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作者: 雪蟷螂


 これは夢である。

 辺りを見回すと四方八方真っ白い壁に囲まれた小部屋のようで、私が目覚める前に眠ったベットはどこにも見当たらない。ましてや目の前にある木製の古びた机を買った覚えもないし、そもそもこの真っ白い部屋など見たことがない。見渡しても扉が無いので寝てる間に連れてこられた訳でもないようで、以上のことからこれは夢であると判断した次第だ。夢ならばと気楽に構えるが、ここまで意識のはっきりしている明晰夢は初めてである。まるで起きていながら夢を見ているような奇妙な感覚だ。

 さて、折角物珍しい体験ができているというのだから、何もしないのは嘘である。何か無いかと探してみると、机の上の1枚に黒い字で何か書いてあった。

 『1+1=?』

 「ふむ、これは…?」

 横にペンが置いてあるので、答えを記述すればよいのだろうか。早速手にとって2と書いてみると、ピンポーンと正解を告げる軽快な効果音と共に紙に新たな問題が記入された。

『貴方はこれから紙で手を切る?』

 …不可解な質問だ。紙は机に置いているし誤って切れることはないと思うがどういうことだろうか。逡巡した後、夢だし考えても仕方がないといいえと記述する。今度はブブーと耳障りな音がな

「っ…!?」

 真っ白で何もない天井から何かが降ってきて机に突き刺さった。ギリギリ手を掠めたのは紙製のトランプだった。

「…り、理不尽なクイズだな」

 手に薄い傷跡を残したのを見ると、クイズを間違えたペナルティ…なのかもしれない。驚きはしたがなんともなかったことに安堵して、そして次の瞬間息を呑んだ。切れた手から血が出ていて痛みも感じたからだ。

 この先もし、もっと残酷なペナルティがあったら…?

 額を伝う冷や汗をよそに紙にはもう1度新しい問題が記入されていた。

 『貴方はこれからきられる?』

 私がその文字を読み終えると、突然私の足をなにかよくわからない影が掴掴み身動きが取れなくなる。そして何もなかった壁からけたたましい騒音とともに電動ノコギリが生えてきた。

 予想が見事に当たってしまったので引きつった笑みが溢れる。先程と同じなら、いいえと書いても切られるだろうしはいと書いても生き残れるとは思えない。何もしなくてもそれはそれで徐々に近づいてくるこのノコギリの餌食になりそうである。

 最早どうあがいても絶望しかない状況で私はなるべく心を沈めて落ち着いた。冷静になれ、これは夢だと。頼むから早く目を冷ましてくれと。しかし一向に目が覚める気配はない。騒音をあげながら近付いてくる恐怖は生々しく、先程の経験上それが私の体に触れれば想像ができないほど鮮烈な痛みとともに私は真っ二つに引き裂かれるのだろう。

 呼吸が浅くなる。はやる気持ちが抑えきれない。どうにかしてここから抜け出なければ、もう愛する妻と娘の顔をもう見られないのだ。何か無いかと思案する。この状況はなんなのだ。思考がまとまらない。私は何をさせられているのだろう。これが何かの仕業だとして、であるならばこのような理不尽な問題を作るだろうか。何か助かる道が有るのにそれに気付かない愚か者を見て笑っているのではないかー…。

 そこまで考えて、ふと閃く。なぜ3問目には平仮名で『きられる?』と書いていた?2問目は『手で切られる』と書かれていたはずだ。他の文章も漢字が使われていたのだ、そこだけ平仮名なのは道理が通らない。それはなぜか、そこは平仮名でなければいけないのだ。それがおそらくヒントなのだ。思案する。ノコギリはもう直ぐ側まで迫っている。時間がない。その騒音は私を切り裂こうと悪魔が歌っているように聞こえる。

 「そうか!!」

 最早正解かどうか迷っている暇はない。閃いた答えを慌てて紙に答えを記入する。

ノコギリは止まらない。不正解だったのだろうか。今にも刃が私の体をー…。

 そこで私の意識は途切れる。頭の中で、ピンポーンと軽快な音が鳴ったようなきがした。


 「ーっ!!?」

 目を覚ますと、そこは見慣れたベッドの上である。隣には愛する妻と娘が眠っていて、すやすやと心地よい寝息をたてていた。

 「夢…か…」

 これほど目覚めの悪い夢は初めてだ。先程までの騒音がまだ耳に残っている気がする。私が紙に書いた答えは『生きられる』というものだった。わざわざ平仮名できられる、と書いていたのは理由があったわけだ。正解の音も聞こえたし、おそらくあっていたのだろう。もしあのままあの場に居たらどうなってしまったのだろうか。考えて吐き気がし、考えるのをやめた。

「コーヒーでも飲むか…痛っ」

 立ち上がろうとし柱に手をつくと、手に痛みが走る。嫌な予感がして手を注意深く見ると、夢の中でできた傷跡がそこには残っていた。

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