推しキャラとの結婚RTAを目指します
※11/11修正:誤字修正しました。
互いに、同時にため息を吐いていた。
私-アイラと相手-イザベラはこの国の王であるギルバートと対談していた。だが、雰囲気は和気あいあいとしたものではなく、わずかに殺気すら漂っている。
周囲には国の重鎮、それも各々の派閥の面々が大量にいる状況だ。
私とイザベラのどちらがギルバートと結婚するのか、それによってこの派閥の面々の後も決まるのだからそれは重大であることこの上ない。
ちなみに最終的にはギルバートは私とイザベラのどちらか好感度の高い方と結婚する。
何故知っているのかって?
これは私がやっていたRPGの重要イベントだからだ。
いつの間にか私はアイラとして眼の前にいるし、私の頭にはゲーム外でのアイラの記憶まで全部入っている。
あー、これ異世界転生ってやつだ。
しかしよくもまぁ自分のやっていたゲームの世界に転生したもんだと思う。
「では、これより会議を始めよう」
ギルバートの声が聞こえた。少し、威厳のある声だ。
アイラは平民から貴族に『武』によって成り上がった泥臭い女だ。
一方のイザベラは生まれも貴族だし、子供の時からギルバートに恋をし、そして政治的な面でサポートをして苦楽も共にしてきた。
実際、このゲームの公式ページやイラストを見ても、イザベラが正ヒロイン、私は脇役になっている。
そして正直だいたいのプレイヤーはイザベラを選ぶ。
ちなみに結婚できなかった場合どうなるかって、出来なかった方は舞台からフェードアウトする。
つまりここで上手いことしなければ自分はこのゲームから消えるってわけだ。
「しかし、私はどちらかを選ばねばならないのか?」
「はい、それがしきたりなれば」
重心の言葉に、ギルバートはため息を吐いた。
ギルバートは私自身プレイヤーだった時から推しキャラの一人だ。
幼少期に母親をモンスターの襲来で亡くしたり、親友が敵国に裏切ったりと散々な目にあっておきながら、それでも人を信じて前に進む。
知力や政治力も文句なし。顔も美形と完璧超人すぎやしないかとゲームが発売した当時から言われていた。
そんな男が目の前にいる。私は平静を装ってはいるが、心は超有頂天だ。
重臣たちが私とイザベラの来歴を述べていく。
聞く限りでも圧倒的にイザベラが有利だ。
隣国との和睦交渉補助、民への施し、ギルバートの民政に対する補助などなど、上げていくとキリが無くなる。
一方の私はといえば、敵兵千人相手に一人で立ち向かって蹂躙、モンスター百体を一人で討伐など蛮族かと言わんばかりの来歴ばかりあがる。
まずいと、私は思った。それを感じているのは私の後ろに控えている派閥の面々も一緒だ。ため息しか出てこない。
こりゃ決まったかな。
そう思った時、突然イザベラが立ち上がった。
「どうした?」
ギルバートが目を向けた瞬間、私はハッとした。
「王よ、頭をお下げください!」
私がその言葉を言った直後、咄嗟にギルバートはかがんだ。
そして先程までギルバートの頭があった場所には、黒色のオーラを纏った矢が突き刺さっていた。
しまった。これは……! リメイク版の隠しシナリオに突入している!
本来だったらあのままギルバートの頭に矢が突き刺さり死亡、更にはその混乱に乗じてモンスターが大挙として襲いかかってきて、全滅するバッドエンドシナリオだ。
確かこの元凶は……。
『ふん、避けおったか』
イザベラが倒れると同時に現れたのは、魔王だ。
この世界の戦乱の元凶、全てのモンスターの主だ。
一度イザベラが呪われるイベントがある。
解呪すればこのエンドにはならないが、どうやら解呪できなかったルートに入っているらしい。
魔王が姿を表すと、全員が足をすくわせた。ギルバートは、剣を抜いて構えている。
この魔王に全滅させられるのが本来のシナリオだ。
だが、これは千載一遇のチャンスではないかと、私は思うのだ。
『だが、一発避けたとて』
「やかましい!」
私は大地を蹴って、魔王の顔面を殴り飛ばしていた。
魔王が地面をバウンドした。
『な、何をする小娘……』
「やかましい言うとんじゃあ!」
もう一度私は地面を蹴って魔王に馬乗りになる。
もちろん、魔王の肘の上に私の膝を乗せて動けない状態にした上で、だ。
そのまま、魔王の顔面を殴りまくった。
どんどん魔王の顔面が変形していくし、血(かどうかは判別できないが多分そうだろう。赤くなくて紫だが)まみれになっていく。
このチャンスを待っていた。
これで全滅するより、この場で魔王を再起不能、あるいは倒すことで、エンディングに突入できる。
即ち、誰も試したことのない私だけの最速クリアRTAルートが完成するのだ。
『こ、小娘、や、やめ……』
「黙ってろぉ!」
そのまま思いっきり、魔王の顔面を殴り飛ばしたら、気づけば、魔王はピクリとも動かなくなった。
『お、おのれ……だが、いずれ第二第三の私が』
お約束とも言えるセリフを魔王が言いそうになった直後、魔王の顔面に剣が突き刺さっていた。
顔を見上げると、ギルバートが剣を突き刺していた。
そして、魔王は跡かたもなく消えた。
「これ以上、君の拳を血で汚すこともない」
ギルバートはそう言うと、そっと私の手を包み込むように握った。
優しい人なんだなと、握られただけで分かる暖かさを感じた。
「すまなかった。君の言葉がなければ、私も命を落とすところだった」
「いえ、当然のことをしたまでですわ」
そう言い繕ったが、実際には私からすればバッドエンドになって死ぬのが嫌だっただけだ。
そう考えると、自分は思ったより生き意地が張っているのかもしれない。
「う……」
イザベラが、目を覚ました。
「あれ……私は……はっ! ギルバート様! アイラ様!」
「私はここだ、イザベラ」
ギルバートが、イザベラを見た。
「私が……みんなを……殺めてしまうところでした……。こんな私に、后になる資格などありません……」
イザベラが、ボロボロと涙をこぼした。
「でも、あれはあくまでも魔王のせいだ。君のせいではない」
これを見て、私はどこかで、諦めを感じた。
ギルバートにはイザベラが似合う。
イザベラが正ヒロインになるのも道理だ。
自己犠牲が強くて陰ながら支えて、それでありながら自分より他人の心配を第一にすると、もう王道ヒロインではないか。
「ギルバート様、私みたいな蛮族の娘を、あえて后にすべきではありません。イザベラ様が后になられる方が、私は良いと思います」
誰もが、ぎょっとした目で私を見た。
「で、ですが、あなたのその手も……」
「イザベラ様、良いではありませんか。これで魔王は消えた。それで出来た拳の傷など、安いものです」
そう私が言うと、一人の男が私にすぐさま近づき、手をかざした。
光が私の拳を包み込み、私の傷がみるみる消えていった。
誰がやったのだろう。
それを見ると、横にギルバートにそっくりな男がいた。
思い出した。ギルバードには回復に特化した賢者の弟がいた。
顔を見る。確かに弟だけあってギルバートにそっくりだ。
「しばらくは、拳は安静に。傷口をふさぎましたが、無茶しすぎです。兄上、この方もまた、放っておけません。いつ無茶するか分かりませんから」
一瞬、胸がキュンとなった。
え、惚れた? 私この弟に惚れた?
でも、悪くないかもしれない。そう感じられた。
それからの会議は、最初の雰囲気とは一転して和気あいあいとした雰囲気で進んだ。
結局、ギルバートの后は私が推したこともあり、イザベラが選ばれた。
だが、私がこれで表舞台から消えるかと言うとそんなことはなかった。
私の夫も、その会議で決まったのだ。
ギルバートの弟の賢者である。
つまりギルバートとは家族同然になったのだ。
もっとも、弟に私がぞっこんだったのだが。
まぁ、これがこの物語のエンディング。私だけが編み出した、RTAの末のエンディングだ。
(了)




