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獣人達の街

 ソシエゴ獣王国。その名の通り獣人がたくさんいる街だけど、やはりエルフはいないようだ。よっぽど珍しいのか、ちらちらと視線を受ける。それでもアマルガ王国にいた時より視線が少ないように感じるのはお国柄だろうか?


「えっと、ずっと東にあるんだよね?」

「ああ。ソシエゴ獣王国はこの中央街の他にほとんど町がないらしい。唯一あるのが、そのネグロっていうダンジョン街だそうだ」

「へえ、ビギンズもそうだけどダンジョンの側には街があるものなんだね!」

「それだけ儲かるってことだろうな」


 街並みを眺めながら歩いていると、リーファの腹がくうと鳴った。そろそろ食事時か。

 彼女はお腹を押さえて、ふにゃりと笑う。


「えへ、お腹すいてきちゃった」

「どこかの店にでも寄ろうか。えっと、この近くにあるかな」


 辺りを見渡す。丁度この辺はいろんな店があるみたいだから、すぐに見つかりそうだ。

 ふと美味しそうな香りが鼻先をくすぐる。うわ、すごく食欲をそそる匂いだ。その出所を探ると、オシャレな木製の看板が目についた。えっと、ペルシュワール? 名前もオシャレだな。どうやら匂いはここから漏れているらしい。


「レストランかなぁ? ここにする?」

「そうだな。ちょっと高そうだけど、見た感じ高すぎるってこともなさそうだし……」


 ガラス窓から中をちらりと見たかぎり、鎧を着た冒険者っぽい格好の人もちらほらいる。ふと窓際にいくつかメニューが出されているのを見つけた。一食だいたい70ピアか。


「よし、ここにしよう」

「やったあ! この匂いかいじゃったら、もう諦められないよ〜」

「ははっ、そうだな。せっかくだからデザートも頼んじゃうか」


 扉を開けると、カランカランと涼しげなベルが鳴る。


「いらっしゃいませ」


 客は獣人ばかりだが、店員もまた獣人だった。キツネだろうか? ふさふさの尻尾を揺らした振り向いた店員は少しばかり表情を固くした。

 気のせいか? いや、気のせいじゃないな。店中の視線が俺達に集まってる。あれ、もしかしてここって獣人オンリーの店だったりする?


「……こちらへどうぞ」


 あ、でも店員は案内してくれるみたいだし大丈夫なのか?

 案内された席に着いて、メニューを広げる。肉から魚、野菜主体の料理まで色々あるな。


「どれにする?」

「うーん、迷っちゃうね。どれも美味しそう!」


 これかなあれかなと細い指がメニュー表の上をさまよう。

 たしかにどれも美味しそうだ。


「よしっ、これにしよう! エスカくんは決まった?」

「ああ、決めたよ」


 店員を呼んで注文する。心なしか店員は少し緊張しているように見えた。どうしたんだろう、新人の店員とかかな。


「えっ、もうあの本半分くらい読んだの? エスカくんすごいね!」

「夜番中に読み進めてたら、いつの間にかな。目を通しただけで、まだ完全に理解したとは言えないけど」

「それでもすごいよ! あーあ、アタシもすらすら〜って本を読めたらいいのになぁ」

「少しずつ練習してみるか?」


 リーファはきゅっと口を引き結んで、むっと眉を寄せた。よっぽど嫌なんだな、本を読むの。


「うーん、う〜〜〜〜ん……うん、そうする。ちょっぴり不安だけど……」

「ゆっくりでいいさ」


 それでも成長しようという思いがあるのなら充分だ。

 そうして暫く談笑していると、キツネ獣人の店員によって料理が運ばれてきた。

 俺の前には赤いソースがかけられた一口大に切られたポテトフライが、リーファの前にはオリーブオイルをかけた薄くスライスされた赤身魚の燻製が並べられた。テーブルの中央には貝やエビ、野菜がたっぷりと敷き詰められた黄色いライスがアツアツの鉄板の上で湯気をたてて鎮座している。

 これがソシエゴ獣王国の料理かあ。


「わああ、おいしそ〜!!」


 リーファのオレンジ色の瞳がキラキラと輝く。たしかにこりゃ美味しそうだ。

 なんか鋭い視線が気になるけど……せっかくの料理だ、気にしてちゃ不味くなるよな。

 具沢山な黄色いライスを取り分けて、いざ実食。


「じゃ、俺はこのライスから……」

「じゃあアタシも!」


 ライスってあまり食べたことないけど、華やかな香りがするな。エビと一緒にスプーンに乗せて、ぱくりと一口。

 ぷりぷりしたエビが口の中で弾けた。この香りがエビの美味しさを引き立てているようだ。

 野菜の方もすくって、一口。玉ねぎかな? 甘みが滲み出ていてうまい。


「ん〜! おいひ〜!」


 リーファも満足しているようだ。もきゅもきゅと口を動かしている。

 ポテトフライの方も食べようかな。たっぷりと赤みがかったソースがかかったそれを、ぱくり。

 トマトの風味が強いピリ辛ソースが、外はカリカリ中はホクホクのポテトと絡み合って絶妙だ。ちょっと味が濃いめだから、こっちのライスと交互に食べるとどんどん進む。

 リーファが頼んだ魚の燻製もよほど美味しいんだろうな。さっきから彼女の食べる手が止まらないから。


「うまそうに食べるなあ」

「だって美味しいんだもん! ここ、すっごくいいお店だね!」


 幸せそうな笑顔でスプーンを揺らす姿がほほえましい。

 気づけば、俺達に向いていた視線が温かいものに変わっていた。あの少しピリついた空気は何だったんだろう?


「どうぞ、食後のデザートです」


 食べ終えたあたりで店員がデザートを持ってきた。真っ白な粉糖がかかった茶色くて薄い三角のケーキだ。


「わ〜! これもおいしそう!」

「たしか木の実を使ったケーキだったな。どれ……」


 一口食べると、ふわりとレモンの香りが広がる。結構砂糖がかかってるように見えるのに、思ったより甘すぎない。素朴で優しい味わいだ。

 これもぺろりと食べ終えて、軽くお腹をさする。すごい満足感だ。


「ふ〜、おいしかったぁ! また来ようね、エスカくんっ」

「そうだな。これだけ美味しいなら帰る時も寄りたいな」


 支払いを済ませて店を出る頃には、店の雰囲気も和やかなものになっていた。

 さて、腹ごしらえも済んだことだし東に向かって進むぞ。

 今日中に街の端までは辿り着きたいものだ。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 カランとベルが鳴って、エルフとイノセンスの二人が出て行った扉を見つめる。

 エルフの客なんて初めてで味が合うか不安だったし、イノセンスの客はろくな客がいないと思ってたけど……そんなことはなかった。

 とても美味しそうにうちの料理を食べてくれた赤毛の少女に心が暖かくなる。


「おーい、料理できたぞ。運んでくれー」

「はいっ」


 さ、私もウェイトレスとして頑張らないと。

 もっと美味しい料理をお客さんに届けるために。

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