(9)
4人の様子やシャンディアの話に大人達の目は揺れ、顔はみるみる険しくなる。
長老は誰の耳にも届かない程、僅かに唸った。
「その者とは何だ………
また………訪れるというのは……」
シャンディアは、不安に満ちた眼を長老に緩やかに向ける。
「……その者は、揺蕩う巨大な影………
怒り、悲痛を象った姿を持つ………
深い地中の核より現れ、とうとう世の汚れを嗤い、呪うサタンと化した、大地の神………
名は…コア……」
耳を疑う言葉が連なり、皆は情報の処理にそう直ぐ追いつく筈もなかった。
息を吐き、一時、緊張した体を静かに解す。
シャンディアは事態を伝える最中、再び熱を帯びた体を湿らせようと、首や腕に濡れた布を巻き、更に続けた。
「コアの呪いを…怒りを…直ちに消さなければ……
この地球に惨事は再び訪れる…」
冗談もどこまでかと、皆は喉を切られるような思いでシャンディアを凝視する。
あの耳を劈く程の異常な地鳴りと共に、足場も住処も砕かれた、凄惨で血塗られた事態が再び起こるなど想像もしたくない。
もう2度と、命の危険をもたらすような出来事は御免だというのに、何故こうも繰り返されてしまうのか。
「私達は弱ってしまった……
亀裂から放出された呪いを止めきれず、仲間は……仲間はもう……」
思い出すだけでも苦痛に駆られ、身が締めつけられる。
シャンディアは両腕を抱き寄せると、身を窄めて前屈みになった。
腰から脛にかけて揺れる鱗の衣に、涙の雫が美しく滴る。
その場にいる者達の顔や、時折揺れ動く炎がそこに映り込んだ。
そんな不思議な鏡の腰巻きに、床に集まる小さな子ども達は目を奪われている。
「俺達が戦った人魚が…
君の仲間だったって事か…」
察したマージェスが、底を這うような声で訊ねる。
だとすれば酷い事をした。
殺しこそしなかったが、殺しに近い行動を取ったのだから。
しかし、こちらも死にかけた為に下した咄嗟の判断だった。
マージェスや他の漁師達も難しい表情を浮かべ、その場の空気はより一層、濁っていく。
「泣いてた…」
フィオはふと、カイルが柱に打ち付けた最後の人魚を思い出す。
「返してって、泣いてた…私、聞こえたの…でも…」
全視線がフィオを射抜いていく。
「でも誰も、それが分からないって……」
端の3人はつい、互いを見た。
寂しげなフィオに寄り添えない。
当時はどうしても、彼女が言う事に共に気付いてあげられなかった。
悍ましく、見るからに毒々しい人魚が、悲し気に、寂し気に泣いているなど一切感じなかった。
「分からないと思う……でも…
貴方だから分かった……」
その時、ジェドが誰よりも先にシャンディアに顔を上げ、目を尖らせた。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




