(5)
ジェドの発言に、フィオは俯いたままだ。
大丈夫と言う事で、不思議と自信が湧いてくる。
夢でもよく聞く、幼少期からずっと大切にしている言葉。
誰かの優しい声で、撫でるように囁かれる大切なお呪いは、温かくて心地よい。
けれども、口を噤んで独り静寂に浸る中、ジェドの心境も少し分かるような気がしてきた。
心配されるのは仕方がないだろう。
自分もシャンディアに、この島にいたいと怒鳴った。
返してと言われた事そのものや、そこから僅かに想像してしまった発言の意味が、怖かった。
「守ってあげられる……」
シャンディアは、真っ直ぐな灰色の瞳を3人に向けた。
「ジェド…貴方は察しがいい…
その動きは必要……そして…」
彼女はビクターに振り向き、続ける。
「貴方は目がいい……
放たれる危険がある陽炎に、真っ先に気付ける…」
その時、外から忙しない息遣いが接近してくると、ドアが激しく開いた。
「これーっ!これ、そうじゃない!?」
シェナが駆け込んだ途端、温かい風がふわりと室内に舞い、人々の髪や毛布、炎を柔らかく揺らした。
飛び込んだ彼女が手にするものに、シャンディアは眼を輝かせる。
「そこについてるのと、いっしょ?」
クロイは、シャンディアの胸元に光る装飾を見上げた。
騒動に振り向いたアリーは、輝かしいそれについ、小さく感嘆する。
シャンディアはそっと両手で受け取ると、双眼を鏡に変えて震わせる。
そこには、漁網にかかった装飾が彼等の手元に行き着いた光景が鮮明に映し出されていた。
「なんでも みえんのか?」
「あしたの てんきも、わかるのかい?」
「あしたの あしたのことも?」
「そらじまも みえるの?みしぇて!」
シャンディアはやっと、小さな笑い声を零した。
やはりこの子達はどこか、身を擽る小魚だ。
彼女は飾りを手に、シェナを見る。
この子もまた、必要だ。
風は、彼女の声に従う。
そして必ず、光に導くだろう。
「ありがとう…」
シャンディアは4人を再び見つめては、棘の装飾を右こめかみに運ぶ。
それは辺りを照らす炎の灯を明けながら、先端から中心に鋭い銀の光の流れを見せた。
彼女が首をふわりと動かし髪を柔らかに払った拍子に、数多の細かい面が合わさる装飾に炎の画が消える。
そして4人の顔が流れるように映し出された。
次に立ち上がり、大人達に顔を向けると、アリーと子ども達の顔が装飾の中央に流れていく。
更に体を翻せば、その場にいる他の大人達の顔が映し出され、長老の顔を最後に反射光と共に消えた。
体内から熱い力が湧き上がるのを、速まる鼓動で感じ取る。
強力でなくとも、先程までとは感覚が違った。
その証拠に、肌が細かな光を散りばめたように輝きを放っている。
力に自信がついたシャンディアはもう一度、レックスから毒の吸引を試した。
両手に灯り始める銀の光は、彼の足を大きな気泡で包んでいく。
これに向き合う者達の顔が表面に映り、歪みをつけて回った。
気泡は鏡の球体と化すと瞬時に弾け、細かな光の飛沫しぶきが空気中に消えた。
やはり傷口を塞ぐまでの力は維持できなかったが、毒を完全に除去できた手応えは確かにあり、成功を告げると、周囲は心から安堵した。




