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食後の特訓

 新しい朝が来た。希望を含んだ朝かどうかはわからないが、空はキレイだ。太陽の光が暖かい。

 のそのそとテントから出てくる気配に振り向けば、リーファだけが出てきていた。

 さてはケイトのやつ、昨日有言不実行したのを恥ずかしがってるな?


「おーい、ケイトー? まだ眠いのかー?」

「……分かってるだろ、もう」


 テントの陰からじとりとした目で見つめてきた。その頬はほのかに赤らんでいる。


「まあ気にするなよ、ケイト」

「起きたらケイトちゃんがいたからびっくりしたよー。交代してたんだね!」

「う、うん、まあ……そういうことだ」


 ケイトは目を逸らしながらもそもそとテントから出てきた。仕方ないからそういうことにしておこう。


「さ、ケイト。今日も美味い料理を頼むぞ」

「おー、任せろ! 朝は軽くスープにするか」

「スープ! お肉は? お肉は入れるの?」


 リーファはしゃがんで薪に火をつけながら目を輝かせて振り返る。


「もちろん入れるぞ!」


 大きなリュックから肉を取り出したケイトはいい笑顔で親指を立てた。あの肉は……ボア系かな?

 テントも片付け終わったから、ケイトの料理を眺める。慣れた手つきで肉と野菜を切り、鍋に入れていく。水を注いで煮込んでいく。塩で味付けして、パラパラと鮮やかな緑色のハーブを散らしたら完成だ。


「ほいっ、できたぞー」


 器に注がれたスープは具沢山で美味しそうだ。一口飲めばやさしい塩味と肉の旨みが広がっていく。パンとの相性もバッチリだ。


「はふはふ……おいひいねえ」


 リーファはにっこにこでスープを楽しんでいる。いい食べっぷりだなあ。彼女と一緒に食べると料理がより美味しく感じられる。ケイトも嬉しそうだ。

 まだ彼女達の悲しみは消えないだろうな。でも、これはいい傾向だと思う。


「あ〜、おいしかった!」

「今日もありがとな、ケイト」

「へへっ、どうも」


 鍋を片付けて、食後のお茶を一杯。香ばしい香りは心を落ち着けてくれる。


「そうだ、リーファ。魔法の練習をしないか?」

「練習?」

「ああ。あの本、一応全部読んだからさ。どうかな?」


 彼女は少しばかり考えて、こくりと頷いた。その顔はやる気で満ちている。


「やる! やってみるよ。エスカくん、教えてくれる?」

「ああ」


 ケイトがお茶をちびちびと飲みながら見ている中、リーファが杖を構えた。はめ込まれた赤い石が日光を浴びてキラリと光る。


「魔法はとにかくイメージが大切だそうだ。集めた魔力を前へ押し出すイメージでやってみてくれ」

「うーん、ううん……前へ、前へ……ファイアボール!」


 ボッと燃え盛った炎は、少しばかり杖から伸びていた。飛ばせてるわけではないけど、これは……!


「いいぞ、いい感じだ! その調子でもっと前へ押し出すんだ!」

「うーんうーん……! もっと前……! ファイアボール!」


 もっと炎が伸びている。これはボールというより、なんというか……ムチと形容した方がいいかもしれない。それでも成長は成長だ。


「もうちょっとだ! 次は前へ押し出した炎を切り離すイメージでいこう」

「切り離す……押し出して切り離す……ッ、ファイアボールッ!」


 放たれた炎は、たしかに杖から離れている。一メトルほど離れたところで、一瞬だったが炎の球がたしかに形成されていた。


「わ……! 飛んだ! 飛んだよー!!」

「やったじゃないか、リーファ! 成長したなあ!」

「えへへっ、アタシでもできるんだ……!」


 くふくふと笑ったリーファが杖を抱きしめる。もっと練習していけば、いつかファイアボールをモノにできそうだな。


「リーファって魔法飛ばせなかったのか。それであの戦い方だったんだな」


 ケイトがお茶を飲みながら呟く。ケイトは知らなかったのか。そういえば言ってなかったな。ソシエゴ獣王国まではリーファの噂が広がっていなかったのだろう。


「そうなの。でも、もっとも〜っといっぱい練習すれば、きっと使えるようになるよね?」

「ああ、その意気だ。俺も練習しないとな。なかなか魔力の変換が上手くいかないんだ」

「魔法かあ。オイラも練習したら使えるかなあ? 炎と水の魔法が使えるようになれば、料理するのに便利そうだ」


 料理に繋げるあたりがケイトらしいな。そういえば、魔法で出した水って飲めるんだろうか? 気にしたことなかったけど、魔力除去してない魔物の肉を食うと体調崩すことを考えると、魔法で出した水も気をつけた方がよさそうだ。


「よし、俺達もやってみるか」

「おー! 魔力を集めるのは分かるぞ。変換ってどうやるんだ?」

「変換もイメージらしいけどイマイチ分からないんだよな。熱くなれって念じても変わらないし」


 炎の矢とか敵を凍らせる矢とか放てたら強そうなんだけどな。そう上手くはいかないものだ。


「なあ、リーファはどうやってるんだ? オイラ達に教えてくれよ」

「えっとねー、むむむ〜ってして、ぎゅーんとして、ぱーって!」

「な、なんだって?」


 俺もリーファに聞いたことあったけど、同じ答えが返ってきたんだよなあ。すごく感覚的で正直参考になるかと言われると……うん。


「むむむ〜ってして、ぎゅーんとして、ぱーっ! だよ!」

「むむ……? とりあえず力を込めればいいのか?」


 ケイトは一生懸命ついていこうとしている。魔力を集めて変換して放つってことなんだろうけど、変換が難しいんだよなあ。

 俺が矢に魔力を込めている隣で、ケイトも包丁に魔力を込めていく。

 結果は……ダメだった。俺の弓は光るだけだし、ケイトの包丁は……。


「おっ、切れ味が良くなったぞ! これはこれで悪くないけど、ちょっと疲れるなあ。魔力込めすぎたか?」


 試し切りをしてはしゃいでいる様子を見るに、あれはあれで悪くない結果になったようだ。俺も試しに射ってみるか。

 適当な木に向かって矢を放つ。ギュンッと飛んでいった矢は大きな音を立てて木に深くめり込んだ……というか貫通してるな、あれ。

 ケイトもリーファもぽかんとして穴が空いた幹を見ている。


「す、すっごーい!」

「強いな! なあ、これ必殺技にしようぜ!」

「うーん。威力はすごいけど、結構時間かかるんだよな。いざという時に使えるかというと微妙な気がするぞ」


 でもまあ覚えておくか。手段は多い方がいいもんな。


「よし、練習はこれくらいにして行くか」

「おー!」

「目指すは皇国だねっ!」

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