(1)
大陸の断片。
街の残骸が人々の生活をやっと支える、どこかまだ、嘗ての懐かしさを残す地。
コンクリート壁にかかる衣類や、馴染みある道具。
質が衰え、大半がガラクタと化したそこで、人々は、新しい生きる術を編み出しながら過ごしていた。
「ねぇ父さん、あっちの島に行こうよ」
目と鼻の先に浮かぶ、小さな陸地。
島と呼ぶそこもまた、分断されたこの地の一部だろうか。
様々な遺物が点在しており、子どもは宝探しに向かう様に好奇心をそそられる。
「……今日はやめておかないか?
陽が随分と照ってる」
父は息子の肩に触れ、静かに拒んだ。
今日は雲が多めではあるが、晴れ間もしばしば見られ、外で遊ぶには最適だろう。
しかし、断るのには理由があった。
「平気だよ!
だって、あつい生地の服をたくさん見つけた。
これを重ねて着ていれば、少しくらいはいいって、先生も言ってたよ?」
駄々をこねる息子に、父は心配の溜め息を吐くと外を振り返る。
日光過敏症の息子は、陽光によって極度の痒みや水疱を発症する事を懸念していた。
世界は一変し、医者もいなければ薬もない。
とはいえこの島には奇跡的に、医療知識を持つ者がいた。
しかし考えてみても、ずっと家の中で過ごせと言うのは酷だろう。
「おねがいだよ。ちょっとでいいから、ね?」
ここのところ、我慢をする生活が続いていた。
確かに雲は多く、日陰になる事もしばしばある。
「……少しだけだぞ
そうだな……幾つか材料を見つけたら戻ろう」
父は言いながら、息子の頭を撫でた。
息子は満面の笑みを浮かべ、颯爽とドアを開け放つ。
あまり神経質にならなくていい。
あの大惨事の影響を受け、病で亡くなった妻によく言われた。
未だ心に大きな穴が空いているようで、情ない事に、悲しみと寂寥に押し寄せられている。
息子はまだ、母親の存在が欠かせないと言うのに、酷い世の中になってしまった。
外に出ると、冷たい風に少々震えた。
父は、昔から着ている羽織に腕を通す。
空を仰げば太陽の姿はなく、やけに濃い灰色の雲が占領し始めていた。
息子にとっては都合が良い天候だが、どうも寒気がいつもと違う気がする。
その不気味な感覚は何とも表現し難い。
あの大惨事が起きてから誰しもが、空や海など、環境異変にかなり敏感になった。
だが、これもまた気にし過ぎか。
父は不安気に空模様を眺めていると、急に右手を取られる。
「母さんとお話し?」
息子も、本当は寂しいだろう。
なのに笑って父を励ます。
癖でつい、寂寥が目に浮かんでいたに違いない。
父は慌てて微笑むとしゃがみ、息子の頭を撫でた。
「そうさ。
お前を太陽から守ってくれって、頼んだとこ。
さあ行こう」
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
「大海の冒険者~人魚の伝説~」
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって シリーズ完全閉幕します。