表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* 大海の冒険者~人魚の伝説~  作者: terra.
第十二話 断
175/187

(20)



※1530字でお届けします。







 揺れる白銀の水面に広く映し出される世界は、フィオが遠ざかる事や、ミラー族の力が乱れた事で再び現実の闇夜に戻ろうとしていた。

豪雨が止む気配はあらず、嵩張る黒い雲は、この事態を圧迫するように増幅し続けている。

そこに稲妻の如くコアの燻んだ仮面の光が這った。




 コアは解放した手で、纏わりつく鏡の鎖や鏡の墨の塊を一気に払い除けると、(あか)い眼光を浮かべながら一帯を嗤う。




「遺る異質は我手に……その血は河川を流れ、大海へ……核に返り、広大に根を張る……一新した血で脈打つこの地球(ほし)に……一切の穢れはあらん……」




不敵な笑みとともに緩やかに放たれると、コアの両手が大きく広がる。

腹に蠢く騒音や声の数々は、燻んだ灰色の光に変わっていく。

不快な音は雨粒をも震わせ、弾き飛ばした。

音の波は大気に迸り、人々の鼓膜すら刺激する。

ミラー族もまた、耳を塞ぐのがやっとだった。

体内に流れる異音は胸を締めつけ、苦痛の声が上がる。




 これを味わうコアは大いに呵い、愉しむと、腹の光を一纏めにして球体を作り始めた。

その動きが地震を引き起こすと、周囲の悲鳴が更に動力に変わり、いよいよ宙に浮かび上がろうとする。




 4人は荒波に堪えきれず、とうとう海中に攫われてしまう。

その時、薄目を開いたジェドが、自分達を一周して消え去るシャンの槍を捉えた。

白銀の光の尾は瞬く間に消滅すると、地震とはまた別の振動を瞬時に感じ取る。




 何かを捉えるよりも先に、4人は足元から一気に海面に浮上した。

大きく息を吸い込むと、どうにか鏡の背鰭を掴んで体勢を整える。

4人を乗せた(シャチ)達の速度は目まぐるしく、波に抗いながら東の島へ泳ぎ続けた。




 コアは遠ざかる4人に赤い眼光を向けると、腹で作り上げた濁った球体を両手に取る。

その周りには、黒い稲光が乱雑に走り続けていた。




 打たせるまいと動いたシャンディアに、再起した仲間が続く。

彼等が両腕を操って出現させたのは鏡の結界だ。




 一族の後方に頬白鮫(ホオジロザメ)と浮上したシャンは、戻った槍を掴むと2本を交差させて宙に巨大な十字を切る。

放たれた白銀の刃はコアを阻もうとする鏡の帳を越え、目標の球体に命中した。

しかし砕かれた球体は、コアの組み直した手によって復旧の速度を上げていく。




 仲間の力が合わさる事で、立ちはだかる鏡の結界も素早いものだった。

その厚みもまた、コアの腹に蠢く騒音をより圧縮していく様だ。

緩やかに湾曲した長方形の鏡がみるみる増え、厚く重なると円柱の様にコアを取り囲んでいく。

銀の射光が幾多も(はし)り、滑らかな鏡の結界が形を成すと、みるみる収縮していった。




 圧迫感に襲われるコアの体は、更に真下から引かれて傾いた。

再び体に絡まるのは、シャンによる鏡の鎖だ。

そこに強靭な腕力と吸着力を奮い立たせる鏡のロブスターと蛸が加わる。

尖る眼光を鏡の甲殻や吸盤に反射させ、コアの眼を眩まそうとしていた。




 しかしどういう訳か、コアは海洋生物やミラー族に抗う事をしない。

そのまま海中に引き込まれてやるつもりかと思いきや、静かに哂い始める。

一時砕かれた異音の球体が、半ばまで沈んだ体から浮かび上がった。

そのまま片手で宙に掲げると、攻撃をしかける海の戦士達の頭上に狙いを定める。




 麓の彼等が1つ瞬いた時、辺りは静音に包まれた。

寸秒、時が止まったと疑わせる攻撃は、真下の海の戦士達諸共打ち叩き、隔てられた鏡の帳ごと宙に飛散させる。

遅れて太い水柱と飛沫(しぶき)が滝の如く上がって(ようや)く、時が追いついたかの様な感覚に陥れた。




 その風圧が引き起こす高波に、誰が抗えただろう。

迫る大波が水面を山の様に盛り上がらせ、4人を運んでいた鯱の群を散り散りにしてしまった。

ミラー族は、煌びやかな横殴りの豪雨に混じりながら宙を舞い、東の島に向かって一直線に吹き飛ばされていく。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月19日完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ