ファンタスマ・サーカス
それから暫くリーファと一緒に森を探してまわった。しかし、件の子供どころか魔物一匹さえ見つからない。時々木の上にいた鳥が飛んでいくくらいだ。
「いないねえ……」
「見つからないな」
空を見上げると、日が傾きかけていた。そろそろ戻った方がいいだろう。
「時間が近い。もう戻ろう」
「うん。うーん、マオちゃん達は見つけられたかなぁ」
「どうだろう……もっと別のところを探した方がいいかもしれないな」
ガサガサと草木を揺らしながら進む。葉が肌に当たって少しくすぐったい。かぶれなきゃいいけど。
元の地点付近に戻ると、既にケイトがいた。
「先に戻ってたのか。マオは?」
ケイトの背中に声をかける。近くにマオはおらず、一人ぽつんと佇んでいた。
「エスカ、リーファ……!」
振り返ったケイトは少し青ざめていて、随分と焦っている様子だ。
なんだ、何があったんだ? まさか、マオに何かあったんじゃないだろうな。
走り寄ってきたケイトは、俺の手をぐいぐいと引っ張る。
「マオが、マオがよく分からない所にいっちまったんだ! 早く、早く助けに行かないと!」
「よく分からないところ?」
「早く!」
引っ張られるままケイト達が捜索していた方へ進んでいく。
「分かった、ついていく。ついていくから、落ち着いて何があったのか教えてくれ」
「そうだよ、一体何があったの? よく分からないところってどこ?」
ケイトは大きく深呼吸して、ぽつりぽつりと話し始めた――
――オイラ、マオと一緒に森の中を探してたんだ。いろんなところを歩いて回って、名前を呼んで、探して探して、でも見つからなくて。
それで、そろそろ戻った方がいいんじゃないかって話になって……そんな時に、それを見つけたんだ。
赤と白の、大きなテント。中は真っ暗で何も見えないんだ。まるでダンジョンの門みたいだった。
オイラ、一度戻った方がいいって言ったんだ。でもマオのやつ、ココの気配がするって言って中に入っちゃったんだよ。オイラ怖くて、このことを伝えなくちゃって思って、それで戻って来たんだ――
「それって、ここから近いのか?」
「うん、そんなに遠くないはずだ。こう……うねうねって感じに探していってたから、大体あっちの方に……」
ケイトが指差した先はただ木が続いている。やっぱりケイトは空間把握能力が高いように思うのは気のせいだろうか。
ケイトの先導で進み続けると、突然開けた場所に出た。それまでの木々の群れが嘘だったかのように、ぽっかりと穴があいている。
そして中央に赤と白の巨大なテントが一つ、張ってあった。
なるほど、たしかにダンジョンのそれと似ている。入り口は黒く、その先には闇が広がっていた。この先にマオは一人で入って行ったのか。なんて危ないことを……。
「ここがそうだ」
「なんだろう、なんだか変な感じがするよ」
「異様な雰囲気だな……ここにダンジョンなんてないはずなんだけど」
地図を見ても何も載っていない。未発見のダンジョンということか? そして、こんな場所にその探している子供……ココがいるんだって?
なんとも怪しい状況だけど、入らないわけにはいかない。二人と顔を見合わせて頷き、テントの中へと一歩踏み出す。
途端に別世界へ入り込んだ。
まず視界に飛び込んできたのは、薄暗いステージ。そして、ずらりと並ぶ無数の椅子。ここは舞台か何かか?
他のダンジョンと違って遠くまでよく見えるのが不思議だ。ここは一体なんなんだ。ダンジョンなのか? それとも、違う何かなのか。
「マオちゃんはどこ……?」
リーファがキョロキョロと辺りを見渡す。そうだ、考え込んでいる場合じゃない。一体どこに行ったんだ?
暗い足元に気をつけながら通路を進む。半ばまで進んだあたりでパッと視界が眩んだ。どうやらステージの照明がついたらしい。
「わっ、眩しい……!」
「なんだ、何が起きたんだ!?」
「落ち着け、ステージの照明がついただけだ」
俺達が来たことに気づいたのか? ステージの上には、一人の少年が立っていた。
色とりどりのライトの下、たくさんの風船が飾られたステージの上。大きく片手を広げた、その少年。
黒と白の髪。ピンクの瞳。褐色の肌。
赤と白の帽子から覗く犬の耳。痩せ細った体を覆うのは、首元と手首に白いヒダヒダの襟がついた、奇妙ながらも煌びやかな衣装。
「ようこそ、ファンタスマ・サーカスへ!」
声変わり前の、高い声の少年。
その腕には、だらんと脱力したマオが四肢を投げ出して抱かれていた。
「マオ!!」
俺が名前を呼んだからだろうか。少年は……ココは、キョトンと目を丸くした。その頬には黒い雫と星のマークが描かれている。
「マオのこと、知ってるんだ? マオのおともだち?」
「お前は……ココ、だよな? マオはどうしたんだ……?」
不思議そうに首を傾げる少年に尋ねれば、彼はにっこりと笑ってマオの体を起こした。
「マオはね、おやすみの時間だよ」
ぐらりと傾いた、マオの首。ライトの下に晒された彼女はひどく虚ろな瞳をしていた。口から垂れた赤色が、彼女に何が起きたのかを示していた。
赤く染め上げられた服。指先を伝った雫が、ぴちゃんと床に落ちた。




