(8)
「2人はどうやら、一仕事終えたようだな。
今日もまた、助かった」
ジェドとシェナの影を捉え、グリフィンが呟いた時
「なあ。
教えるのは別に、漁をしてからでもやれるだろ」
ビクターが遠くの2人の姿に目を向けながら、怪訝な顔で言う。
グリフィンは1度も漁に出た事がなく、授業や陸での作業ばかりしている。
体格も良く、他にも知識を持っているというのに、納得がいかない。
また同じ話をしてくる。
グリフィンは小さく面白がると、窓枠に両腕を預けた。
「ああ悪いな。
酷い海水恐怖症で、こりゃ不死の病だ。
勘弁してくれ」
ビクターは眉間に深く皺を寄せ、振り返る。
彼がそう言うのは無理もない。
何故なら、彼が空島に昇ってしまったあの日、魔女による恐ろしい呪いで海底に漁船ごと沈められ、閉じ込められていたのだから。
その上、4人が空島に上昇する直前、漁船で砂にされてしまった。
そんな思い出ばかりがまだ蘇る今、海には極力出たくない。
「何だよそれ。
そんなもん、慣れりゃいいだろ」
「ほう?良い事言うじゃないか。
だったら君も、慣れりゃいいんじゃないか?
俺も、努力するよ」
言いながらグリフィンは、親指で後方を指差す。
見るとそこには、懸命に文字や絵画に取り組むチビ達や、フィオがいる。
彼女がその視線に気付き、忙しなく手招きしたが、直ぐさまそっぽを向いた。
「ねえーーえーーー!見てこれ!見て見て!」
漁から戻った2人が走ってくる。
シェナの声を聞きつけ、窓から顔を出した子ども達は、彼女が宙に揺らすものに釘付けだ。
「何それ!?」
「きれー!」
「みして!」
「かせよ!」
「さわらして!」
どこもかしこも水浸しの2人が土産に持ってきたのは、シェナが漁船で頭に当てていた棘のある銀の飾りだ。
「随分尖ってるな…」
グリフィンがまじまじと見ながら言う。
改めてみると、中央も鋭い突起が複数集まり、非常に立体的だ。
「ぎんぎらウニの、おほししゃま」
リサがそれ欲しさに、必死で小さな体を窓から伸ばしている。
「危ないわよ。
あたしさっき、指を突いちゃった」
シェナは言いながら、その指先を見せる。
大した事はないが、まるで針で突いたような怪我で、少々血が滲んでいる。
「長老様に見せてみたらどうだ?」
グリフィンの提案を咄嗟に否定したのはジェドだ。
「だーーーダメダメ。じいちゃんはすぐ取っちまう」
この大海原には瓦礫だけでなく、沢山の遺品も眠っていると長老は言う。
目の前にあるその不思議な美しい何かも、きっと嘗ての誰かの宝だったのではないか。
「とか言ってさ、気ぃつけろだの触んなだの言うんだぜ?
別に、見つけた奴のもんでいーだろ」
「じゃああたしのものね」
「網を上げたのは俺だ」
「あんた1人で上げたみたいに言ってんじゃないわ!」
「ああでもレックス達はいらねぇって言ってた」
「あそう。で?あんたが持っててどうすんの」
「「「……………………」」」
その隙に、ビクターは目の前にあったそれを、シェナから奪ってやる。
彼の手に渡れば窓辺のチビ達やフィオにも近くなり、皆が目を輝かせた。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します