安全策をとったらディストピアでは……?
いくつかネット広告に関するエッセイが目に止まったので読ませていただいたのですが、「広告をだす側の観点」に触れたエッセイは少ないっぽいな、と思ったのでちょっと書いてみようと思います。
なお、私自身は、年齢制限に関わりそうな広告表示の是非については語る気はありません。
出てきたとしてもそれが法や公序良俗に著しく触れるものでなければ、運営側に問い合わせしないつもりです。
広告のレーティング関連の問い合わせがきたら、運営陣はため息つきながら利益を減らす判断をするか無視するかしかできないだろうなと思うので。
さて、主題に触れるまえに少しだけ本業の話をさせてください。
私の本職はシステムエンジニアです。スマホのアプリを中心にWebのシステム構築・運用保守をしています。
なので、作ったシステムに広告を出す仕組みを組み込んだことがありますし、広告を出稿する側の観点についても、マーケティング策として聞くこともあります。
もし自分が運用している全年齢向けシステムで「アダルト広告がでて不快だ、このシステムはそういうシステムじゃないだろう、消すか出し分けしてくれ」という問い合わせがきたら、私は絶対にため息をつきながら「既にR-18は出さない設定なので無理です。利益的な面で許容できるなら、広告を出すのをやめるか広告の種類を絞るのが解決策です」とエンジニアとして答えます。
……お分かりですね?
きっと小説になろうの運営、特に開発をしている人たちも同じように答えるだろう、ということです。
そして、広告を辞めることはないな、とも思います。辞めるとしたら、広告をどうこうするためにかかる人的費用が広告収入を大幅に上回り、運営の邪魔になるときです。
経験からいえば、そういう判断が出ることは企業レベルのシステムでは、ほぼないです。
大抵は広告をやめるくらいなら問い合わせに「検討します」とお返事して放置するか、サービスごとなくなります。
では本題の「広告を出す側の観点」に触れていこうかと思います。
まず、「アダルト広告、なんで表示するんですか!」についてですが、「広告をだしたら、アダルト(に見えるもの)だった」が実態かと思います。
広告を表示するのは、広告収入という形で利益を出すためです。
昨今のBtoCサービスは、無料が原則になっていると言っても過言ではありません。無料のシステムは他で利益確保ができないと運用し続けることはできません。
「小説家になろう」の場合は、広告収入でしょう。出版社側からは……あるとしたら、仲介手数料でしょうかね?
広告を表示する方法はいくつかあるんですが、一番手間がかからない方法は「広告代理店が用意している仕組みを利用申込みをして、システムに組み込む」になります。逆に一番手間がかかるのは、広告を出したい企業・人を探して(=営業して)広告料を取り決めて(=契約して)、広告素材を作ってシステム内でアクセスの多い画面にひとつひとつ表示するように仕込んでいく(=実装する)って方法です。
手間がかかる方法であれば、どこの誰がどんな広告を出すのか広告表示側が選べるでしょう。
でも広告をだすのに、何ヵ月もかかるでしょうし、毎日数千~数万単位で増えていく小説のページにまで広告を手作業で表示するなんて、数百人のチームじゃなきゃ、たぶん成り立ちません。
また、一番簡単な方法だと広告代理店が用意した「このコードを表示したい所にコピペしてください」で終わりです。
なので、「どこに広告を出すか」は表示側が選べますが、「何を表示するか」はざっくりとでしか選べないです。
だから「この小説はR-15だから、この広告はOK。こっちはダメ」という出し分けはできないです。
どの程度まで選べるのかは広告代理店によりますが、大体はジャンルかと思います。
ファッション、旅行、ライフスタイル……こんな感じのジャンルです。
昨今はスマホアプリの方の規約が厳しくなってるので、見せる相手の対象年齢別のカテゴリもあると思います。
絞り込めるなら全体としてやったらいいじゃない、と思いますよね。
全ての広告代理店がそれをサポートしてるわけではないので、やりたくてもできない可能性があります。
仮にやれたとしても、対象年齢を下にすればするほど表示できる広告は少なくなっていきます。
そうなると、リンク切れを起こした画像のような状態になったり、「表示できません」という文字が出たりするんです。「小説家になろう」のトップページや、小説のページとかで。
これに関しては問い合わせされても、「小説家になろう」運営側でできることは「広告を増やしてください」と広告代理店に連絡し、「増やしましたが、対象年齢をあげるとか広告の多い設定にしませんか」と言われることだけでしょう。
そしてその後は、「問い合わせても、なにも対応しない運営」という評判を背負うか、「不届きな広告を出し続けるユーザ軽視の運営」という評判を背負うか、「広告を出すのをやめて別で利益を出せるようにするか(=有料化を含めたサービス内容の見直し)」から対応を選ぶことになるでしょう。
1番目は、下手すると行政の指導が入る可能性があるので、避けると思いますけど。
まとめます。
広告を表示する側の観点はこんな感じなんじゃないかと思います。
※あくまで、システムエンジニアとして推測です。
・サービスが無料なら、広告を出さないと利益がでない
・広告を出すための仕組み上、出し分けはしにくい
・未成年に配慮した広告にした場合、表示できる広告がなくなったときのリスクが大きい
さて、次に広告を出稿する側の言い分です。
先に言っておきますが、私個人はこの言い分を認めはしますが、本当に早く正攻法で優秀な広告方針を見つけてくれと心の底から願っています。
「なんで、アダルトな広告出すんですか?!」の答えは至極簡単です。
広告代理店側の規約上、アダルトじゃないし、その方が広告として確実に有効だからです。
アダルトじゃないんですよ。規約上。
真っ赤なお顔をしたおねーさんやおにーさんがアップになっていて、白抜きされたプライベートゾーンが画面の端にちらついててもR-18にはならないんです。
服が乱れ気味ではあはあしてるおじさんの顔と、どういう体勢なんですか? というおねーさんの顔が表示されてもR-18ではないのです。
さすがに全裸だとわかる上に、くんずほぐれつしてるのはアウトです。出てきても、すぐに消えていくはずです。(※アダルトコンテンツ向けの広告の場合は消えないですが、それは表示してる側が悪いです)
でも、えっちな広告なのははっきりとわかる、というのはあります。というか多い。
じゃあ、なぜ多いんでしょうか。
クリックする人がたくさんいるからです。
クリックしませんよ、という「あなた」はその広告のターゲットでないだけです。
本来、広告のターゲットになる人は全体のうち3割もいるかどうかなんだそうです。昔伝え聞いたことなので、今はもっとターゲットにピンポイントで届くようになってるかもしれません。
つまり広告は、「その広告をみても不快にならない人が多そう、かつ興味を持ってくれそうな人が多そう」な場所に出すものなんです。
その前提に沿うならば、「小説家になろう」には「ギリギリセーフな広告」のターゲットになりうる利用者が多く、有効な場所だと解析されている、ということです。
広告代理店側だって、反応の悪い広告をずっと出し続けるということはしません。表示され続けている、ということはその場にあった広告だということです。
巷には宣伝の仕方を説く記事やエッセイなんて溢れていますよね。その中で効果のないものはやめて効果のある方法に集中する、ということを説いていませんか?
広告代理店はそういうことを業としている企業です。仕組みまで作って提供している企業が「巷に溢れる」ようなノウハウをやってないはずないんですよ。
ランキングをみていれば、アクセスしてくる人の多くが「刺激」を求めていることはわかるでしょう。
その刺激の種類が「性」の方向なのか、「力」の方向なのかに違いはあるでしょうが、ベクトルが逆を向いてる、ということはないでしょう。
ちなみにですが、恋愛ゲームのマーケティング策として「レーティングギリギリのラインを狙った広告の方が、ユーザーの加入率が大幅に上がった。エロは強い」とそっちの方向に宣伝方針が行くことは多いです。
スマホアプリの場合は広告代理店側の規約よりもAppleやGoogleの規約の方が厳しいので、強制的に歯止めがかかります。Amazonは無法地帯のようですけどね……
エロに頼らない優秀な広告のパターンを早く見いだしてくれないと、エロに関係のないアプリを運用してるのに巻き添えを喰らいかねない、と戦々恐々としています。
※広告での最悪のペナルティはアカウント削除措置で、アカウント再発行自体が年単位でできなくなります。
長々と書いてしまいましたが、出稿側の観点をまとめます。
・規約に違反した広告ではない
・全体で見たときに、その広告から誘導されるユーザが多いから使いたい
モバイルマーケティング業界として、AppleやGoogleの規約強化に合わせて対策を講じようとしているとは聞いたことはあるんですが、本当に? なんて懐疑的に見ています。
操作ミスを狙って広告を開かせようとする手法を平然ととってくる業界ですからね……
こう書くと、アダルト広告が出てくるのを我慢しろと言っているようなものに見えますよね。
ですが、「ギリギリセーフな広告」を駆逐する方法については地道なものならあります。
まずは、ひたすら「この広告は不快だ」と表示された広告に対して通知を出してください。広告自体に通報機能がついてる場合があるので、そこで「不快だ」と伝えるんです。いずれその広告はあなたの画面から消えるでしょう。
それから、周囲の人にもその広告をクリックしないようにお願いして啓蒙活動に励みましょう。
全年齢のシステムでは一切のエロ、グロは表示すべきではない社会通念だと。
R-15でも未成年にはふさわしくない広告が紛れ込むので、対象は10歳が良いと思います。
だって、「鬼滅の刃 無限列車編」ですらR-12ですよ?
10歳児に自信をもって見ていいよ! と満面の笑みで誇れて、お父さんお母さんもにっこり! のものが全年齢のシステムで表示すべきものなのだと啓蒙しましょう。
それよりも上の年齢向けのものは全部R-18向けシステムでのみ配信可能とすれば解決できます。
これが一番厳しい規約に合わせた安全圏の広告が許される表現範囲です。緩いのだと今のままなので。
たぶん、「小説家になろう」発の書籍はかなりの数が宣伝できないでしょう。
10歳児対象だと、恋愛ものもバトルものも殺人事件が起きるミステリーものも厳密には規約違反です。
でもこれが、未成年に配慮された社会の基準なので、大人は我慢しましょうね。
本当にこういう社会になったら、フィルタリングが通常仕様になって、解除するために成人してることを証明するシステムが必要になるんでしょうね。
2023/12/24 追記
評価やいいね、感想をくださった皆様、ありがとうございました。
よもやこのエッセイがランキングにのるとは思っておらず、ちょっと驚いております。
本文中では「解決は無理めです」とか書いてますが、「解決を望む」という要望を運営に出すことは間違っているとは考えていないので、もしこのエッセイを読んで「迷っていたけど、無理ならやめようかな」と手を止めた方は気にせず要望を出してください。(それを受け止めて対応のために悩むことも運営の仕事の一部だと思うので)
あと、「10歳児向けのレーティングにしたら安全だけど、色々制限多すぎてディストピアじゃない?」は、既に一部では実施されてたりするので、存外過ごせちゃうかもしれないですね。