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*完結* 大海の冒険者~人魚の伝説~  作者: terra.
第二話 夢
9/187

(3)




 空島から戻ってから今まで、シェナは同じ話題をいつまでも出してくる。

それにジェドは苛立っていた。

当時はシェナもそれどころではなかったが、落ち着いた今、ある事を振り返って楽し気に話す。




「だって王子様よ?」



「そんなんじゃねぇ!お前ぶっ叩くぞ!」




苛立つのは無理もない。

随分な剣幕を見せる彼に、そこまでにしろとカイルの手がシェナの頭に伸びる。

騒々しいのだが、それもまた見ていて和やかなものだった。

大人達は静かに微笑む。

信じられない旅から、この子達が帰還し、再びここで生きている事を実感していた。






 船の揺れが、浅瀬に着いた事を振動で知らせてくる。




「さぁさっさと済ませっぞ。

今晩は言ってた通り、海図の話もしたい」




マージェスは立ち上がると、颯爽と島に下り去った。

陸に着けばすぐ、取った魚の分配に船内の掃除に片付けと、仕事は立て込んでいる。

こうしてはいられないとシェナも立ち上がり、他の者達と次々作業に取り組んだ。

ジェドは半ば置いてけぼりな状態に、口をへの字にさせている。






「よう男前」




グレンが察し、立ち上がるジェドに肩を組んでやる。




「分かってるよ。

お前は覚えてたんだろう?水没した時の救助方法」




しかし彼は、まだじっとどこか一点を見つめ不貞腐れている。

急に静まる船内で、カイルが下船する手前、ジェドに振り向いた。

それに気付いたジェドは、目を合わせる。




「よくやった」




その一言に、ジェドはやっと小さく微笑んだ。






 フィオが魔女に湖に沈められた事で、呼吸をしなくなった。

青褪め、石のように固くなっている姿が怖かったのだが、奇跡的にある方法を思い出し、実行した。

いつか、カイルから教わった人工呼吸。

その行いは見事、彼女の命を救った。




シェナはそれに、よく寝る前に聞かせて貰っていたおとぎ話にある、王子と姫との奇跡の目覚めのシーンと重ねるのだった。

しかしジェドにとっては途轍もなく恥ずかしく、むず痒くてならない表現で苛立ってしまう。

けれども、そこを理解してくれる大人がちゃんといるのだから




(ま、いっか)




と、気持ちを切り替えた。




挿絵(By みてみん)









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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