(5)
漸く目覚めたビクターは、辺りを呆然と見渡した。
真っ暗で、木材と潮の匂いが立ち込める、温かいいつもの家。
どこにも、霞んだ白い世界は無い。
「来ないと思ったら、まだ寝てたの?
もう漁船戻ってきたわよ。大寝坊ね!
グリフィンが呼んでる」
「え…ああ………うん……」
まだ、現実と夢の狭間にいるようだ。
こんなに不思議な夢を見た事はない。
霞んだ世界ではあったが、明確に記憶している事に驚く。
それに夢では気付かなかったが、ふと、首元に触れる。
何かがここにあった気がしたが、見てみると別に、いつも通り何もない。
「早く。白湯も作ってないの?
火、起こすから着替えて!皆、勉強始めてるわよ」
「……………勉強!?」
嫌な響きにビクターは項垂れる。
グリフィンと出会い、共に暮らすようになってから始まった、読み書きや絵画の時間。
この島にはまだ別に、4人の幼い子どもがいる。
空島へ旅立った4人とどこか重なる彼等もまた、大人達が目を光らせる対象だ。
しかし、ここのところ開かれた新しい習慣である授業が気に入っているのか、小さな彼等に危険行動は特に見受けられない。
フィオは、すっかり火力を失くしてしまった炭に息を吹きかけ、端に積んでいた薪を足す。
直に炎が揺れ始め、上に吊り下げる鍋に蒸留して集めた水を注いだ。
後は沸騰するのを待つだけだ。
「早く。本作らないとなんだから」
フィオはドアを激しく開け放ったまま、あっさり飛び出していった。
ビクターは活発で、行動派だ。
だがその一方、空島でグリフィンの本を解読した頭脳派のジェドに比べ、勉強に精が出ない。
どうも違う事に気を取られてしまい、いつも髪をくしゃくしゃと弄って余所見をする。
漁に出ている間が、最も気楽だった。
だが、小さな頃の自分とは違い、島の子どもの中で最年長。
その自覚はあり、新しい習慣に参加しない選択はない。
寝床から抜け出ると、白湯が出来上がるのを待ちながら着替える。
にしても不思議な夢だったと、火の粉を上げ始めた炎にその記憶を重ね、再び思い出していた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します