(6)
皆は、海の質の改善という言葉に引っ掛かった。
「その…何だ……あんた等が封じたって言う大地の神ってのは、どういう奴なんだ?」
島で長老が尋ねても、シャンディアは詳細を話す事をせずに噤んだ。
先程も、ミラー族の務めが難航している様子を表情に滲ませるのみ。
コアに接近せざるを得ない4人に、マージェスや他の大人達が不安を抱くのは当然だった。
「……………怒りに狂い、正気を失い……嗤うようになった…」
シャンディアは、言葉を紡いでいた間を慎重に破り始める。
次第にか細くなる声に、周囲はじっと耳を傾けた。
「ミラー族が海を守るように……
貴方達が出会った竜の精霊が空を守るように……
大地もまた、神によって守られてきた……」
シャンディアの昏く落ちた眼は、ランタンの影に浮かぶビクターに向く。
大きな灰色の瞳は、鏡でなくとも強い光を宿しており、炎の輪郭を明確に映し出していた。
何か探っているのか、若しくは既に認識しているものを眺めているのか。
ビクターは何も言わず、ただシャンディアを静かに見つめ返し、続きを待つ。
「大地こそ変わる………
常に掘られ、埋められ、積まれるのを直に感じながら、務めを果たしていたでしょう………生き物の足場が壊れてしまわないように…壊れてもまた、蘇らせようとし続けたでしょう…だけど………」
シャンディアは1つ瞬きすると、足元に揺れる桶の海水に視線を落とした。
暗い水面に、ランタンの光を反射させた銀の衣が美しく光る。
「圧しかかる重み……
聞こえてくる声に対する息苦しさ……
際立つ汚れに恐怖し…
己の力の維持が追いつかなくなった……
それは怒りに変わり…狂気を生み…やがて…
理想の地球にしてしまいたくなった……」
そう語り続ける一方、シャンディアは皆の顔を見ようとしない。
水面に落ちる視線をそのまま、背を向けてしまう。
黒い髪に隠されたそこで独り、何を想い、見ているのか。
「多くの苦しみや怒り、憎しみ、悲しみを闇に変え、巨大な影のようにそれらを纏っている……その手が悪戯に放つのは、陽炎……」
ビクターは、彼女の隠れた横顔に目を尖らせる。
空島を呪った蛇の魔女が放ったものも陽炎であり、それは、グリフィンを砂に変えた恐ろしいものだった。
「ただ……己が求める地球にするだけでは物足りず…
コアは………抱いた感情の矛先を、我々神の存在や…
………人間に向け始めた……」
言い終わりは震え、明らかに躊躇う様子を含んでいた。
誰を見る訳でもないシャンディアは特に、ビクターから大きく背いている。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




