初心ノ洞窟
仮の仲間としてパーティを組んだ魔法使いリーファ・レヴァ。彼女はまさかの物理系魔法使いだった……!
なんてちょっとした現実逃避をしながらダンジョンを進む。現れるゴブリンやスライムは全てリーファが杖で殴って焼き尽くしていった。
しかしまあ、凄いな。杖でぶん殴る戦闘スタイルには面食らったけど、火力はかなりのものだと思う。俺は後ろから弓を構えるだけで終わっている。
魔物を見つけると待ってましたと言わんばかりに杖を振りかぶって突撃している様はインパクトが凄まじい。
「バケモノじみてるな……」
一度に出てくる相手が少ないというのもあるけど、俺の出る幕がほとんどない。ぼそりと呟くと、今し方ゴブリンを燃やし終えたリーファはぎこちなく振り向いた。
「ア、アタシなにかしちゃった……? もしかしてそっちまで炎飛んじゃった!?」
「え? あ、いや、大丈夫だけど」
「ホント……?」
珍しくおどおどとした様子の彼女は、どこか焦っているようにも見える。
「ああ、大丈夫だ。強いなって思ってただけだよ」
「そうなの?」
「うん。それだけだから」
「よかったぁ……!」
ホッとしたリーファはだらんと脱力した。
バケモノじみてるとか言わない方がよかったか? 悪いことしたな。
リーファはもう気にしていないようで、現れたスライムを燃やしに走って行った。元気だな。
「……お、階段」
「えっ、階段? 次のフロアってこと?」
「そうみたいだ」
地下に続く階段を見つけた。これが次の階層への入り口だろう。
一階はリーファに任せっきりだったけど、二階からは俺も頑張らないとな。
「ここを降りたらもっと手強い敵が出てくるかもしれない。気をつけて進もう」
「はーい!」
階段を降りていくと、また石レンガの壁が続いている。見た感じだと一階層と変わりないな。辺りを確認しながら進んでいくと三体のコボルトが現れた。
「リーファ、ここからは俺も弓で援護するよ」
「わかった! じゃあアタシは右のコを倒しに行くねっ」
言い終える前にリーファは走っていく。
「ファイア!」
うん、やっぱり凄まじい火力だ。あまり近づきすぎると巻き込まれかねないな。
さて、俺は左のヤツを倒しておきますかね。
魔力を注ぐことにも慣れてきたものだ。一体目を難なく倒し、真ん中のヤツを狙おうとしたところでリーファが射線に入ってきた。
「えいっ!」
コボルトはそのフサフサの毛を黒焦げにされている。ダンジョンで死んだ魔物はどういうわけか少し時間が経つと消えていくからいいものの、そうじゃなければ黒焦げの死体がゴロゴロ転がってる地獄絵図が作られていたことだろう。
「リーファ、あまり射線に入らないようにしてくれ。間違えて当ててしまいそうだ」
「あっ、ごめんねエスカくん。気をつけるよ」
ダンジョンで倒した魔物は時折アイテムを落とす。銀貨などの貨幣であったり、薬草であったり、小さな魔石だったりと様々だ。それらを拾いながら進んでいるとあからさまな物を見つけた。
足元にピンと張られた糸だ。ここまで明らかな罠があるものだろうか。
「おい、リーファ。足元に気を……」
「うん?」
パチン。
リーファの足が触れた糸が切れた。
「あれ、今何か当たったような……」
「バッ……明らかに罠があったろ!?」
「えーっ!? そうだったの!? わわわ、ごめんねっ!」
そんなやり取りをしている内に周囲の地面がパァッと怪しい光をまとった。光った床から次々と魔物が現れる。一階層でも見かけたゴブリンとスライムに、コボルトの群れだ。
「魔物を召喚する罠だったのか」
「ご、ごめんね……!」
「やってしまったものはしょうがない。いくぞ、リーファ」
「うんっ! ファイアッ!」
リーファが炎をまとわせた杖で殴りに行った。その間に俺は反対側の魔物達を弓で射っていく。
魔物に囲われたとはいえ、一体一体はそんなに強くない。ゴブリンとコボルトには通常の矢を、そしてスライムは魔力を注いだ矢で核を撃ち抜いていく。この切り替えもスムーズに行えるようにならないとな。
「リーファ、そっちはどう、だ……」
振り向いた時、リーファは杖をぶんぶんと振り回して魔物に火をつけまわっていた。
あー、うん。大丈夫そうだな、あっちは。
「これ以上魔物は呼ばれないらしい。殲滅するぞ」
「はーい! こっちはもう終わったから、そっちに加わるね!」
脇を走り抜けたリーファは、その勢いのまま端のゴブリンに殴りかかった。前衛の魔法職……もしかしてパーティが組めないって言ってたのはそれのせいか?
リーファはあまり射線に入ることなく、端の方から魔物を倒していった。
最後の一匹を弓で射抜くと、ダンジョンには静けさが戻ってくる。
「ふー、これで終わりか」
「大変だったね、エスカくん」
「ああ……結構な量だったな」
「でも、楽しかった! 誰かと一緒に戦うのって、こんなに心強いんだね!」
にっこりと笑うリーファは本当に楽しそうに見えて、俺も思わず笑った。
俺は後衛が得意だし、リーファは前衛が得意。うん、まあまあ相性がいい組み合わせなんじゃないか?
ここを出たらギルドで正式にパーティ申請してもいいな。
「俺も誰かと一緒に戦うのって新鮮だよ。さあ、進もうか」
「どんどん進も! このままクリアしちゃうぞ〜!」
「リーファは本当に元気だな」
「えへへっ、元気だけが取り柄なの! ニコニコ笑顔の人がいると、周りの人も笑顔になるでしょ? アタシ、そう信じてるんだ!」
リーファは杖を掲げてポーズをとった。たしかに、俺も不思議とつられて笑ったしな。これだけ明るい子が一緒にいてくれれば落ち込むこともなさそうだ。
「俺もそう思うよ」
「ホント!? やったあ!」
リーファは満面の笑顔で喜んでいる。村にもこんな一番星のような明るさの人はいなかったな。まるで子供のような純真さだ。
「そういえばリーファって後衛はできるのか? バリバリ前衛な戦い方してるけど」
「えっと……その、ね? アタシ、魔法使いだけど後衛は苦手なんだ。杖に炎をまとわせることはできるけど、飛ばしたりするのが苦手なの」
「それで殴りに行くんだな」
「うん。魔法使いだからってパーティに入れてもらっても、何回か戦ったらおしまいなの。後衛だけのパーティってあんまりなくて、それにアタシ目立っちゃったみたいで、今じゃ誰も組んでくれないんだ」
リーファは小さく笑っていた。でも、その目には少し影が落ちている。
彼女にパーティを組もうと誘われたとき、やたら視線が集まっていたのはそういう理由もあったのかもしれない。
「そんなときにエスカくんを見つけたの。今までエルフの冒険者って見たことなかったから、アタシの噂も知らないかもって。それに弓を持ってたから後衛でしょ? もしかしたら組んでくれるかもしれないって思ったんだ」
「それで俺だったのか。俺もさ、パーティ組んでみたかったけどエルフだからって断られたんだ。リーファみたいに真っ直ぐ接してくれる人ってなかなかいなかったからさ。俺としてもありがたいよ」
「えへへ、嬉しいなぁ! いっしょにダンジョン攻略がんばろうね、エスカくんっ」
「ああ」
話している内に次の階層への階段を見つけた。
このままダンジョン踏破できるかもしれない。高揚感を胸に、階段を下りた。




