(15)
「お、おじさん呼んでくる!」
「止めろシェナっ!…うえっ!」
言いながらジェドも、似た症状を見せ始める。
「ダメよ!あんたもそんなになって!
シェナ、誰か呼んできて!
あと、皆に飲むなって言って!死んじゃうわ!」
シェナは林を疾走し、助けを呼びに向かった。
これは猛毒に違いない。
大人達も飲んでいるのなら、気付いた自分達で皆をなんとかせねばならない。
解毒剤の薬草はどこにあっただろうか。
フィオとシェナは、そんな事ばかりを考えてしまう。
ビクターの嗚咽が連続的に漏れる。
喉と腹が焼けるようだ。
口内に苦味が滞り、唾液をどんなに飲んでも効果がない。
どういう訳か涙まで溢れ、止まらない。
水を持ってきていなかった事を後悔し、今できる口直しは魚しかないと、ジェドにそれを促すビクターだが
「ジェ…!?」
彼は浜に完全に突っ伏し、微動だにしない。
空島で一度命を落としている彼だが、自分の企みのせいで今度こそ彼を失ってしまうというのか。
「ェドっ…」
しかしビクターも、力が出なくなっている。
やけに視界が回り、船酔いしているようだ。
そこへ、両者の姿勢が一気に翻る。
カイルがジェドを、グレンがビクターを仰向けにすると、座位をとらせた。
そのまま背中を叩いたり、口に手を捻じ込み始める。
「吐け!」
「何やってんだお前等は!」
「早く助けて!死んじゃう!」
慌てふためくシェナに、呆れながらグリフィンが白湯を入れたカップを持ってくる。
「死にはしないよ」
そこへフィオの短い悲鳴が上がる。
目の前で2人が吐いた光景につい、目を覆った。
呼吸を荒げ、冷や汗までかいている豹変ぶりが、恐ろしくてならなかった。
挙句の果てに、とんでもない存在が影を落とす。
「この阿呆が!」
フィオもシェナも、長老の太い怒鳴り声に縮み上がった。
青い目を光らせた白髪に白髭の彼は、姿勢をしゃんとし、杖をつかなくなっている。
彼の回復も、空島の女王リヴィアのお陰なのだが、4人にとってはピンとし過ぎており、少々不都合だった。
今のように、僅かな距離なら追いかけて来る程までになっている。
ジェドとビクターは呆然とし、腹の底から只管、空気を吐いていた。
頭を1発ずつ叩かれているが、それもまた、グリフィンにしては可愛らしいのか、笑っている。
「ほら。これっきりにしとけよ」
彼が突き出す白湯を2人はそっと流し込むと、大きく一息つき、小さくしゃっくりをする。
そのまま来た大人達と、食事を再開した。
「?」
フィオが振り返ると同時に、海で何かが跳ねた音を聞きつける。
じっと目を凝らすと、薄っすらと影が水面を漂って消えた。
「どうした」
グレンの声にフィオは
「今、何かそこにいなかった?」
「もう!止めてよ!」
シェナが被せてくるのだが、黒く漂う海を大人達が見ても、そこには何も、誰も、いなかった。
早速長かった 微笑ましい章は終わりです
これよりも長い章はあるのですが
かなりシリアスになります
空島の伝説「エピローグ」締め2行を 覗きませんか
既に 誰かがいてたようですよ
今回 フィオだけ気付いて振り返ったのですが
その時は 誰も振り返りませんでした
明日より順次 明かしていきますね
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代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します