(2)
手製のボートで向こう岸に渡った途端、巨大な流木を目にした息子は、喜びの声を上げながら飛び下りた。
膝下から大きく海を蹴り、しぶきの向こうへ走り去る。
父はロープを引くと、岩の出っ張りに船を固定した。
最近の嵐の影響か、木々やガラクタが多く漂流していた。
道具作りの材料や薪にもなると、それらを嬉しそうに拾う息子が愛おしく、口元が綻んだ。
「ねぇ父さん、これ、かがみみたいだよ?
木にいっぱい引っついてる。ほら」
父は近付くなり目を見張った。
まるでガラス片が散乱している様に、そこら中で大量に光っている。
薄っぺらい刃のような質感で、人間の爪に似た形状のものもある。
手を切りかねないと、父は、なかなかそれを手放さない息子に注意した。
「すごいキラキラしてるよ。
かべ とかに はったら、家が きれいだろうね。
つなげたら、でっかい かがみに なりそう。
ほら、こんなに しっかり ぼくらが うつってる」
息子はそれの角度を変えながら、海や陽光を反射させる。
その美しさに、父も感嘆した。
頑丈な造りをしており、他の事にも活用できるのではないかと想像する。
「少し集めてみるか。手には気をつけろ」
息子は嬉しくなり、小さな指先は夢中で砂の出入りを繰り返す。
何着も厚着している息子の服には多くのポケットがあり、輝かしいそれらでみるみる膨らんでいく。
その時、父がふと何かを聞きつけ、海を振り返る。
その機敏な動きに、夢中になっていた息子もさすがに顔を上げた。
辺りから、甲高い奇妙な叫び声が迫り来る様だ。
風が冷たく吹き荒れ、じきに雨も降り始める。
天候の急変に、親子は身の毛がよだつ。
「帰るぞ」
父の咄嗟の判断に、息子は素直について行く。
先にボートに乗った息子に続き、父は船を押して颯爽と飛び乗るとオールを握った。
俄雨かと感じる最中、雨脚は更に強まっていく。
そして辺りに靄がかかり始めるが、ただ直進した先に住居がある事から、移動にそう心配する事はなかった。
息子は慌ててフードを引っ張り出し、被る。
その時、宙に三本の鋭利な斜光が走った。
「……あれ? 父さん、母さんが見えるよ!?」
何を言い出すのかと、父は息子が示す方向を振り向く。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に 代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します