、近くにいた冒険者が話しかけてきた。細身の剣を持った、なんともチャラそうな男だ。
「なあ、お前ってエルフなんだろ? 耳とんがってるし」
「……そうだけど」
話しかけられたのは初めてだったから、少し身構えてしまう。そういえばさっきもちらちらと俺の方を見ていたな、こいつ。一体何の用だ?
「さっきの弓、凄かったな。やっぱエルフって目とかいいワケ?」
「さあ……どうだろう。今までの比較対象は小さな村だったから、若い冒険者と比べる機会なんてなかったんだ」
「へえ、村にいたんだ? 人間の?」
「ああ」
冒険者はじろじろと俺を見てくる。頭のてっぺんから爪先まで、じっくりと。
「エルフって気難しい奴が多いって聞いたけど、お前はそうでもないんだな。意外と話せるじゃん。やっぱ人間の村にいたから? それとも元々?」
「気がついた時にはその村にいたからな。俺にも分からないんだよ」
「訳アリってやつ?」
「……まあ、そんなところ」
話しているからか、他の冒険者達の視線も集まってきた。
それにしてもエルフってそう噂になるほど気難しいのか? 俺にはよく分からないな。この際だ、エルフのイメージについて聞いてみるか?
「お前にとってエルフってどんな存在なんだ?」
「え? うーん、そうだな。森に住んでて、人嫌いで……傲慢?」
「傲慢……」
「自分は特別だ〜とか思ってそう。ま、全部俺の想像なんだけど」
中々に酷い評価だな。想像ということだから実際は違うのかもしれないけど。
「俺、エルフって初めて見たからさ。会えて良かったよ。ここ森だしご利益ありそう」
「そんなものか?」
「さあ? なんとなくだからなあ。まあどっちでもいいよ。それじゃ、お互い頑張ろうぜ」
冒険者はひらひらと手を振って去ってった。随分と適当だし奔放な奴だな。
さて、俺は俺で経験を積まないとな。本当は巣の中に入ってみたいところだけど……勝手に行動するのは良くないだろうし。あーあ、もう一つランクが上がってれば着いていけたのにな。
それにしても巣はどれくらいの規模だったんだろう。かなり広いのかな? 時折ゴブリンに向けて矢を放ちながらそんなことを考えていると、突然巣の中が騒がしくなった。
「な、なんだ?」
「おい、何の音だ!?」
冒険者達もざわめき立っている。巣の暗闇から、わらわらとゴブリンの群れが駆け出してきた。