(3)
空島から戻ってから今まで、シェナは同じ話題をいつまでも出してくる。
それにジェドは苛立っていた。
当時はシェナもそれどころではなかったが、落ち着いた今、ある事を振り返って楽し気に話す。
「だって王子様よ?」
「そんなんじゃねぇ!お前ぶっ叩くぞ!」
苛立つのは無理もない。
随分な剣幕を見せる彼に、そこまでにしろとカイルの手がシェナの頭に伸びる。
騒々しいのだが、それもまた見ていて和やかなものだった。
大人達は静かに微笑む。
信じられない旅から、この子達が帰還し、再びここで生きている事を実感していた。
船の揺れが、浅瀬に着いた事を振動で知らせてくる。
「さぁさっさと済ませっぞ。
今晩は言ってた通り、海図の話もしたい」
マージェスは立ち上がると、颯爽と島に下り去った。
陸に着けばすぐ、取った魚の分配に船内の掃除に片付けと、仕事は立て込んでいる。
こうしてはいられないとシェナも立ち上がり、他の者達と次々作業に取り組んだ。
ジェドは半ば置いてけぼりな状態に、口をへの字にさせている。
「よう男前」
グレンが察し、立ち上がるジェドに肩を組んでやる。
「分かってるよ。
お前は覚えてたんだろう?水没した時の救助方法」
しかし彼は、まだじっとどこか一点を見つめ不貞腐れている。
急に静まる船内で、カイルが下船する手前、ジェドに振り向いた。
それに気付いたジェドは、目を合わせる。
「よくやった」
その一言に、ジェドはやっと小さく微笑んだ。
フィオが魔女に湖に沈められた事で、呼吸をしなくなった。
青褪め、石のように固くなっている姿が怖かったのだが、奇跡的にある方法を思い出し、実行した。
いつか、カイルから教わった人工呼吸。
その行いは見事、彼女の命を救った。
シェナはそれに、よく寝る前に聞かせて貰っていたおとぎ話にある、王子と姫との奇跡の目覚めのシーンと重ねるのだった。
しかしジェドにとっては途轍もなく恥ずかしく、むず痒くてならない表現で苛立ってしまう。
けれども、そこを理解してくれる大人がちゃんといるのだから
(ま、いっか)
と、気持ちを切り替えた。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します