(8)
雲丹は4人の前で止まると、一舐めするように眼を這わせ、フィオを凝視する。
睫毛の棘が器用に上下する奥に光る鏡の瞳は、不思議な事に、火を眺める時のように安心をくれた。
奇妙とはいえ、フィオは顔を背けずに見つめ返す。
気泡が弾ける音だけの中、立ち去る様子のない雲丹は、これまで対面してきた者達とは違って随分と調べ事をしているようだ。
「こんにちは……」
フィオが恐る恐る手を差し出すと、シャンディアが慌てて傍に寄る。
「棘には毒がある」
それには納得だ。
魚を学ぶ際に、真っ先に教わったのだから。
しかし雲丹は、フィオの手を取る事なく引き下がり、ゆっくりと下を向く。
落ち込んでしまったのかと思いきや、じわじわと顔を上げた。
長くかかったその動作は頷いたというよりも、食事前にする祈りのようだった。
雲丹と見つめ合いが続くも、感情が読み取れない。
激しく棘を放った者とは思えない程に静かだ、と思えば漸く動作を見せ始める。
雲丹は前傾になると上体を折り曲げ、みるみる内側に入り込むように丸くなった。
危害を加えないと分かりながらも、4人はなかなか生物達の動きや姿に慣れなかった。
不気味な変化に肌が粟立ち、見開いてしまう目はいい加減落ちそうになる。
「あ」
無意識にビクターとジェドを盾にしていたシェナが、変わりゆく雲丹を間から見て声を漏らす。
雲丹は大きさをそのままに、すっかり見慣れている姿になった。
「「……雲丹」」
4人の重なる声を気にする事なく、そのままのろのろと砂煙を立てて行ってしまう。
「何で頭を下げたの?」
その場が静まると、シェナがシャンディアの背に向かって訊ねた。
しかし返答が無い。
これまで特徴を話してくれていた彼女の表情はどこか険しく、靡く髪はまるでその様子を隠すようだ。
「ねぇえ、何で?」
シェナはジェドにも訊ねてみるが、彼も今回は肩を竦める。
フィオは不思議な気持ちを抑えきれない中、一点を見つめて考えてみるも、分からなかった。
「……来て。もう直ぐよ」
シャンディアは再び4人の手を引き、先を急いだ。
向かい風のように水流を受け、勝手に瞼が下がっていく。
互いの握力は、水圧で限界にきていた。
その時、シャンディアの泳ぐ速度が緩やかになる。
瞼が楽になり、体が軽くなった。
だがホッとするのも束の間、4人は大きく身震いする。
西の海に潜った時の海底を思い出させるここは、急な水温の低下を感じた。
先程までの明るさはどこへやら。
美しい空間だったというのに、すっかりこの場の闇に呑まれてしまっている。
なだらかに傾斜する砂地を目で追うと、広く凹んでいる事が分かった。
それを察するなり、4人は視界に飛び込んだ光景に息をのむ。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




