(12)
ジェドは床を静かに匍匐前進した。
片手には、ただ木の皮を重ねて束ねただけの本。
勉強していたと誤魔化す為だけのものであり、今は一切目を通していない。
そもそも、彼は子ども達の中で最も字が読めてしまうので、既につまらなく感じていた。
大人達が直に、何かしらを持ち寄って席に着き始める。
最近嗅ぎ慣れたこれは、グリルした色々な海鳥だが、あまり美味しくない。
と、思うのは自分だけなのか、他の皆は食べている。
しかし、それらが生んだ卵の料理は好きだった。
床にはどんどん大人の足が増えていくが、間には今朝、グリフィンと過ごしていたチビ達がいる。
小さい彼等は自分達と違い、夜に出歩く際は親と一緒に行動している。
彼等もまた、ここで食事を共にとるのだ。
「それなあに?」
「お酒。
あんたが大きくなった頃には、もう少し上手にできてるといいけどね」
竜舌蘭という、比較的乾燥した地に生息する植物が存在する。
様々な植物を見つけられるようになったのもまた、空島の女王リヴィアの影響だろう。
空島から帰還した際に共にやってきた彼女は、生活に欠かせない資材をくれ、これまで見かけた事のない鳥を呼び寄せた。
長老の体を少しばかり元気にさせたり、グリフィンを砂から復活させた。
また、カイルの額の大怪我も一瞬にして治した。
だがそれらの魔力が今でも持続していると言うより、その力が当時、一時的に働いた事で、環境の条件が整ったのだろうと大人達は話している。
ところで、その謎の植物だ。
先が尖った多肉質の葉をもち、中心から放射状に広がって生えている。
花が咲くとも言われているが、本当なのかと疑う程、咲かない。
茎から搾り取った汁が甘いのだとか。
それならば、子どもでも飲めるに決まってるだろう。
多種多様な植物が島で採れるようになってから、植物に詳しい仲間が1人、摂取が可能かどうかを日々懸命にテストしている。
植物を扱ってばかりの姿は野菜を触るようで、
野菜博士と勝手に呼んでいるが、その彼からも色々学んでいた。
根、茎、葉、芽、花と、1つの植物でも細かく分けるのは、口にできるか否かに関わるからだ。
皮膚に当てたり、汁を垂らす事で接触中毒テストをする。
その後、火を通して唇にあてて刺激が無いかを確かめる。
それから舌の上で確認し、何もなければ呑み込んで長時間待つ。
そのテストをクリアしたものを薬や食事に使うが、まだ誰1人、体に異常を来した事はない。
植物に詳しいのもまた、かっこいいものだと、呑気にテーブルの下で考えている。
しかしなかなか、それをやらせてはもらえない。
やるなと言われると、決まってやりたくなるのだが、こればかりは死にたくないのでやっていない。
そんな事より
「こりゃなんと…」
長老がいる。
いつの間に来たのか。
どうやら酒を飲んだのか、舌鼓を打つ様子からして、絶対に美味しいだろうと確信する。
耳をすませば、大人達の会話の間を縫うように聞こえる、液体が注がれる音。
「これ、オレンジピール入れたらちょっと変わるんじゃない?」
「まあでも、まだまだだぜ」
レックスとそのパートナーの声だ。
「テキーラは飲もうと思った事ないんだけど…」
「そんな度数高くないさ」
何だか最近、アリーとグリフィンがよく一緒にいるような気がする。
竜舌蘭とそのまま読む植物
テキーラの原料になるものだそうで
本編では英語読みでルビを打っています
1こだわりとして 人物のセリフにのみ英語読みルビを
打つようにしてみてますが
今回は私自身もアガベと読みたくて そう打ちました
因みにジェドが花を咲く事に疑いをもつ理由は
センチュリープラントとも呼ばれるもので
数十年に一度にしか咲かないからなんです
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代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します