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※1530字でお届けします。
揺れる白銀の水面に広く映し出される世界は、フィオが遠ざかる事や、ミラー族の力が乱れた事で再び現実の闇夜に戻ろうとしていた。
豪雨が止む気配はあらず、嵩張る黒い雲は、この事態を圧迫するように増幅し続けている。
そこに稲妻の如くコアの燻んだ仮面の光が這った。
コアは解放した手で、纏わりつく鏡の鎖や鏡の墨の塊を一気に払い除けると、朱い眼光を浮かべながら一帯を嗤う。
「遺る異質は我手に……その血は河川を流れ、大海へ……核に返り、広大に根を張る……一新した血で脈打つこの地球に……一切の穢れはあらん……」
不敵な笑みとともに緩やかに放たれると、コアの両手が大きく広がる。
腹に蠢く騒音や声の数々は、燻んだ灰色の光に変わっていく。
不快な音は雨粒をも震わせ、弾き飛ばした。
音の波は大気に迸り、人々の鼓膜すら刺激する。
ミラー族もまた、耳を塞ぐのがやっとだった。
体内に流れる異音は胸を締めつけ、苦痛の声が上がる。
これを味わうコアは大いに呵い、愉しむと、腹の光を一纏めにして球体を作り始めた。
その動きが地震を引き起こすと、周囲の悲鳴が更に動力に変わり、いよいよ宙に浮かび上がろうとする。
4人は荒波に堪えきれず、とうとう海中に攫われてしまう。
その時、薄目を開いたジェドが、自分達を一周して消え去るシャンの槍を捉えた。
白銀の光の尾は瞬く間に消滅すると、地震とはまた別の振動を瞬時に感じ取る。
何かを捉えるよりも先に、4人は足元から一気に海面に浮上した。
大きく息を吸い込むと、どうにか鏡の背鰭を掴んで体勢を整える。
4人を乗せた鯱達の速度は目まぐるしく、波に抗いながら東の島へ泳ぎ続けた。
コアは遠ざかる4人に赤い眼光を向けると、腹で作り上げた濁った球体を両手に取る。
その周りには、黒い稲光が乱雑に走り続けていた。
打たせるまいと動いたシャンディアに、再起した仲間が続く。
彼等が両腕を操って出現させたのは鏡の結界だ。
一族の後方に頬白鮫と浮上したシャンは、戻った槍を掴むと2本を交差させて宙に巨大な十字を切る。
放たれた白銀の刃はコアを阻もうとする鏡の帳を越え、目標の球体に命中した。
しかし砕かれた球体は、コアの組み直した手によって復旧の速度を上げていく。
仲間の力が合わさる事で、立ちはだかる鏡の結界も素早いものだった。
その厚みもまた、コアの腹に蠢く騒音をより圧縮していく様だ。
緩やかに湾曲した長方形の鏡がみるみる増え、厚く重なると円柱の様にコアを取り囲んでいく。
銀の射光が幾多も奔り、滑らかな鏡の結界が形を成すと、みるみる収縮していった。
圧迫感に襲われるコアの体は、更に真下から引かれて傾いた。
再び体に絡まるのは、シャンによる鏡の鎖だ。
そこに強靭な腕力と吸着力を奮い立たせる鏡のロブスターと蛸が加わる。
尖る眼光を鏡の甲殻や吸盤に反射させ、コアの眼を眩まそうとしていた。
しかしどういう訳か、コアは海洋生物やミラー族に抗う事をしない。
そのまま海中に引き込まれてやるつもりかと思いきや、静かに哂い始める。
一時砕かれた異音の球体が、半ばまで沈んだ体から浮かび上がった。
そのまま片手で宙に掲げると、攻撃をしかける海の戦士達の頭上に狙いを定める。
麓の彼等が1つ瞬いた時、辺りは静音に包まれた。
寸秒、時が止まったと疑わせる攻撃は、真下の海の戦士達諸共打ち叩き、隔てられた鏡の帳ごと宙に飛散させる。
遅れて太い水柱と飛沫が滝の如く上がって漸く、時が追いついたかの様な感覚に陥れた。
その風圧が引き起こす高波に、誰が抗えただろう。
迫る大波が水面を山の様に盛り上がらせ、4人を運んでいた鯱の群を散り散りにしてしまった。
ミラー族は、煌びやかな横殴りの豪雨に混じりながら宙を舞い、東の島に向かって一直線に吹き飛ばされていく。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月19日完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




