表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/192

ざわめく森を抜けて

 トーガ村を出て、エスカードの森を歩く俺、エスカ・トーガ……こうして思うと、俺がもらった名前ってまんま出身地(仮)なんだな。まあ分かりやすくていいことだ。

 エスカードの森は食材が豊富だ。だから村を出る時も、作っておいた干し肉をいくらか持ち出すだけで充分食い繋ぐことができる。


「よし、これくらいでいいか」


 木の実と食べられる草、それから撃ち落とした鳥の肉。それらを小鍋に入れてグツグツと煮込む。味付けは塩を少々。

 あの村で過ごす内に、この森の植生には随分と詳しくなった。食べられるかどうかも一目で分かる。最初はうっかり毒草を口にして腹を壊したこともあったけど、すっかり成長したもんだ。


 煮立った鳥と野草のスープで腹を満たしたら、ぱぱっと片付けて森を進む。目指すは王都。名前はたしか……ハーモニア。


「んー、もう少しかな。ここまで来たのは初めてだけど、なんかさっきからイヤ〜な気配がするんだよなぁ……」


 そういえば森の奥は魔物が出ることがあるって言ってたな。今まで魔物を相手したこともあったにはあったけど、この辺りに出てくるのも同じヤツらならいいな。そしたらまだ楽だ。

 ぐんぐんと森を進んでいると、ついにヤツらは姿を現した。ガサガサと草木が揺れて、大きな芋虫が顔を覗かせたのだ。


「グリーンキャタピラーか。いつも通りっちゃいつも通りだな」


 狩りをしている時にも度々遭遇していた。ただ異常にデカいだけの芋虫だ。成虫となると少々厄介らしいけど、幼虫のコイツは時々吐き出す系と酸に気をつければいい。……まあ、それも最初の頃は苦戦したんだけどな。


「ま、要するに遠くから一方的にやればいいだけなんだよなぁ」


 弓を引いて一発、二発。それでカタがついた。

 矢に貫かれたグリーンキャタピラーはギィと断末魔をあげて倒れる。

 それでもまだイヤな気配は消えなかった。まあ、そりゃそうだ。だってなんの変哲もないグリーンキャタピラーにそんな気配を醸し出せるわけがない。ただの気のせいかもしれないけど。

 こんなに村を離れたことはなかったから、少し不安になってるのかもな。こんなの村長に知られたら大笑いされそうだ。


「さて、それじゃもうひと歩きしますかね」


 弓を担ごうとしたところで、再びガサガサと草木が揺れた。瞬間、背中がゾッとして咄嗟にその場から飛び退く。

 ついさっきまで俺がいた場所を、茶色い巨体が走り抜けた。


「うげっ、でっけぇイノシシ!」


 俺の身長の二倍くらいありそうだ。イヤな気配の正体はコイツか。

 なんていったっけ、ビッグボア? 名前なんてなんだっていいか。

 矢筒から矢を引き抜く。アイツの皮膚、かなり分厚そうだな。一発や二発じゃ通らなさそうだ。

 それでも狙いを定めて矢を放つ。ぐっさりと刺さったものの、あまり効いていないように見える。それどころか怒らせてしまったらしい。

 大きな鳴き声を上げたビッグボアは俺目掛けて突進してきた。鋭い牙を避けて、もう一発。たしかコイツは走り出すと曲がれないんだ。だから避けられなくもない。

 それでも速いから余裕をもって避けなきゃいけないんだ。ちょっと気を抜くとあの牙でズバッとやられかねないからな。


「うーん、短剣……は危ないかなあ。あまり消費したくないけど、まずは矢かな」


 もう一発、今度は目を狙って放つ。少し外れた。もう一発。

 ヒュッと飛んだ矢はビッグボアのギョロっとした目に突き刺さった。


 地響きのような声が上がる。よし、効いてる効いてる。このままもう片方の目も潰そう。

 キリリと弦を引いて矢を放つ。今度は一発でバッチリ当たった。

 視界を奪われたビッグボアは当てずっぽうに突進した。ひらりとその背に乗って、首元にしがみつき短剣を突き刺す。


「だぁっ、コイツ硬ぇな!!」


 ぐぐぐと力を込めて刃を押し込む。大暴れしていたビッグボアは首から血を吹き出しながら少しずつ大人しくなった。

 倒れ込む寸前に背中から降りて、地面に伏した巨体を眺める。流石に全部持っていくわけにもいかないから、ある程度の肉と皮だけ持っていくとしよう。

 ……今日中に森を抜けるのは無理かもな。解体に時間取られるから。仕方ないから持ち運べない分の肉はできるだけここで食べてしまおう。


 満足に血抜きできないのが残念だけど仕方ない。すでに空は赤くなりつつある。思ったより時間がかかってしまった。

 その辺に生えてる草から香りの強いものを多めに摘んで、肉を包むようにして焼く。これで多少臭いが取れればいいけど。

 肉から出たたっぷりの脂でこんがりと焼き上げる。ビッグボアは魔物というよりただただデカいイノシシだ。だから処理せずに肉を食べてもそんなに魔力酔いしない。

 これがレッドボアとかブラックボアとかだと魔力酔いするらしい。まあ、そいつらは魔石持ち……正真正銘の魔物らしいから、そりゃそうなんだけど。

 焼き上がった肉を香草と一緒に頬張る。じゅわっと肉汁が口いっぱいに広がった。香草の爽やかな香りが鼻を抜ける。


「ん、まあまあ美味いな」


 パンが欲しくなる味だ。焼きたてのパンを切って挟んだら美味いだろうなあ。唇についた脂をぺろりと舐め取った。

 さて、腹も膨れたことだし寝るか。空はすっかり暗い。

 木の幹に背を預けて目を閉じる。あー、寝てる間に襲われませんように。


 ……次に目を覚ました時、空は明るくなっていた。思ったよりぐっすり眠れたな。少し体は痛いけど。

 ぐい〜っと体を伸ばして息を吐く。さて、昼には森を抜けられるかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ