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ツンデレ

作者: オリハカト

「俺と付き合ってくれ」


 夕日が差し込む。

 開いた窓からは少し肌寒い風が流れ込み、秋の終わりを感じる。

 教室には文化祭が終わり、クラス全員でやった喫茶店の後片付けに取り掛かろうとする前だった。出し物はうまくいき、クラスメイトたち……特にカースト上位の人間ほど盛りあがっていた流れでの愛の告白だ。

 告白をしているのは、学校一といっても間違いない整った顔のイケメン――高宮悠馬たかみやゆうま。返事をする相手がこれまたお約束のように学校一の美少女で男子に大人気の藤沢ふじさわあかり。

 定番といえば、定番だがこんなリア充イベント勘弁してくれ。イベントなんて文化祭だけでも十分だろ。オレみたいに集団に馴染めない灰色男にはそれだけでもキツ過ぎるってのに。

 学校中の誰もが認める美男美女カップル。まだ付き合ってはいないものの、こんなの絶対に成功に決まってる。周りだってそう思っているはずだ。

 積極的に藤沢に関る高宮。

 高宮相手に照れ隠しで対応するもまんざらでもなさそうな藤沢。

 二人とも、当然のようにクラスカーストトップ。クラスの上位グループでいることが多いが、周りが二人の関係を進展するように協力しているので二人きりの状況も少なくない。

 特にこの文化祭の準備期間から今日まで二人は一緒にいることが多かった。

 クラスでいつも一人のオレが二人のことをよく知っているのはずっと見てたからだ、藤沢のことを。見たくなくてもついつい目で追ってしまうんだ。藤沢あかりのことが好きだから。

 背中まで伸びた栗色の髪、小顔で人形のような上品な顔立ち。程よく肉付きのあるバランスの良い身体。運動、勉強能力は上位のほう。これで話しやすいのだからモテないほうがおかしい。しかも、笑顔が可愛い。

 


 教壇で見つめ合う高宮と藤沢を中心に周りが囲っている。

 始めは周りもキャーキャー騒いでいたが次第に声が小さくなり、教室内が静かになる。藤沢の返事が今か今かと周りは待っている。

 オレは周りから離れた教室の隅で、

 

 ――――高宮の告白を断ってくれ。


 そんな強い願いを込めて藤沢を見る。

 無駄なのも無理なのもわかっている。これで仮に高宮の告白を断ったとしもオレと付き合うわけじゃない。

 自分で自分が嫌になる。

 高宮は金髪で制服着崩してチャラいといえば、チャラい部類だけど。運動も勉強もできる奴だし、ちゃんと自分で行動して告白している。

 俺みたいになにも行動しないで相手の失敗を願ってる奴じゃない。漫画やアニメみたいに勝手に藤沢がオレに好意を持って積極的に行動してくれないかなあ、なんて妄想してるイタイ奴じゃないんだ。

 告白した高宮の表情は余裕そうだ。確信してるのか、藤沢が受け入れることを。まあ当然といえば、当然か。今までを振り返ってみても断る理屈の方が思いつかない。

 オレはこの場にいるのが嫌になり、文化祭の後片付けをしないまま、静かに教室から出て帰ることにした。

 

 

 




 夕日が沈み始め、明るさと暗さが混じり合う空の下を歩く。

 格好悪い。完全に負け犬……いや、それどころか勝負すらしていない。藤沢にアピールして、その結果、振られて傷つくのが怖かったのだ。傷つくのが嫌で、自分を守るために行動しないで後悔して、どちらにしても凹む。情けない。

 深くため息を吐こうとした時だった。

 後ろから荒い息遣いが聞こえ、誰かがランニングでも知るのかなあ、なんて思ったら背中を強く叩かれた。


「いたっ――――あっ」

「なにひとりで勝手に帰ってるのよ」


 振り向けば、息を切らして頬を赤くした藤沢がいた。

 なんで!? なんで、ここに? 高宮と一緒にイチャついてるはずだろ? クラスの皆に祝福されてるはずだろ? 後片付けして皆でカラオケとか言ってるはず―――あっ、


「文化祭の片付けか、悪い。忘れてた」


 頭を下げて膝に両手を当て息を整えている藤沢。よく見れば通学カバンを持っていた。

 苦しい気持ちに蓋をして平静を装う。


「何やってるんだよ、高宮はどうした。高宮は? 一緒に帰らなくていいのかよ。付き合ってるんだろ? 片付けでオレを教室に呼び戻すなら他の奴に頼めよ」


 自分で言ってて思うけど、これは辛い。予想以上に応える。事実とは言え、心にグッサリくるな。頑張れ、オレ。藤沢のためだろ。


「はあ? なに言ってんのよ!?」


 ようやく息を整えた藤沢は顔を上げる。滅茶苦茶機嫌が悪そうだ。怖い顔で睨み付けてくる。無意識の内に後ろに下がっていた。どうやらオレの本能が警戒したらしい。

 文化祭の後片付けサボったくらいでそんな怒ることか?


「いや、これにはあたしにも原因があるのか」

 

 頭を掻いて少し落ち着きを取り戻した藤沢が、


「作戦変更。――――ちょっと付き合いなさいよ」







 着いた場所は昔からあるうちの近所の公園だった。

 同じベンチを二人並んで座る。二人の間にはちょうど人一人分の間が空いていた。

 彼氏持ちとはいえ、好きな相手だ。少しは緊張する。

 ふう、と息を吐いて、


「で、オレと二人でいていいのか?」

「良いに決まってるでしょ。あたしが誘ったんだし」

「そうじゃない。高宮はいいのかって聞いてるんだよ。付き合ってるんだろ、彼氏をほったらかしにしていいのかって話」

「そこが間違いね。付き合ってないわよ」

「は?」

「やっぱり、いなかったもんね。最後まで見てなかったんでしょ。あたし、あいつに告られたけど断ったわよ」


 呆れ顔でため息をつく藤沢。

 どういうことだ? 付き合ってない、ツキアッテナイ、つきあってない………?


「はああああ!? どういうことだよ! あの勉強も運動もできて完璧のイケメン高宮だぞ!?」

「……なによ、悪い? 好きでもない相手の告白を断るのは当たり前でしょ」


 いや、悪くない。悪くない、なんなら超嬉しいまである。だけど納得いかない。


「いつも楽しそうに一緒に居るじゃないか。学校も一緒に登下校して、放課後はよく遊んで、文化祭の間だってずっと一緒で……」

「楽しくなんかないわよ。あんなチャラ男。しかも完璧じゃないわ。器用なだけ。どの分野もある程度の才能はあるけど中途半端。壁にぶつかったら苛立ってすぐに諦めるし。いろんな女と遊びまくってるし。あたしのことも外見が良いから身体目当てよ。まあ、性欲は強いみたいだから女遊びに関しては諦めが悪いみたいだけど」

「はあ? 言ってることが違うじゃないか。いつもは楽しそうにオレの部屋で話すじゃないかよ。高宮と―――って」

「そ、それは―――」


 大きく息を吐いた藤沢が怖い顔で俺を見る。な、なんだよ。


「あ、あんたに嫉妬して欲しかったからよ」

「え、は、んん?」


 恥ずかしそうに赤い顔を逸らす藤沢。

 嫉妬して、欲しかった? ど、どういうこと? あれか、リア充自慢的な? リア充の素晴らしさをカースト上位の良さを嫉妬して欲しかってことか? それは無理だろ。だって藤沢と一緒にいること以外に魅力を微塵も感じないからな。なんなら話聞いてて、リア充面倒くさっ、ぼっち最高! まである。

 藤沢は自分の足元を見つめながら唇を尖らして一気に話始めた。


「あんた全然、あたしに興味持たないじゃない。どれだけ自分を磨いても振り向くのはどうでもいい男ばっかり。あんたの部屋でどれだけ無防備にしても無反応。他の男と仲良くしてるフリでもしてれば嫉妬するかと思えば効果なしどころか、応援しだすし」


 なっ!? あれは誰にでもやってるんじゃないのか。他の男にやってない! やった! 良かった―――じゃない! どれだけ理性を保つために我慢したと思ってるんだよ。


「要するにあれか。藤沢はオレの反応が気に入らず、女のプライドが傷ついたわけか」

「違うわよ、この鈍ちん! 二人きりのときぐらい、いい加減昔みたいにあかりって呼びなさいよ! とおる! 幼馴染でしょ」


 オレとあかりは家が隣同士の幼馴染。小さい頃からの付き合いだ。小学生まではよく関わっていた。中学生になってからはお互いに気恥ずかしさからか、距離を取り、それでもたまには関わる関係で。オレはあかりといる時間が気に入っていた。高校生になり、あかりと一緒に過ごす時間が増えそうな気がしたが、そこで現れたのが高宮。そして、クラスメイト。圧倒的なスクールカーストの壁。オレが通っていた中学にはなかった明確なランク分け。

 高宮たちと楽しそうに過ごすあかり。嫉妬からオレは初めてあかりのことが好きなことを知った。が、気持ちを隠して過ごしていた。


「昔はよく『あかり』って呼んでくれてたのに、高校になってから『藤沢』って呼ぶし。学校だって一緒に登校しても高宮たち見つけた瞬間に、消えるし」

「ああいう、うるさい連中は嫌いなんだよ」

「知ってるわよ、高宮はキモいし。クラスの連中は変な勘違いして盛り上がるし、もう最悪よ」


 立ち上がったあかりは後ろに両手を組んで数歩前に進んでオレの方に振り向いたとき、いつもする甘い香りをより強く感じた。


「あたしはただ透が好きで振り向いてもらいたいだけなのにさ」


 恥ずかしそうに顔を赤くして笑って誤魔化してくる。

 え、今、好きって……オレのことを好きって言ったのか?  


「な、なんでオレ、なんかを………」


 いざ『好き』と言ってもらうと、嬉しさよりも納得がいかない気持ちが強かった。


「高宮みたいな、イケメンでもなし、勉強もできない、運動だって……。オレはなにも持ってない」

「あたしは高宮嫌いだよ。顔を性格も好みじゃない。透はさ、中学に入ってからあたしの幼馴染ってだけでいじめられてたじゃん」

「な、なんでそれを……」


 あかりとはクラスが違ったし、一度もそんな話したことない。


「だけど、あたしのせいでいじめられてるのに責めたりしないし。そのせいでひとりぼっちになって」

「あかりのせいじゃない! あれはあいつらが悪くて。それにオレは集団でいるよりひとりのほうが好きだから」

「わかってる。でもあたしを傷つけないように黙って、強くなりたいからって近所で厳しいって評判の空手道場に通って今でも続けてる。真っ直ぐで、優しくて、好きなことに対しては一生懸命なそんな透が好きなの。知ってるわよ、体育の授業で手を抜いてること。あんたは運動神経悪くないじゃない。……あと、正直にいえば、恋愛に鈍いところは直してほしいけど」

「うっ、でもオレはそんないい奴じゃない。イジメてた奴らだって必要以上にボコボコにしたし」

「それはあいつらがやり返さないようにでしょ。あたしと透に危害を加える人には容赦なかったけど。それは守るため。強い力を手に入れても不良やイジメっこにはならなかったじゃない。透は透のまま」


 ベンチから立ち上がってあかりとの距離を詰める。


「高宮の告白が失敗するように祈ってたし」

「それは嬉しいわ」

「あかりから逃げてたし」

「ホントそれは最低ね。でも今後の行動次第では許してあげなくもないわ」

「しかも、あかりから告白されてからじゃないと好きだって言えない臆病者だし」

「え? ちょ、今なんて!?」


 そして、恥ずかしくて二度も告白ができないし。もう心臓がバクバク。

 オレはあかりの隣を通り過ぎる。


「帰るぞ」

「ちょ、はあ? ちゃんとはっきり好きって言いなさいよ! このバカ!」


 しっかり聞こえてるじゃないか。見上げた空は暗く、星が輝いて見えた。


 

 

 




 

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