表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* 大海の冒険者~人魚の伝説~  作者: terra.
第二話 夢
7/187

(1)




挿絵(By みてみん)




 今朝は灰色の曇り空に覆われ、薄暗い。

時折、陽光が射し込んでも、その殆どは隠されてしまう。

普段は濃紺をした大海原だが、少し前の荒天の影響か、今日は透明度を失っていて黒い。




 朝晩に肌寒さを感じるようになったこの頃。

嘗て感じ取っていた視覚的な季節の変化とは違い、現在は、風や空気でそれを察する生活。

信じられないが、すっかり馴染んだ。






 彼は珍しく、見張り台の番をしている。

漁を終えて帰路につく最中、柱に身を預けて考え事をしていた。




 4人が戻り、早一月。

彼等が空に上昇した際に負った額の怪我は、空の神々の力により寸秒で治癒した。




 冷風に少々身震いすると、額に揺れる金髪の下に手を何となくもぐらせる。

そう言えば夕べは、随分と懐かしい夢を見た。

それはまだ、世界が今のように変わり果てる前の頃。

しかし、内容は初めてのもので、夢を見るまですっかり忘れてしまっていた出来事だ。




 あれは、酷い事件に巻き込まれた女性だったが、それからどうしただろう。

出会い当時はまだ、自分は駆け出しの頃だった。

懐かしさと同時に、寂しさが颯爽と彼方へ通過する。






 額の手を下ろすと前の縁に両腕を預け、水平線を眺めた。

もうじき、自分達の島に着く。

いつかとは少し変わった、賑やで和気あいあいとした、東の島に。




 「おいカイル!」




すっかり夢の事に気を取られていた。

随分前から呼ばれていたのだろう。

彼が慌てて見下ろすと、そこでは普段、見張り台を仕切るレックスが声を張っていた。




「いつまでそこにいんだ!こっちの仕分け手伝え!」




カイルは悪いと一言叫び、柱に結んでいたロープを手早く解くと一気に下降。

綺麗にたんと着地する手慣れた技は、レスキュー隊時代よりもすっかり磨きがかかった。






 「ぼさっとしてどうした」




新船の床に忙しない足音を立てながら、レックスと共に引き上げられた網の傍へ移動する。




「いや。

どういう訳か、昨夜はえらく昔の夢を見て。

考えてただけだ」




適当に相槌を打つレックスと辿り着いた先から、何やら誰かが苛立つ声がしてくる。




 「笑うな!

習った事をしただけだ!そんなんじゃねぇ!」



「笑ってない!

やっぱり本当にあるんだって言ってるだけよ!」



「大体しつけぇんだよ!

一月経とうってのにいつまで言ってんだ!」



「嬉しかった事は、いつまでも言っていいでしょ!」




ジェドがシェナに苛立ち、引き上げられた網に掛かる魚の1匹を勢いよく彼女に投げつける。

シェナの痛がる声に被さるように、マージェスが強く短い息を吐いた。




「もういいさっきから!手ぇ動かせ手ぇ」



「これ取っておじさん。ちっとも取れない」




網にかかる魚は時に、絡みついている事もある。

上手く取り外せないシェナは、マージェスにどうにかしろという態度で、すんなり差し出すのだった。

この中で最も小柄な彼女の手では、少々捌くのに難しいようだ。




 「何怒ってんだよ」




言いながらレックスは、苛立って無口になるジェドの湿った黒髪を雑に撫でてやる。

彼はそれすらも嫌がり、ぐわんと首を大きく一捻りして避けた。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ