(6)
シェナは人魚の顔の方へ回り込み、その顔や浜にへばり付く髪を退けた。
「まぁ…とっても綺麗な女の子よ!?」
「「あたらしい こー!?」」
先程までの恐怖はどこへやら。
ここにいろと言われた子ども達は気付けば駆け寄り、甲高い声で人魚の存在を島の新入りだと言って興奮する。
その騒ぎでなのか、人魚の肩がぴくりと動いた。
小さく苦し気な声を上げ、首が僅かに上がるとその表情は険しく、辛そうだ。
「大丈夫!?」
フィオはその頬に飛び付き、苦しむ人魚の顔を覗き込むが、肌は芯から冷え切ったように冷たく、反射的に手を放してしまう程だった。
その時、尾鰭から光が散り始め、皆は目を奪われる。
下半身を纏う鏡の鱗が連なったまま、布を広げるように剥がれていくではないか。
「ママが まいてる しゅかーと みたい」
リサの声も他所に、周囲は人魚の下半身の変化に釘付けになる。
広がる鱗に鋭く陽光を反射させ、皆は目をますます瞬いた。
眩しさについ手を翳すも、指の隙間からそれを見届ける。
直に尾鰭が消え、代わりに鏡の鱗でできた衣と化したその中からは、細い真っ白な人の足が現れた。
「おい!ひと に なったぜ!?まほうつかい!?」
ケビンが更に興奮してその足を持ち上げるが、そこもまた氷のように冷たく、思わず手を放す。
「うごかない。しんでるの?」
ウィルがうんと上半身を傾けて人魚の顔を覗きながら問うと、人魚の瞼がピクリと動いた。
「……私達が見た人魚じゃない。
上がってきた訳があるのかも」
フィオは人魚のぐったりした顔を眺めて言うと、シェナが足元に回る。
「運ぼう!長老様に言わなきゃ!」
「おれ じっちゃんに いってくる!」
「「いってくる!」」
ケビンを先頭に、子ども達は風の如く林を抜け、あっと言う間に去っていった。
ビクターは、浜にうつ伏せになる人魚を仰向けにすると、胸元も同じ鏡の鱗で覆われていた。
臍下からは、グラデーションのように体と鱗の衣と繋がっており、巻いていたり、履いているのではないと分かる。
「これ!もしかして!?」
シェナは人魚の胸元にある中央の装飾を指差すと、ジェドも目を見張った。
「同じじゃないか!?あれと」
昨日、漁網にかかっていた銀色の装飾と殆ど似たものが付いている。
しかし2周り程小さく、棘も短い。
これこそ、雲丹に近いものを感じた。
「背負ったらこいつが刺さりそうだ。
横にしたまま運ぶぞ。支えろ」
ビクターは3人を見ながら言うと、人魚の頭側に回って肩から持ち上げる姿勢を取る。
「この子も重いなんて事ねぇだろうな」
ジェドはふと、空島の女王リヴィアが持っていた銀の斧を思い出した。
彼女は巧みにそれを操っていたが、見かけによらず、僅かな高さから落とすだけで地面に亀裂が入る程の重さがあった。
ビクターは少々身構える。
「この子を落としたら、浜に減り込むってか?」
「そんな風に思わなかったわ。
ケビンも足を持ち上げてた」
フィオが言い終えるとそれぞれに体勢を整え、カウントに合わせて人魚を持ち上げる。
それが思った以上に軽く、ついバランスを崩して落としかけた。
「しっかり持てシェナ!」
「そっちが高いのよ!」
背が高いビクターから、身長が低いシェナの方に傾斜がかかってしまう人魚。
「真ん中しっかり!真ん中よ!」
「お前がもっと足上げてやれ!」
シェナの慌ただしい発言にジェドが苛立つ傍ら、フィオは下からしっかりと支え直す。
「いいわ、進んで!ゆっくりよ」
気を失った人魚はそのまま運ばれ、林を抜けていった。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




