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初めての依頼

 街を出るときはギルド証を見せるとあっさり出られた。ギルド証さまさまだ。

 向かう先はエスカードの森付近の平原。この辺りにマギア草が生えていたのを見かけたからな。

 マギア草はポーションの元になる基本的な薬草だ。だからいくらあっても足りないんだろう。


「たしかこの辺に……ああ、あったあった」


 しゃがみ込んでガサガサと草をかき分けると、特徴的なギザギザの葉を見つけた。それを取りすぎない程度に摘んで、袋に入れていく。既にいくらか摘まれている痕跡がある。やっぱり基本的な依頼だからか?


「この辺りはこれくらいか? ひいふうみい……もう少し欲しいな」


 草をかきわけながら探し続ける。日が傾きかけるまでは粘りたいな。矢も補充したいところだし。


「お、たしかこれも依頼にあったな」


 肉厚な丸い葉の植物を摘み取る。チィーユ草……これもポーションの素材になる植物だ。葉の汁に治癒効果があって、よく傷跡に擦り付けたりしたな。

 似たような形の毒草があるから注意しないといけないんだよな。今はそんなことしないけど、一度間違えて使って炎症を起こしちまったこともあった。

 ちなみに見分けるコツは茎の色。毒草の方は茎が赤っぽいんだよな。


 それから暫くの間、手が青臭くなりそうなくらい摘みに摘んだ。ずっとしゃがんでいるせいで腰が痛くなりそうだ。


「ふー、結構摘んだな。もう袋も一杯だし、そろそろいい時間だろ」


 空を見上げると日が傾きかけている。暗くなるまでは結構早いし、もう帰った方がいいな。


「よいしょっと」


 袋を担いで街への道を戻る。この辺は魔物も少なくていい場所だな。暫くこの付近で依頼をこなすのもいいかもしれない。

 街に戻るとき、ギルド証を見せるとそのまますんなりと通れた。

 うん、やっぱり作ってよかったなあギルド証。毎回銀貨三枚は流石に痛い。


「よし、パパッと換金して宿探すか!」


 意気揚々とギルドへの道を歩く。

 そうだ、この街に来るまでに狩ったビッグボアの皮も売れるかな。受付に聞いてみよう。

 ギルドに戻ると、結構な数の冒険者がいた。依頼から帰ってきたんだろうか?

 視線を感じながら受付に行き、袋をカウンターに置く。


「マギア草とチィーユ草なんだけど、精算ってここで合ってますか?」

「ええ、こちらで問題ありませんよ。では確認させていただきますね」


 袋を開けた受付嬢は淡々と慣れた手つきで仕分けし始めた。流れるような手捌きに少し目を奪われる。

 やっぱり何十回何百回としてきたら、これくらい捌けるようになるのかなあ。


「……はい、確認いたしました。マギア草が二十束、チィーユ草が十六束ですね。マギア草が一束で五ピア、チィーユ草が十ピアなので合わせて二六十ピアです」


 二枚の銀貨と六枚の銅貨を受け取る。今日一日の出費を考えるとマイナスだなあ。初心者向けの採取依頼だけだとこんなものなんだろうか?


「あ、そうだ。森で狩ったビッグボアの皮を売りたいんだけど、それもここで?」

「依頼外の素材でしたら、あちらです」


 受付嬢が指し示す先を見ると、ガタイのいいおじさんがいるカウンターがあった。服装といい、奥の設備といい、もしかして狩った獲物を解体するサービスもしてくれるんだろうか?


「ありがとう」


 よし、それじゃあ早速ビッグボアの皮も売っちゃおう。少しでも足しになればいいな。

 カウンターに寄ると、おじさんが俺を見下ろしてきた。この人、背が高いな。ちょっと厳つい顔してるし……村にもここまでのコワモテはいなかったぞ。


「よう、エルフの兄ちゃん。何を売りたいって?」

「ビッグボアの皮だよ。エスカードの森で狩ったんだ」


 皮をカウンターに置くと、おじさんは隅々まで検品した。


「中々いい毛皮だな。これなら銀貨三枚ってところだ」

「じゃあそれで」

「おう」


 銀貨三枚を受け取って袋に入れる。なんとかプラスになったな。これなら今日の宿代も大丈夫だろう……たぶん。


「おじさん、オススメの宿ってある? 安いと助かるんだけど」

「おじさんじゃない、お兄さんと呼べ。そうだな、ここを出て右手側にある銀猫亭がいいぞ。あそこは兄ちゃんのような冒険者にも優しいからな」


 俺のような……っていうのはどういうことだろう。エルフってことか? まあギルドで長年働いてそうな人のオススメなら多分間違っちゃいないだろう。


「分かった、行ってみるよ。ありがとうな、おじ……お兄さん」


 ギロっと睨まれて慌てて訂正する。ちょっと怖えな、この人。

 おじ……お兄さんの案内通り右手側を探すと、猫のシルエットが描かれた看板が吊るされた建物を見つけた。

 扉を開けるとカランカランと鈴が鳴る。机を拭いていた猫獣人の少女が尻尾をピンと立てて振り向いた。


「いらっしゃいませ! お食事ですか? 宿泊ですか?」


 にぱっと笑った少女は机を拭くのをやめてこちらへ駆け寄った。


「宿泊で」

「はい! えっと、部屋に案内しますね! お母さん、お客さん来たよ!」


 少女は奥のキッチンに声をかけてから階段を登ろうとした。そこに彼女の母親っぽい声がかけられる。


「ちょいと、ちゃんとお金貰ってよ!」

「あっ、そうだった! 朝食付きで一泊五十ピアです」

「じゃあ二泊分で」


 銀貨を一枚差し出すと、少女は大事そうに握りしめた。


「はい、たしかに! ではご案内します!」


 少女に続いて階段を登る。それにしても元気な子だなあ。


「こちらです!」


 少女はニッコニコの笑顔で扉を開けた。中はベッドと机だけが置かれた小さめな部屋だ。


「ごゆっくりお休みください〜!」


 中に入ると少女は扉をゆっくり閉めた。


「ふー」


 ベッドに腰掛けて荷物を下ろす。これでゆっくり休めるな。

 あの解体屋のお兄さんが言っていた通り良い宿だ。部屋はこぢんまりとしてるけど、ベッドは清潔だしな。

 荷物から干し肉を取り出してかじる。これを食べたら今日はもう寝よう。


 ベッドに寝転がり、目を閉じる。


「明日は討伐依頼でも受けてみようかな」


 くああ、と大きくあくびをして眠りに落ちる。

 冒険者生活は中々の滑り出しみたいだ。

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