(23)
人々は最悪な過去が脳裏を過る中、縋る様に僅かな高台に登った。
迫る波がどう呑み込むのか、大人達は身をもって知っている。
浅瀬に立ち上がった4人が手を繋いだまま慌てて浜に上がるところ、グリフィンと漁師達が迎えに駆けつけた。
急げと囃されながらも、フィオは遠くの浅瀬に集まるミラー族が気になって仕方がなかった。
高波が押し寄せると、シャンの眼光の指示を受けた危険鮫の群が、打ち上げられていたところを這い進んで海に消える。
シャンは更に、槍を低い位置で投擲した。
回転しながら突き進むそれは高波を突き破って消えると、海中に潜っていく。
槍から放たれる白銀の光を受けた蛸や糸海月、ロブスターに雲丹の集団が鋭利な眼光をコアに向けると、激しく浮上し始めた。
シャンの手に槍が戻ると同時に、コアの高さがまたしても下がる。
その反動で高波が僅かに引くも、島の家屋が半ば浸かるまで押し寄せた。
4人と漁師達は間一髪、互いの腕を取り合って波から免れる。
しかし、引いていく波と入れ替わるように現れたのは残っていた呪いの人魚だ。
フィオがそれに眼を見張ると、カイルとグレンが咄嗟に動いた。
続けて2体が浮上し、牙を剥きながら匍匐前進で襲撃にかかるところを3人が槍で立ち向かった。
「こ、殺さないで……殺さないでっ!」
慌てふためくフィオは遠くの浅瀬を見ると、そこでも、体を陸に対応させたミラー族達が、急に浮上した呪いの人魚数体に足止めを喰らっている。
彼等は鏡のブーメランを投げ、対面した人魚の復活に努めていた。
沖で繰り広げられるコアと海洋生物達の引き合いや、陸でのミラー族の争いというおどろおどろしい光景に、フィオの眼は一向に定まらない。
この時、彼女は視界の異変に気付く。
先程キューブで見た映像と同じ様に、辺りが歪んだり伸縮したりを繰り返した。
それが鬱陶しく、激しく首を振って取り払おうとする。
そうする内に、閉ざされた視界の奥で新たな映像を捉えた。
眼の奥に拡がる波紋は徐々に、多くの輝かしいミラー族が浅瀬に立つ姿を映し出した。
そこから一族の完全な再起を察したフィオは、目前で繰り広げられる争いを意識する。
瞼を開くと安定した視界に戻っていた。
フィオはふと冷静になると、両手をじっと眺める。
潜水してふやけた肌は、砂の様に細かい銀の光を放っていた。
飾りに多く触れた事で、体に何かが起きているのだろう。
そして、漁師達や3人が相手をする2体の人魚を見た。
もしこの手で彼等に触れたならば、復活させる事ができるのだろうか。
フィオは思い立つと同時に、呪いの人魚に向かって駆けた。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月19日完結
18時~ 投稿
・最終話
・作者あとがき
同日21時~ 次回連載作発表
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本シリーズは
代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
完全閉幕します




