噂
ビギンズとはまるで違う空気に、人々の賑わい。
半日ほどかけて平原を歩いてきた俺達は、王都ハーモニアに戻ってきていた。
「ここもそんなにいたワケじゃないけど、帰ってきたって感じがするなあ」
大通りを歩きながら呟く。ここに来るまでに採取した薬草達と、見かけて討伐したゴブリンの耳を換金するために、ギルドに向かっているところだった。
「ここが王都……すごく大きい街だね!」
「なんと言っても王都だから、そりゃあな。王都に来たのは初めてなのか?」
「うん。一人で街を出るの、少し怖くって。ずっとビギンズで暮らしてたの」
リーファはキョロキョロと辺りを見渡している。足取りも弾んでいるようで、なんだか楽しそうだ。
ちらちらと道行く人々の視線を受けながらギルドの前に辿り着く。
「ここが王都のギルドだよ」
「わあっ、ギルドも大きいね! ビギンズのギルドはもっと小さかったよ」
「そう言われるとそうだな。さすが王都ってとこか」
「なんだか少し緊張するなぁ」
「そうか?」
扉を開くと、テーブルについていた冒険者達がチラリとこちらを見た。
「あのエルフだ」
「なんだ、辞めたんじゃなかったのか」
ヒソヒソと話しているつもりなんだろうが、聞こえてるんだよなあ。数日開けただけだし、そもそも俺はビギンズに行ってたから王都にいなかっただけだって。
「……赤毛の魔法使い? 俺聞いたことあるぜ、仲間にしない方がいいって」
「あ、それ俺も聞いたことあるわ。なんだっけ? 炎の魔法しか使えないくせにヘタなんだっけ?」
「俺は仲間にしたが最後こっちまで燃やされるって聞いたぞ」
リーファのことか? 彼女はビギンズから出たことがないと言っていた。なのに王都でまで噂になっている……?まさかビギンズを訪れたことのある冒険者から伝わったのか。
彼女を見ると少し俯いている。気にするなと言うのも違うだろうし……でも、相手にするのもなあ。
リーファの魔法はたしかに課題が多い。それでもその火力には助けられたし、彼女には光るものがある……と思う。それを好き勝手に言われるのは気分が悪いな。
「行こう、リーファ」
「うん……」
少し柔い手を引いて受付に向かう。薬草とゴブリンの耳が入った二つの袋をカウンターに置いた。
「精算お願いします」
「はい、かしこまりました」
受付嬢は淡々と業務をこなしていく。できれば今も後ろで何か話している冒険者達に一言注意でもしてくれればいいのにな。それともこういうのって日常茶飯事なのか……? だとしたら冒険者ってかなり治安が悪いな。
「合わせて二百三十ピアになります」
「どうも。さ、宿に行こう」
報酬を受け取ってすぐに引き換えそうとしたところで、受付嬢から声をかけられた。
「お待ちください、お二人とも今回の依頼達成でランクが上がりましたのでギルド証の更新を行う必要があります」
「もう上がったのか?」
ギルド証を渡すと魔道具で何やら処理が行われる。にしても、どうやって俺達がダンジョン攻略したことを知ったんだろう。
……そういえば、このギルド証自体が魔道具の一種だって最初の説明で聞いた気がする。何らかの方法で情報が伝達されているんだろうか?
「はい。エスカさんは以前のゴブリンの巣掃討作戦、初心ノ洞窟の踏破、常設依頼の達成。リーファさんは複数の依頼達成、初心ノ洞窟の踏破、常設依頼の達成。以上の功績をもちまして、お二人ともDランクへの昇格となります」
ランクが上がったギルド証を受け取って、今度こそ引き返す。あまりここに長居したくないな。前からそう思ってはいたけど、今は余計にそう感じる。
ギルドを出る間際、少しだけ気になる言葉が聞こえた。
「話戻そうぜ。最近魔物が増えてるって噂――」
扉が閉じ、それ以上は聞こえなかった。魔物が増えてるのか……ソシエゴ獣王国に向かうにも気をつけた方がよさそうだな。
それにしても……あいつらのせいでリーファがかなり落ち込んでしまった。彼女の少し丸まった背中を軽く叩く。
「ほら、行こう。俺はお前の強さを分かってるよ。それにランクも上がったことだしさ、まだまだこれからだって」
「エスカくん……」
小さく頷いた彼女は、ほっぺたを両手でパチンと叩いてにっこりと笑った。
「落ち込んでちゃダメだね。もっともっと頑張って、立派な魔法使いにならなきゃ!」
「そうそう、その意気だ」
二人並んで向かう先は銀猫亭。世話になっていた亜人向けの宿だ。
扉を開くと看板娘が笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃいませ! お食事ですか、宿泊ですか?」
「両方で」
支払ってテーブルに座る。
リーファは猫系獣人の看板娘が気になるようで、ちらちらと視線を送っていた。
「気になるのか?」
「うん! もふもふしてるなあって」
「もふもふはいいよな……」
うんうんと頷く。もふもふは素晴らしい。それはもう。
でもあまり触る機会がないんだよなあ。外で出会うもふもふした動物って大体警戒心強いし。かといって狩った後の毛皮はなんか違うし。
「ソシエゴ獣王国に行ったらもっと見られるだろうよ」
「ほんと?」
「なんてったって獣王国だからな」
「楽しみだなあ!」
彼女は頬杖をついてにこにこと笑っている。そこに看板娘が料理を持ってきた。
「お待たせしました!」
テーブルに並べられていくのはホカホカと湯気をあげるスープに黒パン、そして肉の炒め物だ。
皿を前にリーファは瞳を輝かせる。
「わっ、おいしそー!」
「良い匂いだな」
「ごゆっくり〜」
去っていく看板娘の尻尾がゆっくり揺れている。
そういえばあれから客はたくさん来たんだろうか。良い宿だから今後も世話になりたいものだ。
「おいし〜!」
「リーファはなんでも美味しそうに食べるよなぁ」
野営中の塩スープもニコニコで口にしていた。いつも通りの味のはずが、リーファと一緒に食べるともっと美味しく感じたんだよな。やっぱり誰かと食べる料理はいいものだ。
「冷たくない料理ならなんでも好きだよ!」
「あー、温かい方が美味いもんな」
「それに寂しくないもんね。ふふっ」
彼女は小さく笑うとパンに大きくかぶりついた。本当に幸せそうに食べるなあ。
俺も同じようにパンにかぶりつく。香ばしい小麦の香りが広がっていく。
食事を終えたら、ゆっくり休んで……明日は朝から出発だ。ソシエゴ獣王国……話には聞いているけど、実際どんな所なんだろう。




