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※少々不気味な挿絵が登場します
「急いでっ……!」
シャンディアに異変が起き始めている。
このために温存してきた力が尽きかけているのが、辺りの光の減少を見れば明らかだ。
「シェナ掴まって!」
船縁に登ったフィオが、彼女の背中の生地を引っ張って補助する。
見るに堪えないカイルは、怖がって体が上手く上げられないシェナに駆け寄ると、船縁に乗せた。
「シェナ見てごらん、こっち見てみろ」
カイルは、半ば泣き顔をするシェナに額を当てて抱き寄せる。
「お前は勇敢だ、そうだろ?
助けてやれる。そうしてきた。次も絶対やれる」
「閉じちまう!」
ジェドが叫ぶと、カイルはシェナから離れ、笑った。
「友達を守れるのはお前だけだ。フィオを頼む。
こっちは任せろ」
4人は漸くそこに立つと、カイルから、背後の仲間達に視線を送り、頷く。
ビクターは、隣のジェドの腕を取った。
ただ手を繋ぐだけでは逸れるだろうと、肘から掴んで固定し合う。
それに合わせてジェドからシェナ、フィオと繋がった。
変わらず、自然と証明されたリーダーは今、最長に伸ばした槍を握る。
鏡の水面の反射光が増した。
白銀の光と靄の中、船縁に立つ4つの勇ましい影が聳える。
行くな――
大人達は、今にも引き戻したい衝動に駆られ、前に出てしまう。
魔力で掻き立てられる激しい波音に、声は搔き消されていく。
その間、互いで合図を決めたのだろう。
4人の蹴り足は、同時だった。
大人達は最早、眩さも忘れて船縁から手を伸ばす。
だが、それは容赦なく弾かれた。
傾いた漁船は激しく水平に戻り、皆の体勢が崩れる。
シャンディアは大穴に消えた4人を見届けると、入り口の中央に移動し、漁船に向いた。
そして、鏡の双眼を閉じると共に、両手を胸の前に柔らかく運んでいく。
それに合わせ、明々と照らす光の波が、次第に彼女の方へ収束する。
止まない叫び声の中、終わりなき様を見せる合わせ鏡の路は、シャンディアの手が組まれると同時に閉ざされた。
心してお出かけを 行ってらっしゃいませ
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
9月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




